僕⑴



麻里奈姉さんが、いなくなった。

家の中はしんとしている。

父さんは缶ビール、母さんは携帯を、それぞれ握りしめている。


『グシャッ』

ビールの缶が潰れる音が響いた。


それを聞いて、「チッ」と母さんが舌打ちをする。


「何がチッだよ、」


父さんはゴミ箱を蹴り飛ばし、出て行った。


「風呂、入っときなさいね」


母さんはそう言うと、部屋を出て行った。





麻里奈姉さんは気さくで、優しい人だった。

僕とは違って成績はトップ。

生徒会副会長で、ソフトテニス部の部長でもあった。

僕はそんな麻里奈姉さんが大好きで、姉さんも僕を可愛がっていた。

一緒にトランプをやったり、チェスをやったりした。

そんな麻里奈姉さんがなんでいなくなったのか。

何ヶ月か前、何日か家から人が消える現象が起きた。

だがそれは何日か後に絶対に帰ってきて、何事もなかったかのように過ごすというものだった。

だがそれも、8月くらいには収まった。

そう、うちのクラスに転校生が来る少し前だ。





こんなに暗い家に住む僕でも、学校では明るく振舞っている。

無理しているわけではない。

そうでもしないとやってられないのだ。

朝は6時に起きる。そこからご飯を食べて部活へ行く。


剣道部である。

うちの学校は県大会に出るくらいの中堅強豪校で、僕は団体戦ではその中堅強豪校の次峰を担当している。


「高田」とかいた垂らしを付け、竹刀を持って安藤と向かい合った。

安藤は大将で、個人でも全国大会に進むほどの強者である。


「よろしくお願いしまぁす!」


僕は頭が割れるくらい大きい声で叫んだ。


「はじめっ!」


副将の八木の声が響く。

僕は中段。安藤は上段である。

僕が踏み込む。安藤は僕の攻撃が当たるよりも早く竹刀を振り下ろしていた。


「がっ!」


頭に響き、頭を押さえて屈む。


「すまんな、これでも加減したんだけど」


安藤は偉そうに言い放つと、その場を去った。


「ふざけんなぁぁ」


僕は安藤を押し倒し、馬乗りになると、竹刀で思い切り安藤の喉を突いた……

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