第6話 迷宮探索
エナジードレイン対策の道具は、吸血コウモリの素材、
ナっちゃんお勧めの幾つかの本を速読した後、出かける旨をナっちゃんに言うと驚かれた。
「こんな短時間であれらを読んだのですか? いくらなんでも信じられません!」
「俺、元々、本は好きだし速読も出来るんだよ」
「そんな技術が存在することは知りませんでした。ナっちゃん不覚です・・・・・・いいでしょう、それならばシンは早速迷宮に潜って、吸血コウモリに無い血を吸われてくれば良いです」
なんだろう、毒舌というか、もしかしてこれって照れ隠し? ツンデレ!?
その後、ナっちゃんに色々と教えられた俺は、居住フロアの転移陣を踏むと、ナっちゃんの操作によって
本来は迷宮内の仕掛けを解く事によって、攻略済みの階から1階まで戻れるのが各階の転移陣である。俺は
どうせなら絶対に攻略出来ないように登ってこられないようにした方が防犯上は安全なのだが、それをナっちゃんに聞くと思わぬ回答が帰ってきた。
「必ず出入り口が無いと、家と認められないので家妖精が住めないのです」
逆に、家妖精を必要としなければ、完全引きこもり生活を安全にすることは可能なのだが、その場合は高位霊命体に届くような研究が進むはずも無く、神々の妨害すら無くなってしまうそうであるが。
そんな訳で、迷宮は必ず最奥まで到達出来るように作られているらしい。
俺は8階の転移陣を踏み出して通路を歩き出した。
これまでに勉強した知識をおさらいすると。
迷宮内には主に3系統のモンスターが居る。一つは獣や亜人等の生物系。これらは、迷宮の魔素溜まりが外部の魔素溜まりとランダムに繋がり、外部からモンスターを呼び込むのだそうだ。スライム等はそうした状況の元、迷宮内で繁殖して生態系を築いている。また、まれに人間も飲み込まれてくるそうで、そういったケースは無事に保護される事はほとんど無く、迷宮内で餌にされるか、魔素に浸食されて魔人になってしまうのか、だそうな。
二つ目はそういった生物系のなれの果て、死霊・死体の不死生物系。魔素によって霊魂が変質してしまうと、この系統になってしまうらしい。暖かい肉体を喰らって腐りゆく身体を維持しようとするゾンビ、生者をとにかく殺すべく動く物に襲いかかるグール、この世への未練と嫉妬で生者を殺そうとするゴースト、霊魂のエネルギーを吸収しようとするレイス等。
三つ目はゴーレム等の魔法生物系。これは迷宮が、正確にはナっちゃんが用意したもので迷宮内の防衛や清掃を行う。ただし、現在配置されている魔法生物系はラウィーネルスタンを主として登録されており、それは彼の霊魂パターンを登録しているのだそうだ。それゆえに、俺に対しては侵入者として排除にくるらしい。
そんな訳で、一応ラウィーネルスタンの後継者見込みの俺は、迷宮内のモンスターに特にひいきされることも無く、出会ったら即、襲われる状態である。身体は物理無効というチート状態だが、霊体に影響力のある敵だけは気をつけろとナっちゃんに言われている。
もっとも、俺としては物理無効のアドバンテージのあるうちに、実戦経験を積んでおこうと考えているのだが。
俺が通路を進むと、しばらくして前方に目的のモンスターが現れた。
天井から逆さまにぶら下がったコウモリ。しかし胴体の大きさは猫くらいある、大型のコウモリが2体だ。
この8階で狙うのはこの吸血コウモリだ。こいつの牙と皮膜がエナジードレイン対策の道具の材料として必要なのである。
向こうは既にこちらに気付いており、俺が生物かアンデッドかの区別が付かない程度の知能しかない為、翼膜を広げてこちらを威嚇している。
契約印一覧で確認した、俺の身体のシンボルの一つに狩人神エシュケルのものがある。俺はエシュケルの印を元に、魔法の矢を4本発現させた。
イメージだけで現れた魔法の矢は、オレンジ色の光跡を一瞬煌めかせて吸血コウモリ1体につき2本づつ、奴らの頭と胴に突き刺さり、床に墜落させる。
あっけねぇ! 強いな!
詠唱も要らず魔力消費も大したものではない。ゲームみたいにマジックポイントが判るわけでは無いが、魔法を使う際は周囲の魔素と自身の中の魔力を使うらしい。自分の魔力量は経験を積んで理解するしかないらしいが、とりあえず今の4倍発動でも、全然疲労感は無かった。
初めての戦闘と圧勝に高揚感が高まっていた俺は、そのまま死骸から牙と翼膜を切り取り始める。解体用の手袋をはめ、ナイフで切り取る作業はともすればグロい。こういう時は心を無にするのだ。仕事をこなす機械のつもりになって魚の内臓を捌いた記憶を思い出しながら、俺はコウモリを捌いていった。
ようやく剥ぎ取りが終わる頃、前方の通路から、複数の足音が聞こえてくる。ランタンの灯りも見え、向こうもこちらの杖の灯りが見えているだろう。さて、おそらく敵だろうが奴らは何者だろうか?
足音が止まり、向こうはこちらを視認したようだ。うずくまって吸血コウモリを解体している、ローブに身を包んだ骸骨っぽい、俺を。
「人か? 魔術師? いや、アンデッドか!?」
どうみても怪しさ大爆発な俺です。
俺も彼らを見たが、そこには皮鎧を着込んだ下卑た髭面の、いかにも盗賊っぽい男達が4人身構えていた。
「お前ら、ミユの村を襲ったと言う盗賊団か?」
俺の言葉に、4人組の表情に敵愾心が強くなった。黙って語らずに居れば、奴らはアンデッドへの恐怖が強くなっていたであろう。しかし、俺が普通の、生者の言葉を口にしたことによって、彼らには俺がアンデッドである事よりも、単なる獲物や敵としての認識が強くなったのだ。
「お前、あのガキ知ってるのか! どこへやった!?」
短剣を抜き、恐喝するかのような口調で俺へ質問する男達。
「あの子は俺が保護した。お前達には渡さん」
俺は立ち上がり、杖の中程を握って水平真一文字になるように構える。
ならば、死ねっ! と襲いかかってくる盗賊団。
一人目の刺突を杖で左になぎ払い、相手の身体が流れた所を石突きで腹を突く。続いて二人目の刺突を右へ打ち据え、杖を引き戻しながら相手の頭を打ち据えた。
三人目が来る前に俺はバックして杖を構え直す。
これでも子供時代は喧嘩にあけくれた時期があった。スポーツでやっていたのは柔道とバスケ。判断力と体裁きと視野の広さには自信があったが、杖を浸かった戦闘訓練をしていない身ではこの辺が限度のようだ。理想のイメージは今の二撃を急所に決めて、三人目の攻撃を受け流す形にしたかったのだが、今はこれが精一杯だな。
自分の能力の確認を終えたところで、現実的な処理をする事にしよう。
「雷精ゼオスよ、雷耐性を我に与え給え。我が杖に雷電常に纏い付かせ給え」
雷精ゼオスの印もまた身体に残っているうちの一つだ。杖に電撃を纏わせ、自分は痺れずにすむように耐性をつける。馬鹿でかいスタンロッドのように杖を振るえば、触れるだけでも敵にはダメージを与えられる。
1分後には、俺は4人の盗賊を打ち据えていた。倒れ伏す男の背中を踏んづけて尋問する。当然エナジードレイン持続中だ。
「お前達、何の為にミユの村を襲った?」
「へっ! 盗賊なんだ、当たり前だろ」
弱々しくも不敵に答える男。まぁ、この質問の答えは予想済みだ。本題はこれからだ。
「盗賊団の名前は?」
「“暁の暴風”だ」
「拠点はどこだ? リーダーの名前は?」
「・・・・・・」
やはり言わないか。後々、ミユが仇を取りたいと言ったときのために情報収集をしておこうと思ったのだ。俺は電撃を纏った杖を男の尻に当てる。苦悶する男。
「もう一度聞く。拠点はどこだ? リーダーの名前は?」
「助けてくれ・・・・・・」
「答えれば命まで取ろうとは思わない。ただし、俺の身体は常時エナジードレインを発生させている。早く答えなければどんどんお前らの生命力は失われていくぞ」
この言葉に観念したのか、男は話し出した。
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