第6話 結合(6)
町の中は人々で活気に満ちていたが、この建物の周りは木々が鬱蒼と生い茂り、鉄製の門が口を開くように開け放たれ、不気味なほど静まり返っていた。
二人は門をくぐり抜け、建物に近付き、木製の大きな扉の前で立ち止まった。
ユナは扉をノックして中の様子を伺っていた。
(随分と重厚な扉だなぁ...)
重厚で何か古い紋様が彫ってある木扉を見上げたセツナは思った。
「開いてるよ、お入り」
中からしゃがれた女の人の声が聞こえ、ユナはゆっくりと扉を押し開けた。
軋む扉の音。
開かれた扉の奥で、暖炉を背に揺り椅子を揺らしながら、優しく微笑む老婆がこちらを向いていた。
「ダリア!」
「よく来たねぇ」
ユナは小走りでダリアに駆け寄り抱きついた。
その微笑ましい二人を見てセツナの表情は弛んだ。
(まるでお婆ちゃんとその孫みたいだ)
扉を締め、セツナはゆっくりと二人に近付く。ダリアは目を細め不思議そうな顔でセツナを見つめ、ユナに訊ねた。
「見かけない子だねぇ、この子は誰なんだい?」
「初めまして、セツナといいます」
頭の先から爪先まで、まじまじと観察するダリアの顔は、笑顔でくしゃくしゃになった。その顔の皺からただならぬダリアの歴史を感じられた。
「初めましてセツナ。私はダリア。しがない占い師とでも言っとこうかねぇ」
ダリアの肩に凭れるユナの頭を撫でながら、ゆっくりとした口調で応えた。
「ユナ...またあの森に行ったのかい?」
「どうして分かるの?」
「匂いさ。あの森特有の匂いがあんたの身体中からするからねぇ」
ユナの体をクンクンと嗅ぐ仕草をしてダリアは答えた。
「あの森は危ないから近付いちゃいけないって言った筈だよ」
「ごめん...でも訳があるの!」
「どんな訳があっても、あまり近付いて欲しくはないねぇ、私は」
「ごめんなさい...」
ダリアは肩に凭れるユナを自分の前に座らせてゆっくり微笑み、セツナに手招きをしてその横に座らせた。
交互に二人を見つめるダリアの顔は、慈愛と優しさで溢れていた。
「それで、何があったんだい?」
「あのね...」
ユナは七色の蝶を追いかけて森に入ったこと、そこでセツナと出逢ったこと、セツナの記憶のこと、ここに来るまでのことを細かに説明した。
ユナの話を聞くダリアの目には先程までとはうって変わり、驚きに見開かれ、いつしか涙が溢れていた。
涙を拭う指先もまた、ダリアの生きてきた歴史のように深い皺が刻まれていた。
三人の間にどれ程の沈黙があっただろう。その沈黙を破るように、ダリアは重い口を開いた。
決して語りたくはなかった事を、話さなければならない苦渋の表情に見えた。
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