第3話

「いったい、なんだったんだよ・・・・・・くそっ!」

 どこをどう走ったのか覚えていないが、蒼弥はなんとか自宅の一人暮らしをしているアパートに入り、しっかりと鍵を掛けると、汗だくになった学生服を脱ぎ捨てると、まっすぐシャワーへと向かった。

蛇口捻り、冷たい水を蒼弥は頭からかぶり、混乱した頭と火照った体を冷やした。水を浴びながら蒼弥は今日起こった出来事を反芻した。

『あれはたしかにUFOだった。あの浴びせられた光線はいったい?なんで落下したんだ?UFOが墜落した現場で襲われた理由は?』

 さっき起こった様々な出来事が頭の中に飛来しては消えていく。そして、蒼弥の思考は自分の襲われた理由を考えることに収束していく。

「UFOの存在を知られたくない組織とか?」

 頭の中に浮かんできた妄想を口に出してみるが、口に出してみて非現実っぽさに苦笑が漏れた。だが考えれば考えるほどにそれが一番筋が通っていると思ってしまう。

 ガタっ!ガタタタッ!

「な!なんだっ!」

 唐突に聞こえてきた部屋からの物音に蒼弥の思考は中断され、現実世界に引き戻された。

 慌てながらも、ユニットバスの扉へ耳を押しつけ、外の様子を探ってみる。

『まさか、さっきの奴?だけど一体どこから?玄関の扉の鍵は確かに閉めた!!窓から?だけどガラスが割れたような音は聞こえなかった』

 相手にこちらが気づいたのを悟られたくないため、シャワーを止めずにいたが、その音に邪魔され外の音が聞き取りずらい……が、しばらく経ってそんなことは関係無くなった。

 タッ、タッ、タッといった足音を忍ばせる気配の無い規則的な足音が蒼弥のいるユニットバスに近づいてきたのだ。

「やばっ」

 アパートの中はそんなに広くは無い、キッチンとリビングがあり、玄関近くにユニットバスがあるだけの簡単な間取りだ。数秒と経たずにユニットバスにたどり着くだろう。

「逃げられるところは……」

 まわりを見回すが、ユニットバス内には窓はなく、天井に小さな換気扇が取り付けられているだけで人が逃げられる場所はどこにもなかった。

 足音はすでにリビングを抜け、ユニットバスとの間にあるキッチンを歩きまっすぐこちらへと向かっている。

『ユニットバスから抜け出して、一気に玄関から飛び出すか?いや、そんなことしたら変態として即通報だろ、それに相手が銃を持っていたら鍵を開けようとしている間に撃たれる……だったら……』

「こうなりゃ、イチかバチかだ!」

 蒼弥は相手がユニットバスの前まで来た瞬間に相手の不意をついて飛び出すことを決意する。

 タッ、タッ、タッ、トッ!

『止まった!!』

 相手がユニットバスの前で止まったのを感じると、蒼弥は勢い良くユニットバスの扉を開けた。

「うおぉぉ!」

 立ち止まったと思われる相手に向かって決死の体当たりをする。そのまま勢い余ってもつれあうように廊下を転がりながら、なんとか相手の上に馬乗りとなる。

「どうだ!まいった……か…………?」

 相手を押さえつけ、改めて相手の姿を確認すると蒼弥の思考は停止した。

 相手は蒼弥と同じくらいの年頃の超が付くほど美人の金髪の少女だった。なぜか蒼弥がどこかで買ってきた『オレ、宇宙人!!』と大きくプリントされたTシャツを着ているが、全くの丸腰だった。

「うぅ……」

 蒼弥の下で少女が苦しげに呻いた。

「す、すまん……」

 慌てて蒼弥が少女から飛び退く。

「ひどい歓迎のされようじゃ……遠く何光年も離れた場所から来たというに、こんなひどい歓迎を受けるとは思ってもみなかった……」

 少女はもつれあったときに頭でも打ったのか、後頭部をさすりながらおかしなことをつぶやいた

「おまえ、何者だよ!つか、なんで俺の部屋に勝手に入ってるんだよ!?」

 正気を取り戻した蒼弥が詰め寄るように少女に問いかけるが、少女はゆっくりと頭をさすりながら、ニヤリと蒼弥に笑いかけた。

「なにを言っておる、ここに連れてきたのはお主ではないか?」

「なに訳のわからないことを・・・」

 連れてきたといわれても、神社から逃げててくる際に蒼弥に人に声をかけるような余裕はなかったし、部屋には一人で入り、しっかりと鍵までかけたことを記憶している

「ズボンのポケット」

「え?」

 そう言われて、蒼弥ははじめて神社で拾ったあの石のことを思い出していた。

「あの光ってた石のことか?」

「そうじゃ、お主が先ほどの建物の近くで拾った石じゃ」

「それと、おまえといったいなんの関係があるんだ?」

 そう話しながら、蒼弥は石を拾った時にそれを見ている人間が居ただろうかと考えた。あの時まわりに人の気配は無かった。唯一いたとして、銃を使って脅してきたあの少女くらいしか居ないはずだ。

「おまえまさか、さっき俺に銃を突きつけてきたやつか!?」

 頭の中で、思い感だことを少女に聞くが、少女は蒼弥を馬鹿にしたようにケラケラと笑い始めた。

「ふふっ・・・・・・お主、アホかうつけの類じゃろ?そんな質問ではわらわがそ奴であった場合、何事もなかったという風には振舞えておらぬし、先ほど顔をさらしておらなんだのに、いまさらわざわざ顔をさらすのもおかしな話ではないか?」

 少女はひとしきり笑うと、少し真面目な顔になり言葉を続けた。

「まぁ、お主に何か聞きたいことがあって、話が聞ければ後はさようならってことであれば筋が通らなくも無いがの・・・・・・」

 ビクリと体を震わせ、蒼弥は少女から距離を取る。

「あははっ……冗談じゃ、冗談。わらわはお主を襲った人間でもその仲間でもないわ」

 少女はすまんすまんと言いながら手をひらひらと振った。

 蒼弥は少女の言葉を信じて再度少女に近づいて、近くに座った。

「つまりおまえはなんなんだよ」

「ん~、そうじゃな・・・・・・あ~・・・・・・これ言っても大丈夫なんじゃろうか・・・・・・」

 さきほどとは打って変わって、少女の言葉が弱くなる。

「なんなんだよ!そんな隠さなくちゃならないような人間なのかよ」

「まぁ、あれじゃな・・・・・・簡単に言うとわらわは人間では無い・・・・・・」

「はっ??」

 人間ではないということはどういうことだろうか…………。今日の出来事から考えれば答えは決まっていた。そしてその後彼女から紡がれた言葉は、蒼弥の考えを核心へと買えるものであった。

「宇宙人じゃよ・・・・・・う・ちゅ・う・じ・ん」

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