第4話
神社の前に自転車を止めて、長く伸びる階段を見上げた。いつも二人で遊んだ境内。ぼくは意を決して、階段を上り始めた。息が切れて、脳がくらりと揺らいだ。曖昧に記憶がゆたう。それでも一歩一歩かみ締めて階段を上った。
きっと、何かを取り戻せる確信を心に。
階段を上りきると天辺には古い鳥居がある。時代を感じさせるようにすこしだけ欠けた柱。触ると少しだけ温かい。ぼくは鳥居をくぐって、賽銭箱を背に立った。境内を囲む木々の隙間から鳥居越しにぼくの住む街が端っこまでよく見える。目の前には夕日がある。ぼくはさっき見つめられずにいた夕日をまっすぐに見詰めた。なわとびを両手に握り締める。不意に、ぐっと手が汗ばんで、緊張しているんだと思った。手を前に伸ばして、ふぅと深呼吸し、ぼくはなわとびを飛び始めた。
……じゅなーな
きゅうじゅはーち
きゅうじゅきゅっ
ひゃーーーーく!
もういーいかぁいっ
いいよー!!
まさやー!どこにいんのー!!
場所はこの神社で、駆け回ってまさやを探すぼく。境内の真ん中を通る石畳には白く不恰好な絵が描かれていて、近くには黄色いビニールボールがころころと転がっている。今のぼくにはまさやが神社の下に隠れているのが見えた。
もう!ほんとにどこー!?
簡単にわかる場所なのに、幼いぼくは気付いていない。
まさやー!?
走り回るぼく。
まさやー……
見つからない。
どこー……
見つからない。
気付けば境内には夕焼けのオレンジが充満していた。空に真っ赤な雲が泳いでいる。すると5時を告げるチャイムが遠くから鳴り、町中に充満した。チャイムの余韻が寂しく境内に響き渡る。
一瞬の間を置いて、小さなぼくと、今のぼくと、境内に灰色の染みができた。
さーっと音を立てて地面を雨が濡らす。
小さなぼくは、階段を転がるように下りていった。
そこには寂しそうに泣く、まさやがいた。
「しょーちゃー……ん」
ふと我に返ると、両手のなわとびはキラキラと光っていたつぶを消して、ただの薄汚れたなわとびに変わっていた。地面を蹴っていた部分だけが白く掠れている。目の前にはあの日見た夕焼け。
まさやに会いに行こう。
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