最強転校生とそのライバル

5月の二週目に入り、定期考査を一週間前に控えた今日。後輩たちとの合同練習が4日目となった。

そして練習場の場所は相変わらずの第2練習場。

だんだんと練習する人は増えてきたがそれでも1日に1人か2人程度ずつしか増えていない。そんな不人気な場所。まあ狭いし四階にあるから階段昇るの辛いし、わざわざ同じ階でなければここにはこないだろう。

そもそも朱雀すざく玄武げんぶ白虎びゃっこ青龍せいりゅうの四つの決闘場やバカ広い校庭、もしくはナゴヤドーム程度の大きさであり、また四つの決闘場と同等の広さの第1練習場、第3練習場で普通は練習するので魔法人口がそもそも少ないこの日本で一番の学校とは言えど高等部の全校生徒は約180名。

だから人が集中して集まらない限り人口密度が高くなることはなく周りとはある程度の間隔を開けて練習することが出来るのだ。つまり何が言いたいかと言うと、まずこの第2練習場に練習にくる物好きはそうそういないのだ。天井が低くてフライの魔法も使いにくいし、広範囲魔法なら他の生徒を巻き込む可能性だってある。でも自分の固有魔法を密かに練習したいときには便利かも知れないけど。まあ一部の人は山に籠もって修行とかもするみたいですが。


そんなわけでラノベに有りがちな前置きを頭の中で再生しつつ、後輩三人+転校生一人を待っているわけだが。


「月神くんいくら何でも遅くないかな・・・??」


「あんな人ほっといても大丈夫ですわ」


彼女は七草家の娘であり続けるための言葉遣いと素の普通・・いや普通とは違うものの女の子らしい言葉遣いが2つある。クラスなどでは丁寧なお嬢様らしい言葉遣いですが僕たち2人や心を開いた人間には女の子らしい言葉遣いを使っているみたいだ。なお今回は前者の模様。


「花蓮ちゃんも大変だね」


僕は労いの言葉を、掛けたつもりだったが彼女のスイッチをオンにしてしまったみたいだ。


「私のために私だけを心配してくれる純くん!!わ、私はなんて幸せなんでしょうか!!!」


心配してもらうだけで幸せとかどれだけ幸福なんですかね・・・その顔見てると頭の中はお花畑になってそうだな。特にパンジーの花があちらこちらにたくさん咲いてそう。

まあ幸福は思考の停止とか聞いたことあるが、まさにこれのことを言うんだろうな。




しばらくすると(10分後)遅刻した転校生くんがやってきた。


「わりぃ、ちょっと昼寝したら寝坊した」


お昼寝で寝坊とかいいご身分だこと。てかいいなー昨日遅くまで練習してたし僕も寝たかったな・・・


そんなことはくよくよ言ってもしかたないので気持ちを切り替える。


「じゃあやろうか」


「オッケー」


「はい♪」



三人で練習を始めた。


「じゃあ最初は僕と月神くんで」


「じゃあやるか」


二人とも無言で手にいくつかの球体を生成し、ほぼ同時に投げ始めた。


二人の中間地点で互いにメルトの呪文はぶつかり合い、僕の球はいくつか彼の球の威力に負けこちらに向かってきた。


僕は壁際まで追い込まれたが、慣れ親しんだ呪文を無言で唱える。


すると次第に僕の体は身軽になり軽々と彼の放った球を避けた。


「ちっ・・強化呪文のライトか」


しかしまだ球体は僕を狙ってくる。壁際であまい制御だと壁にぶつかるのだが、彼の球はまだ生きている。いい制御力だなと素直に思った。


続けて僕は球体に向かって呪文を放つ。

すると僕は手から氷の刃を球体が消滅するまで出した。


そして反対側を向き彼に向かって再び無言の詠唱をし、氷の刃を放った。


しかし、彼はその刃を刀でことごとく切り裂いた。


固有魔法ディメンジョンアーツか・・・」


「純に教えてもらった使い方を実践してみたくてね」


彼は刀を縦に振り下ろした。それと同時に僕は全力で右に避けた。


壁に真っ二つの斬撃が刻まれた。そしてこの練習場に貼られている魔法結界にも一瞬亀裂が入ったように見えた。


「純。そろそろお前の本気見せてくれてもいいんじゃないか??」


「しょうがない・・・父さんの固有魔法を生半可に使われるのは僕も困る。どうせなら完璧にして父さんのを超えてくれるか・・・??」


「もちろんだ。超えてやるよ」


僕は不意に笑ってしまった。こいつは僕の敵になるはずの人物なのに。

もちろん最初は嫌々で鬱陶しいすら思っていたが今ではそんなことを微塵も感じない。彼が強くなるのが嬉しいとさえ思う。

彼はどうか分からないが僕はもう認めている彼は僕にとって最高のライバルになると。


「最後にいいか・・??君にとって僕はなんだ・・・??」


「そうだなー。親友であって、師匠であって、ライバルかな??」


僕はくすりと笑った。


「そうか、分かったよ。ならば僕の手の内の一つを明かそう」


僕がその言葉を言い終えると、彼はすぐさま間合いを詰めた。


「固有魔法が見たいって言っても、勝ちに行かせてもらうからな!!」


彼は僕が全力で回避しても避けられない位置で斬撃を飛ばそうとしたのだろう。


だが彼の判断はすでに遅かった。既に詠唱はあと一行・・だけなのだから。


「不死の鳳凰ほうおうを創造し具現化ぐげんかする。それだけが残された英雄へのみちだった。イマジナリィーアーモリー!!」


彼の斬撃は灼熱しゃくねつの何かと合わさって大きな爆発を生んだ。







「まだ痛むんだが・・・なあ純??」


「僕は痛くないよ。そういう能力だし」


「傷は治るからってついつい危険なことやっちゃうんだよなー。痛覚は残るけど」


「二人とも無理しすぎだよ!!」


「本気の戦いだもんな??」


「いや、僕にはまだいくつか手があるからね」


「俺にだってまだ上があるし!!」


「分かってる。だから本気の勝負はお互いに固有魔法をマスターしたときにね??」


「おう!!」


彼と僕は笑っていた。つられて彼女も笑っていた。



「先輩方こんにちは!!あれ??もう結構派手にやっちゃった感じですか??」


「月神先輩ボロボロなのー」


「まあ、練習に支障はないよ!じゃあ始めようか!」


僕の台詞取られた・・・。

一人落ち込んでいると灯が寄ってきた。


「今日もお願いします。那波先輩。」


彼の眼は何処となく怖かった。

そして、若干思っているのが・・・なんとなくだけど舐められてる気がする。他の二人に比べて対応が微妙に違うし。

まあ、いいさ。いずれ僕も彼に認められるようになればと。


だがその思いは予想よりも遥かに早く訪れた。





一週間後、先輩たちとの合同練習を終え、俺たちはついに高等部初の定期考査が訪れた。定期考査はもちろん中等部でも乗り越えてきたが高等部のはあれとは格が違う。俺は緊張こそしているものの少しばかり楽しみだった。

会場の選手入口の前に行くと、幼馴染の双子がこちらに気づき駆け寄ってきた。


「灯!頑張ってね!!」


「てねー」


「うん。頑張るよ」


「私は今日は3試合目だし」


「光は4試合目ー」


「そうなんだ。」


双子の姉妹はいつも本番ごとになっても比較的能天気なのである。


「私たち応援してるね」


「頑張れー」


「分かった!」


確かこの学園のテストは総当たり戦で全21グループからなり、2週間かけてテストを行う。会場は四神の朱雀、青龍、玄武、白虎で行われ、一日に多くて一試合、試合がない日だってある。会場は4つしかないのでもちろん他のグループと順番で変わっていく、確か蛍は20グループ、光は17グループで、それぞれ3試合目、4試合目と言っていたのでこの会場での順番だとすぐわかった。


「じゃあ俺は控室にいくわ」


『じゃーね』

双子の声は綺麗に重なった。


俺は二人に手を振り控室を目指す。





事前にグループは分けられおよそ8人の対戦相手は知ることができるが、対戦する時はいつか知らされない、だから今から戦う相手も8人のうち誰かわからない。

俺は8グループ。今日の一試合目。正直嬉しい、8グループにはあいつがいる。見極めてやるあいつの実力を。


「長久手 灯さん。スタジアム内に入ってください。」

アナウンスが流れたので俺はスタジアムへ歩き出した。


スタジアムに入ると直ぐに蛍と光を見つけた。


『灯ー頑張れー』


俺は中央に歩く傍ら二人に手を振った。


そして、もう少し観客席を見渡すと七草先輩と月神先輩がいた。

一瞬、俺の応援かなと期待したが、すぐに察した。


前から歩いてくる今日の対戦相手。最近見慣れているはずなのに雰囲気が全く違う。あれは本気だ。殺気すら思える視線に背すじが凍った。



「みてみて光あれって・・・・!!」


「あー那波先輩だー」



俺は目をつむり、深い深呼吸をした。そして顔を上げるとあいつが目の前にいた。


「灯、練習の成果みせてもらうよ」


「はい・・!!」



僕、那波純、ついに後輩と戦います!!













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