第11話 一時環幼女(ジョーレイニヒッカ・ガール) その2
『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律』
第一条 この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。
第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
…………………………。
「変なことしなきゃ大丈夫なんだよな?」
「多分ね」
「何の本見て何の話してるのよっ!幼女扱いしないで!」
「いやいや。こんなことになってしまった責任は俺にあるからな。せめて条例に引っかからないよう、細心の注意を払って行動せねば……」
「条例とか引っかかるとか言うなああああ!!」
ちっちゃい体でぽこぽこと殴りかかってくるロリ夏矢ちゃんを適当になだめつつ、周囲に視線を巡らせる。20メートル先くらいまで続く前方通路及び右側通路には敵影は見えない。
まだ見える範囲に敵はいないみたいだな……。
とにかく、今のうちにいろいろ作戦とかを考えておこう。仲間の一人がほぼ無力化されてしまった現状、ジェイペグ曰く『今のレベルだとちょっとキツめ』のダンジョンを、ゴリ押しで突破できるとは思えない。
前方を斗月、右方を俺で見張りながら作戦会議。
「敵はそこそこ強そうだし、防御力が大幅に低下している今の夏矢ちゃんだと、一撃でやられてしまうかもしれない」
「バカ、幼女が怪物に暴行を受けた時点で、すでに俺たちは社会的に完全アウトだろうが!」
「そ、そんな……!こんな魔物の巣窟の中で、幼女をノーダメで守り切らなきゃいけないってのか……!?」
「幼女を!?」
「幼女を!!」
「…………あんたら、現実世界に戻ったらマジで殺すから」
夏矢ちゃんの顔がヤンデレじみてきた、そろそろこのネタはやめておこう。
「とにかく、ここからは夏矢ちゃんを護衛しながら進む必要がある。できるだけ敵に見つからないように。それが不可能そうなら先制攻撃を仕掛けて一気に倒そう」
「段ボールが必要だな」
「あと、振り切れそうなら逃げて、とっとと階段を登ってしまうのもありかもしれない。ゲームシステム的に、奴らは階をまたいだ追跡はできないだろうし」
「この状態の世葉に走らすのは無理じゃねぇか?」
「無理とかないし!いけるし!子供扱いすんなし!!」
「ほら、だんだん言葉遣いまで退行してるし……」
「表現として危ないからできるだけやめておきたいが……やむを得ない場合、夏矢ちゃんを俺らで持ち上げて走ればなんとかなるさ」
「…………もうツッコむ気も起きない」
というわけで作戦開始。
直線の道はダッシュし、交差点では壁の影に隠れてしばらく様子を見る。安全だと判断できれば、また次の角まで走る。このストーカーじみた動きの繰り返しで、ダンジョンを登っていく。
「ぎるるるるるるるっ!!」
しかし、全力で走るということはつまり足音を立てることを意味するわけで。
足音に気付いたらしい敵の声が背中へ飛んでくる。後ろをちらりと振り返ると、一反木綿の上にカボチャが乗ったような敵が、ヒラヒラとその身をたなびかせて追いかけてきていた。
明らかに軽そうな見た目は嘘を吐かず、風に乗った紙飛行機のように速くこっちへ飛んでくる。
俺と斗月が全力で走れば余裕で撒けるのだろうが、このままだと、夏矢ちゃんは確実に追いつかれてしまうだろう。
「怜斗!階段があるから、世葉を持ち上げて走れ!!」
「南無三!!」
「うわっ…………!?」
とりあえず一番苦情が来にくそうな、頭と膝を持った『お姫様抱っこ』の形で夏矢ちゃんを持ち上げて走る。
子供の夏矢ちゃんはかなり軽くて、まったく走行の妨げにならない。そのまま走りきって、階段を登る。
「お、下ろしなさいよ!こんな……自分で走れるったら!!」
「はいはい、二階に上がったら下ろしてやるから!」
階段を半分ほど上がったところで下を覗く。
敵は階段の前で止まると、もう一切の興味を無くしてしまったかのようにそこでUターンして、帰って行った。
階段さえ上がれば撒ける、という予想が、これで証明されたことになる。今後は積極的にこの手口を使っていこう。
二階へ上がり、約束通り夏矢ちゃんを下ろす。
「斗月、敵はいそうか?」
「まだ分かんねぇけど……どう考えても、一階より数は増えてるだろうな」
「……ねぇ、ちょっといい?」
夏矢ちゃんが手元の銃を振って示す。
「さっき、私のステータスは全部下がってるって言ってたけど……私の武器は拳銃なんだから、私が子供になったところで、攻撃力は一緒なんじゃないの?」
「馬鹿野郎!ゲームってのはそういうもんなんだよ!エ○リスにレイズかけられないような理不尽がまかり通るんだよ!!」
「その例えはちょっと間違ってるような気がするけど」
「黙ってろゲーマーども。……ナウド、どうなんだ?攻撃力は下がってねーのか?」
「いや、このゲームは変なところにこだわられててな……。銃とかそういう武器では、攻撃力を下げられても与えられるダメージに変化はない」
「……それって、レベルが上がって攻撃力が高くなっても、銃のダメージは変わらないってことでもあるんじゃあ……」
「ああ。銃のダメージ量は、良くも悪くも全て銃の質に依存している。レベル1でもレベル100でも、同じ銃を使っている限り敵に与えるダメージ量は同じだ」
「変なところがゲーム的で変なところがリアルだなぁ……ご都合主義全開って感じ」
後付け設定のコジツケとか言うなぁ!!
「……今、どっからか声がしなかったか?」
「たぶんこの世界の神様の独り言でしょう」
「まぁ、何はともあれ。いくらダメージ量が変わらないとはいえ、今の状態の夏矢ちゃんを戦闘に参加させるわけにはいかないだろ」
「そう、それで私に考えがあるの」
「…………?」
「モンスターからドロップした、このヒモみたいな素材を使って……」
ドロップ素材を何に使う気だ?
ともあれ、夏矢ちゃんの指示通りにそれを組み立ててみることにする。
#
完成したそれは……ちょうど、『ママさんが子供を背負うために装着しているようなアレ』みたいな形だった。
「おい、まさか……」
「そ。これで私を背負ってくれれば、後ろから追ってくる敵を銃で撃って妨害できるかもしれないでしょ?」
そんな「あたいって天才ね!」みたいな顔で言われてもなぁ……。
単に俺がネガティヴなだけかもしれないが、正直、全く上手くいく気がしない。
しかし、追跡の妨害が不可能だとしても、両手を空けたまま夏矢ちゃんを運べるというのは大きなメリットかもしれない。
実際にそれを使って夏矢ちゃんを背負ってみると、たしかに背負いやすい。少々走ったり派手な動きをしても、落ちることはまずなさそうだ。
「オーケー、採用」
「当然。日本で最もスティーブジョ〇ズに近い女とは私のことよ!!」
「何個肩書きを名乗れば気が済むんだよ」
と、瞬間に気配を感じる。
振り向くと、ちょうど角を曲がってきたらしいバッファローみたいな化物と目があった。
軽く会釈をするも、返ってくるのは友好関係を結ぶ気などサラサラないというえげつない殺気のみ。バッファローはそのヒヅメで床を叩くと、絶大な突進力でこちらへ走ってきた。
「ブモォォォォォォォォォォォォォォン!!」
「き、来てる!!逃げろ!!」
「え!?おっわ、速っ!?」
あのバッファロー、こんなスピードで走っていては角を曲がりきれるはずがない。だからたぶん、曲がり角を活用して逃げおおせるのがセオリーなのだろうが……。
嫌がらせのようにどこまでもまっすぐ続く一本道だ。もうアレやわ。笑うわ。
「あれは『バファルゼアル』。怜斗の考えてる通り、曲がり角をうまく使って逃げるのが一番の対処法なんだけど、これじゃあ無理だね。ランダムマップシステムを恨んでね」
「うっせ、アドバイス無いならひっこんでろ!」
「アドバイスか……。驚異的な攻撃力を持ってるから、マトモに戦えば確実に負けるよ。追いつかれて戦闘に入っても、戦闘に勝つことより逃げることを考えてね」
「前向きなアドバイスをください!」
「ないです」
「この無能!」
パカラッ、パカラッ。
こんな状況でさえなければ軽快で気持ちのいい足音が、どんどんと大きくなってきて、その音に合わせて頭の中で渦巻くドクロマークが明滅する。
どれくらい近づかれてるんだ……?
このまま背中に追突されたら、夏矢ちゃんはひとたまりもないんじゃあ……?
死へのカウントが1秒1秒と減っていく。
「怜斗、今こそ私の出番じゃない!」
「こんな走って揺れてるのに当てられるワケないだろ!暴発したらどうする!」
「大丈夫!日本で最も次元に近い女とは私のことよ!!」
「もういいよそれ!」
背中から、夏矢ちゃんがもぞもぞと動いているのが感じられる。
銃を構えているのだろうか。とてつもなく危険な予感がするのでどうにか止めたいが、そんなことをしている余裕はない。少しでもスピードを落とせば、次の瞬間には怪物の角が、夏矢ちゃんごと俺を突き刺しているかもしれないのだから。
「当たれ!」
次元に最も近いとか大口叩いてた割には運任せだな……とは言うまい。
バキュンバキュンと威勢のいい発射音だけは聞こえるのだが、バファルゼアルの悲鳴もヒット音も聞こえてこないということは、外しまくっているんだろう。
夏矢ちゃんのエイムが悪いとかじゃなく、そもそも射撃環境が悪すぎる。射撃での妨害に期待しちゃいけない、自分の力で逃げ切るんだ。
長い長い廊下にも、ようやく突き当たりが見えてきた。
「…………え?」
ただし、『曲がり角』ではない。
俺たちが走っているこの道の1つだけ。曲がって繋がっているものなどはない、これはまさに、そう、完全な……。
「……行き止まりぃぃぃぃぃ!?」
「お……終わった……」
絶望した!
理不尽なダンジョン構成に絶望した!!
ここまで必死こいて走ってきたってのに!こんなに長い廊下だってのに!
ただの行き止まりなんて……あんまりだと叫びながら泣き叫んでスッキリしたい気分だよ!
「ブモッ、ォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くそっ、かくなる上は……!」
俺は背中から、夏矢ちゃんごと『おんぶポケット(今しがた俺が命名)』を外し、突進してくるバファルゼアルを飛び越すように投げた。
頭から落下したらどうしよう、と一瞬青ざめたが、そこはおんぶポケットの柔らかなクッションがカバーしてくれる。
「ちょっと、何すんのよ!?」
「いいから逃げろ!俺たちもコイツを撒いて後に続くから!」
3人でも厳しいらしいのに、斗月と2人で、この暴走バッファローをうまく処理できるのか。不安は募るが、幼い状態の夏矢ちゃん1人に探索させるわけにもいかないので、やるしかない。
ギリギリの絶望的な状況で、俺は「やっぱり、俺TUEEEEEEEとはいかないんだな……」と、悲痛な呟きを漏らした。
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