第2話

 ぼくは、部長の終わりの号令と共に教室を出た。

 「あれ?しょうちゃんもう帰んのー!?」

 「うん、ごめん!用事あるから先帰るわー!」

 友達が背中で呼んだけど、今日だけはバスケもゲーセンもマックも、「なんでも屋」には勝てない。あの店への思いは、今日の授業6時間分とプラスして昼休みと掃除と部活のミーティング計8時間分も詰まってるんだ。待ちに待った下校時間。

 ぼくはいつもの倍の速さで自転車をこいで帰った。どくどくとまるで動悸みたいに心臓が鳴り響く。なぜだろう、あの店の正体が知りたい。

 走りながら、自転車の空気を入れていなかったことを悔いた。気持ちだけが先走ってなかなか前に進まない。夕方のすこし冷たいけれど、湿気を纏った風を切って、尋常じゃないセミの鳴き声が聞こえる公園を抜けて、家にたどり着く少し前の曲がり角を急ブレーキで曲がった。


 キキキッ!!

 ほら母さんは何を見ていたんだ。

 17時13分「なんでも屋いしざき」は営業中だ。




 ぼくの心臓はまだ物凄い速さで動いていた。どくどくどくどくどく。自転車を急いでこいだせいで、汗が止まらない。ぼくは、胸を押さえてすこし緊張しながら「なんでも屋いしざき」に入った。

 太陽の真っ赤な光を浴びている入り口側の商品とは逆に、奥は薄暗くて涼しかった。もう9月も終わりなのに、風鈴が下がっていてちりんちりんと小さく鳴っている。

 誰もいないのかな……。店の中は、棚に並べられた商品と反比例して、すごく静かだった。ぼくの心臓の音と風鈴の音しか聞こえない。

 ぼくはきょろきょろと店内を見渡した。やっぱりおかしな商品名の、見た目は至って普通のものが並んでいる。

 ぼくはそっと手元にあったその中の一つに目をやった。それは紐の部分にキラキラした粒が入ったオレンジ色のなわとびだった。小さい頃よくこれで遊んだな。








 手に取った瞬間、脳の中にぶわっと映像が流れた。









 カランっ

 なっなんだ今の……急に頭の中に……っ!

 余りの驚きにぼくは手に取っていたなわとびを床に落としていた。床にだけ差した夕日の光が中の粒をキラキラ輝かせている。

 このなわとび、なに……?

 なわとびが入ってた、昭和のおもちゃみたいな挿絵のあるダンボールを見た。真っ白なプレートに「忘れている記憶を思い出すなわとび」と書いてある。


 ———忘れている記憶を思い出す?


 ぼくは神社で鳥居に伏せて数を数えていた。それは6歳くらいのときのことで、その頃ぼくは近くの神社でいつも遊んでいた。その小さな神社はぼくらの秘密基地みたいなもので、ちょっと小高い丘にある、森に囲まれいた。

 そこはいつも誰もいなくて、しんと静まり返っていた。だから、まさやとぼくはいつもそこにいて、地面に絵を書いたり、カブトムシを探したり、アイスのかけらをアリにあげたりそんなことばっかりをずっとしていた。

 まさやは同じ幼稚園に通っていて、本当にいつも一緒に遊んでた友達だった。まさやは今も同じ高校に通ってる。いわゆる腐れ縁ってやつだ。でも、何をきっかけにかは忘れたけど、今はもうすれ違っても挨拶もしない。別に嫌いなわけじゃない。でも、なんでかそうなってしまったのだ。

 ぼくはちょっと寂しい気持ちになって、なわとびをダンボールに戻して、その日はいしざきを出た。

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