第5話 冒険者修行の始まり
ミユが目を覚ますと、そこはどこかの宿屋のような場所であった。自分の身体はベッドの上に横たわっている。隣にもう一つ使われていないベッドがあって、高級な2人用の寝室に寝かされていたのだと判る。
盗賊達に再び捕まったのかとも思ったが、それならば自分はもっと酷いことになってるだろう。それに、最後に覚えている記憶は落とし穴に落ちたことだ。
そう考えているミユの前に、不意に小さな少女が現れた。草色の半ズボンに草色のチョッキ姿の茶髪の幼女だ。素肌にチョッキでへそが見える姿にちょっと引くミユ。
「気がついたようですね。私は
「家妖精・・・・・・初めて見ました。私はミユと言います」
「ミユ、ですね。ここをラウィーネルスタンの
ミユはナギウスの言葉に驚いた。ラウィーネルスタンなんて、おとぎ話で聞いた名前だったからだ。大魔法使いの1人として有名ではないか。
「私は、盗賊団に村を襲われて、誘拐されたんです。荷馬車から逃れて無我夢中で走ったら塔の扉が見えたので見張り塔かと思って」
「なるほど。そういうことでしたか。ミユが普通にこの塔を攻略に来たのであれば決して助けることは無かったのですが、どうにも様子が違うと思ったので、ナっちゃんは
ナギウスの言葉に、ミユはホッとする。
ミユがそう考えたのは当然であるが、残念ながら実際には幾分事情が異なる。ミユがそれを知るのはこれからになるのだが。
「あの! ラウィーネルスタンさんに直接、お礼を言いたいんですけど。それと、私をここに置いては頂けませんか?! 何でもします! 帰るところもないんです、お願いしますっ!」
必死に頭を下げるミユに見せたナギウスの表情は不機嫌なものであった。
「家妖精はその人が居るべき場所を創り出した時、祝福するのです。ミユは自分を保護して欲しいだけでしょう? それに、ナっちゃんが居る限り、実際にここに居てもミユは何も役に立てません。居場所を作れない者なんて搾取するだけで、家妖精にとっては泥棒と変わりありません。盗賊団が居なくなる頃にはさっさと出て行きやがれ、です」
「そんな! そこをなんとか、置いて頂けませんか!? なんでもやります。お願いです!」
故郷の村を滅ぼされ天涯孤独になったミユにしてみれば、外に出ても1人で生きていくことは難しい。このような事例の場合、冒険者になるかスラムに落ち着くか。何の技術も財産も無く裸一貫からまともな仕事について生活出来る見込みは皆無なのだ。
「
ミユはナギウスの言葉に驚き、怯んでしまうが。しかし、再びその瞳に強い意志を宿らせ、ナギウスを見つめ返した。
「お礼だけでも言わせてください。お願いします!」
ナギウスは予想外のミユの強い瞳に、その評価を少し改めた。礼節と強い意志を秘めている事は好ましい。自らの道を切り開こうとする意思は、居場所を作る事につながる。それは、家妖精の好むものであるからだ。
「判りましたです。シンが会うかどうか、聞いてきますです」
ナギウスはシンの居る書斎へ向かった。
勉強をしていた俺が気付くと、書斎に入ってきたナっちゃんが機嫌の悪そうな顔で口を開く。
「やっぱり面倒な事になったです。あの子の名前はミユ。盗賊団に村を滅ぼされて誘拐された途中で逃げ出してきたようです。シンに直接会ってお礼がしたい、と。それから、出来ればここに置いて欲しいそうです」
「ここに住まわせて良いの? 俺が聞ける立場じゃないと思うが」
「居場所を作る努力をしない居候は家妖精がもっとも嫌うものです。正直、ナっちゃんがいれば塔の中の管理もシンのお世話も全部済みますです」
なるほど、家妖精の存在意義に反する居候は嫌いな訳だ。かといって、そのミユって子に何が出来るのか? それと、訳ありな未成年を簡単に外に放り出したくない思いもある。
「そのミユって子が冒険者としての技能を身につけるまでここに置くってのはどうだ? 迷宮内で集める必要のある素材は、いずれ俺が取りに行かなければならないんだろう? それなら、素材を集める冒険者的な仕事は需要があるし、いずれ俺が迷宮探索をするにしても、新しい身体を得るにしても、身近に冒険者が居るのはありがたいけどな」
家妖精の力で素材をダンジョンコアから引き出すことは出来ないらしい。だから、俺が新しい身体を手に入れるためにも、その素材集めの為には俺自身がこの迷宮内を歩けるだけの力を身につける必要がある。その時に、冒険者としてミユが成長して組んでくれるのなら俺としても助かるんだが。
「それなら確かに意味があるのです。ただし、シンとナっちゃん以外の人物が居るためには、一つ問題があるのです」
「それは?」
「
つまり、問題があるのは俺か・・・・・・ナっちゃんの言うとおり、やっぱり面倒くさい事になったな。
ナっちゃんは幾つかの本を書棚から取り出してベッドの上に置いた。
「これらに魔導具作りの事が書かれています。面倒毎に首を突っ込むシンはさっさとこれらを読んで苦労すれば良いです」
応援してくれているのか毒突いているだけなのか・・・・・・俺はそれらを優先して学ぶことにするが、とりあえずはミユと会うことにした。
書斎の一番奥の壁に立った俺は、ナっちゃんに連れられてミユが入ってくるのを見ていた。と言うのも、エナジードレイン対策として書斎入り口との立ち位置を考えるとこうなってしまうのだ。
恐る恐る入ってきたミユは俺を見るなり、驚愕と恐怖に顔を歪ませる。それはそうだろう。なんてったってアーンデッド! 骸骨に近い顔に虚ろな眼、これで怖がらない奴は早々居ないはず。むしろ
「初めまして、ミユ。俺はシン。訳あってこんなアンデッド姿だが、いずれは普通の身体を取り戻したい、中身は普通の男だよ。現在、絶賛魔法の勉強中ってとこだ」
俺の砕けた口調が緊張を解いたのか、ミユの表情から堅さが抜ける。ミユは俺に一礼して言った。
「助けてくれてありがとうございます。私はミユと言います」
「ナっちゃんから聞いたと思うけど、冒険者目指してここで修行するって、どうかな?」
「やらせてください。何処まで出来るか判りませんが、私にはそれしか道がなさそうですし」
「よし。ならば俺達はこれから冒険者仲間って事になる。まだお互いに冒険者にも成れてないけどな」
俺は苦笑したが、骸骨顔はおそらく不気味にケケケとしか笑えてないのだろう。ミユの顔が微妙に引きつっている。
「とりあえずミユの訓練はナっちゃんに任せる。当面は部屋の中で本を読んだり身体を動かしてくれ。その間に、俺はこっちの問題を片付けるから」
「そっちの問題?」
首をかしげるミユに答える。
「俺のエナジードレイン対策をしないと、この部屋をミユは自由に動けないし、一緒に冒険することも出来ないのさ。なるべく早く片付けるから。そうすればミユもここで魔法の勉強が自由に出来るようになる。身体を鍛えるのも大事だが、魔法も使えるに越したことは無いだろう?」
俺の説明にミユは納得し、改めてありがとうと頭を下げてきた。気にしないでくれ、女子の前で格好付けたいのは男の
こうして、俺は予定よりも少し早い迷宮探索に出かけることを決めたのである。
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