鼓動

僕⑸


家に帰ると、母さんがいきなり話しかけてきた。


「麻里奈の携帯で買い物がされて、それをコンビニで払う様子が防犯カメラに写ってたの」


喉の奥がグッとなる感覚に見舞われた。

歓喜。と言うべきか。

悲劇の予兆と言うべきか。

とにかく、驚いた。


「え?本当に?生きてるってことだよね?」


「うん。それに、自分の意思で帰ってきてないってこと」


「何買ったの?」


「それが……刀。なのよ」


「カタナ?」


「うん。模造刀っていうの?カメ……カメワリトウっていう刀だって」


「知らないな……」


「まあ、とにかく警察の人もまた探してくれるって言ってくれたから。大丈夫よ」


母さんが久しぶりに笑った。




次の日、僕の足取りは軽かった。

姉さんが生きてる。

なんで帰ってこないのかはわからないけど、また明るい家族に戻る。

そう思った。

だからこそ、登校中もいろんなところをみて、発見をした。

そして、見てしまった……


ジャージにポニーテール姿の姉さんを……


「姉さん!麻里奈姉さん!」

咄嗟に叫ぶ。


姉さんはこちらを一瞥し、走って逃げた。

それは姉さんではなく、まるで姉さんの身体に鬼が入っているようだった。




数日後…………

時掛との決闘を昨日、申し込んだ。

昨日の時掛の反射神経。

あれは凄い。


時掛は遅れずにきた。


「時掛!よく来たな!」


時掛は僕を睨むだけだ。

そして、僕は竹刀と防具を時掛に渡した。

すると時掛は

「防具はいらない」と言う。

無理やり押し付けようとしたが、時掛の目つきとひどくやつれた姿から何も言えなかった。


第一試合。

僕らのチームの先鋒は一年のエース・宮脇である。


宮脇は上段の攻撃型。

そして時掛は右手で竹刀を持ったままぶら下げている。


「高田先輩、本当にいんですか?」


「あ、あぁ」


「はい……」


宮脇が踏み込んだ。上段から竹刀を振り下ろす。

その竹刀は宮脇の脳天を捉える。

はずだったのに、尻餅をついていたのは、宮脇だった。

早くて見えない。


「しょ、しょうぶあり!」

太田が叫ぶ。


そして、第二試合。

次鋒の僕である。

時掛の神業を見た直後だというのに、無駄な自信がある。

僕は時掛に平青眼で構えた。

時掛が驚きの目を向ける。


「俺は上段遣いじゃないぞ」


平青眼は上段遣いに使う構えなのである。


「知ってるさ。」


「勝算でもあるのか」


「ない。でもこれで構えろって心が言ってるから」


「……」


時掛の目は暗い。

僕を見下しているようにも見える。

それでも、僕の竹刀は輝く白刃に見える。

微笑を浮かべ、時掛の目を凝視した。

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