刺客街路〜剣豪異世界接続〜

第一幕

時掛守

時掛⑴


思い切り蹴り上げる。

リュックを下ろし、傘刀のボタンを弾く。

少し刃が見える。

柄を握り、腰を据える。


「傘刀で抜刀術を使う阿呆がいるとは。」


「名もない剣客よ。さらばだ。」


「でいやぁ!武蔵様のため!」


「鳥義鎧聖流・斬山!」


傘鞘から引き抜かれた傘刀が剣客の喉元をえぐる。


「三メートルの為に人を斬る者め。武蔵。お前らの剣は遅いぞ。」





「時掛守です。よろしくお願いします。」


時掛は二学期からこの新島中学校に転入した。


「時掛くん、一番後ろの席に。」


「はい。」


一番後ろの席に腰掛ける。


「よろしくな!俺、高田翔」

隣に座っている男子。


「よろしく。」


「なんで傘持ってんの?」


「別に。」


「今日雨予報出てたっけ?」


「知らん。」


「まあいいや。後で傘置き場教えたげる。」


「いや、いい。」


「あっ、そう。」


この傘を別の場所に置くなど、言語道断だ。

始業式なるものに参加し、その日は帰ろうとした。すると高田が。


「部活は?俺剣道部なんだけど、来る?県大会には出てるよ。」


「いや、いい。拙者、いや俺は帰宅部として勉強に勤しむ。」


「あーあ!この最強次峰さんが誘ってあげてるのに!」


(俺の手にかかれば貴様の手足は二太刀ぐらいで遠くへ飛ぶぞ。)





時掛の使命はただひとつ。

刺客通りをなくすこと。

刺客通りとは新島三丁目のマンション裏の路地。

そこだけすでに死んだ剣客たちが集まる剣界と繋がっている。

剣界のリーダーは言わずと知れた剣豪・宮本武蔵。

剣界の剣客たちは武蔵を神のように信仰しており、宗教的である。


一度に一人、五時から六時までの時間剣客たちが現れる。その場所にいる者しか剣客が見えない。


剣客たちが通行人を一人斬るごとに三メートル刺客通りがのびる。

また、剣客はその斬った者の体に乗り移り、外でも着々と侵略行為を進める。

乗り移っても剣の腕は落ちないのだ。


剣界の剣客たちの目的はただ一つ。

この地球全域を刺客通りとすること。

時掛は刺客通りをマンションの裏路地だけで収める為に戦う鳥義鎧聖流のの剣客だ。

俺は一人斬ると刺客通りが三メートル縮まる。

時掛の手元の傘刀は仕込み刀の一つ。

見た目は普通のビニール傘だが、本当の傘なら開くボタンを押すと留め具が外れ、刀が抜けるようになる。

学校に持っていくには最高の刀だ。


「おーい!」


振り返ると、高田である。


「あぁ、君か」


「君ってやめよーぜ、高田!翔!なんか強そうだし、剣道部入ろう。初心者でも大丈夫!」


「入らないよ」


「えー。入れって!」


「高田。だったな。」


「ん?」


時掛は拳を高田の肩を突く。

高田は肩を抑えて転ぶ。


「なにすんだよっ!」


「2度と俺に関わるな。わかったな!」


時掛は踵を返し、その場を去る。

なんだか後味が悪い。




「ただいま戻りました。」


引き戸を開け、玄関に上がる。


「おお、戻ってきたか。鳶。」


鳶とは時掛の剣名である。

鳥義鎧聖流の剣客は鳥の名の剣名をつけられる決まりである。


そして、時掛と話しているこの男、時掛の師匠・鳥義鎧聖流師範の牧山廬山、剣名鶫である。


「今日は特に何もなかったです。」


「それはいいことだ。よし、今日は木刀での立合だけだったな」


「はい。」


「よし、やるぞ。」


廬山は庭に出る。


「はい。」


時掛は刀掛けから普通の木刀を二本、小太刀の木刀を一本とった。

庭に走る。


一度目は条件は同じで一本勝負。

二度目は廬山が小太刀で、時間が許すまでやり続ける。


立ち合いが始まった。


時掛は下段に構えたまま、ずっと打ち込めずにいる。

何時間も経った気がするが、実際には数分だろう。


そのとき、青眼に構えていた廬山が上段に構え直した。

時掛は脇を締める。


.......刹那。

『ダッ!』という音が鳴り響いた。


廬山の剣先が目の前にある。

木刀を振り上げ、廬山の攻撃を防ぐと三歩下がった。


「ふー」

と息を吹き出すと、木刀を左に持ち直してだらんとしたに下げた。

片手突きをするのである。

次は時掛から攻める。


2歩廬山に近づくと左手を後ろに下げ、一気に前に捻りながら突き出した。

廬山はいとも簡単に柄頭でそれをどけ、時掛の首に木刀を当てた。


「勝負あったな」


「はい」


立ち合いだけと言っても、気を抜くことはできない。

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