16話 とりあえずは魔王相手に拮抗してみてもよいだろうか






『それでは、試合、スタートディェエースッ!!』


「せめて今日の夜、ボクのワインセラーから祝杯の一本を選ぶ手間が愛おしく感じられるくらいのあがきは見せておくれよ」


「ま、まてッて!」


 俺の戸惑いなど、トアロ家の魔王だという美青年魔王、アランドラには関係ないようだった。



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


魔素契約樹プロトマ・グラム


属性: 火炎魔術

等級: 初級

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


魔素契約樹プロトマ・グラム


属性: 火炎魔術

等級: 中級

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


魔素契約樹プロトマ・グラム


属性: 火炎魔術

等級: 上級

名称: 爆焔玉(フレイム・ストライク)

効果: 魔力による爆撃。火の玉を着弾させ、任意の範囲を焼きつくす。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 生まれた表示が瞬時に書き換わり、あっという間に俺の【情報化視界】の中に、この表示が4つ!


 なんてなめらか、一瞬の魔術ギアアップ!!

 つまりは4連並列の《爆焔玉(フレイム・ストライク)》無詠唱ッ!!




 来るッ!




 4匹の黄金色した猛禽類が俺めがけ殺到するかのよう、火焔球!!



「だれもキミを責めることはないだろう。安心してお逝き」



 俺は思わずパーカーのフードをかぶるって背を丸めるが、



「これじゃ無理だよなっ!」



 

 ズカカカァッ!




 閃光、燃やし溶かし尽くす轟音! もうもうたる白爆煙が立ち上がる……!!



「あっぶなぁああ……ッ!」



 俺はさっきまでいた場所から圧に押されて大きく飛び退き、

 手足を地面についてカエルのように、顔だけ上げた伏せ状態。



「……な……ッ!?」



『これはどうしたことディェエエース! 消し炭になったと思われたフィスト家魔王!

 まだ生きていたぁぁああ!! これにはアランドラも呆然ッ!!』


 

 客席もどよめき過ぎだろ。


 でも、まあ、



「俺も超びっくりしてる。アランドラ・トアロだっけ……」


 

 あまりの出来事に、どくどく脈打つ心臓が、体中の穴から不意に「こんにちわ!」しそうになっていた。



「いやあ、ほんとお礼を言わなきゃな……あの双子魔術師に。火属性は、水属性でリジェクトできるって

 教えてくれてなかったら、今頃なぁ……」


 

 慎重に立ち上がる俺を取り巻いていた水蒸気が晴れてゆく。

 

 美魔族の青年は、前髪をかき上げ、



「……まさか、キミのような人間の子どもが、上級魔術を無詠唱で使えるとは思わなかった。

 どうやら今夜は、美味しいワインが飲めそうだね。素晴らしいリジェクトだ」


「……本当に一部の人しか信じてくれないんだけど、俺、魔王らしいんで」 



『フィスト家魔王! なんとも控えめディェエース!! なかなかやるッ!!』



 俺が覚えた技術は、なんとか優勝候補の1人らしい魔王の気分をアゲさせることくらいはできたようだ。



 だが実のところ、俺が使ったのは魔術の無詠唱行使ではない。


 それはさっき双子のところでも使った、俺の感覚では、たぶん、

 それでもギアを上げていくしかない無詠唱をも上回る技術、 

 

 その応用だった。


 俺は控室からこのスタジアムに来るまで、複数の【魔素契約樹プロトマ・グラム】を生み出しては、

 そこに実った魔術の果実を、弾けさせることなく右腕内部に保存キープしておいたのだ。 



 どうだ!

 びっくりしただろアランドラ!

 おまえには教えないけどな……!!




「でもこれ、おもちゃの材料に使おうと思ってたんだけどなぁ……!!」




 今ので、俺はあらかじめ作って保存しておいた水属性上級魔術、

《氷葬(アイス・グレイブ)》の果実を4つほど 使ってしまっていた。



 火属性上級魔術爆焔玉(フレイム・ストライク)に対応するのが、

 水属性上級魔術氷葬(アイス・グレイブ)だった。


 

 アランドラが無詠唱、挨拶もなしに放った4つの魔弾。



 熱破壊を俺のみに撒き散らす上級火属性魔術を直で撃墜するように、

 俺は右腕から、触れた物体を一瞬で超硬度を持つ氷の棺桶に封じ込める《氷葬》の果実を放ち、

 魔術を相殺。

 

 無効化した。

 


「これ、お礼もかねてあの双子に、どうにかして教えてやりたいな……」



 すでにこれ、魔術じゃないかもしれないが……。 

 俺は並んだ弾倉を整理するように、各種の魔術を封じ込めた果実を右腕の中でクルクルと並べ直す。



 そしてふと、



「(あ、モッチー、ちょっと頼みたいことができたんだが……)」



 とあるアイディアが浮かんだので、おもちゃの女神に相談してみる。






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勇者到着まで あと 67時間19分48秒

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