第4話 結合(4)
僅かな静寂が森全体を包む。
セツナが神妙な面持ちで物思いに耽っていると、ユナはそんなセツナの暗い表情に気付いたのか、敢えて明るい声で話しかけた。
「セツナさんはどうしてこんな所に?」
(どうして...俺は...)
真剣に考えるセツナの表情を見つめていたユナは、口元を押さえてクスクスと笑い始めた。
「笑い事じゃないよ...本当に何も思い出せないんだから...」
涙目で笑うユナに、ムッとした様子でセツナは呟いた。
目元の笑い涙を細い指で拭いながら、申し訳なさそうに謝るが、その表情はまだ微笑んでいた。
「ウッフフフ...ごめんなさい。なんかあんまりにも真剣な表情だから」
その柔らかい微笑みを見ていると、自分の中のどうしようもない孤独感が少しずつ薄れていくのをセツナは感じた。
「私はね、とっても綺麗な蝶が翔んでいくのが見えたから、慌てて追いかけてきちゃったんだ」
「(蝶...)七色の蝶...」
森の奥へとユラユラと翔んでいった幻想的な蝶をセツナは思い出した。
「そう!凄く綺麗で、まるで虹みたいな七色に光る蝶だったの。もしかしてセツナさんもあの蝶のこと追いかけてきたのかもね」
必死に思い返そうとするが、やはり何も思い出せなかった。
「分からない...でも、あの蝶が何か自分に関係しているような気がする」
「そっか...」
優しく自分に微笑みかけるその姿は、まさに女神そのものだとセツナは感じた。
「ねぇ、もしよかったら私が住んでる町に来ない?もしかして何か思い出すきっかけになるかもしれないし、町外れには有名な占術士様もいらっしゃるから!」
「占...術士?」
「そう!占術士のダリア様。凄く物識りで色んなこと教えてくれるの。きっとセツナさんの事もなんとかしてくれると思う!」
セツナは悩んだが、結局今はどうすることも出来ないのは明白だった。
「じゃぁ、相談だけでもさせてもらおうかな...」
「よしっ!それじゃ行こ!」
ユナはセツナの手を握り、自分が走ってきた方へと歩き始めた。
その手はとても温かく柔らかいものだった。
セツナは手を引かれながら、七色の蝶が姿を消した森の奥を振り返ったが、そこにはもう何の痕跡も残ってはいなかった。
運命の歯車が廻り始めた事を、この時の二人はまだ知る由もなかった。
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