14話 とりあえず魔術が使えるようになったのでトーナメントにわくわくしてもよいだろうか








「み、見ただけで……? 私のを、見よう、見まねで……、

 あまつさえ、火属性の上級魔法……《火焔玉(フレイム・ストライク)》を、

 ……む、無詠唱っ!?!?」



「いや、無詠唱っていうか……なんて説明すればいいんだ?」



 この感動、すぐには言葉にできそうにない。


 だってこれ、物騒は物騒だけど、やりようによっては、すごい『おもちゃ』になりえるんだが……!



「はっ」



 いかんいかん、もともと魔術は魔王トーナメント用に覚えようとしたもの。

 今おもちゃを作りたい欲求は、ひとまず横に置いておくのだ……!



「あ、でも、これでなんとか、戦えるように、なったのか……?」


「は、はぁっ!? たた……かう??」


「なんで身構える!? ちがうぞクラーラ! 言ったろ? 

 俺はただ、このままだとトーナメントが不安だから、魔術を習いたいんだって」


「い、言ってないわよ!」


「あれ? そうだっけ?」



 俺も言ってなかったかもしれんが、


 まさか、ヨーハンおじいちゃん、孫達に肝心なことを伝えていないのか……?



「あんた、ただの人間じゃないわね! なにもの……っ!?

 ま、ま、まさか、あんたが、ゆ、ゆ、勇者……!?」


「殲滅ぞ!」



 おかげですっかり双子魔術師に警戒されてしまっているのだが。

 というか、子供魔族は、勇者怖いのな……?



「いや、だから、俺がフィスト家の魔王なんだって」


「ほ、本当……なの?」


「うん、まあ」


「く、く、う………」



 クラーラは奥歯を噛み締め、うつむいてしまう。

 その可愛らしい頭のなかで、なにかがせめぎあっている。


 そして、



「……し、信じないわッ! そんなこと! あんたが魔王!? サルのガキのくせに!? 

 ふんっ! リーゼル!」


「私の番ぞ」




 こうして俺は、天才魔術師の双子に、それから交互に、水属性、土属性、風属性の魔法を見せてもらい、




「おーッ! 《飛翔(フライト)》って、めっちゃ便利だな!」



 リーゼルが見せてくれた風属性上級魔術、《飛翔(フライト)》を無詠唱で使ったところで、




「う、うわああああああああんんんッ!」



「ぐ……ぐすっ、ぐす……プライド、ズタズタぞ」



 ついに双子が崩壊した。



「しまった!!」



 宙に浮かび、テラスを見下ろしていた俺は二人のもとに降り立ち、



「す、すまん、調子にのった……」



「うるっさい!」


「黙れぞ」



 目の前に現れる【魔素契約樹プロトマ・グラム】の造形美に、俺は夢中でそれを取り込んだ。


 だが、結果として、彼女たちの得意なものを全部奪ってしまったことになったわけで……。 



「ねえ、ほんっとうに、あなた、今まで魔術を見たことも、使ったこともないわけ!?」


「お、おうっ、なにしろ、さっきこの世界に生まれたばっかりだからな」


「んっ、ぐっ、ぐぐぐ……」



 クラーラは赤くて長い髪を、帽子が床に落ちるのも構わずかき回し続け、

 やがて、



「しかたないわね、あんたを、フィスト家の魔王だって、認めてあげてもいいわっ!」


「不承不承ぞ……」



「え? い、いいのか……?」



「フィスト家も、あんたみたいのが魔王なら、あ、安泰かも、しれないし……」


「安堵ぞ」



 ふぅぅぅ……、

 なんとか、俺が魔王だと二人に信じてもらえたようだ。


 頑張ったかいが、あったな!



「というか、さっきからあんた、『ぷろとま』とか、『ぷろとまぐらむ』とか、

 なんのことなの?」



「んっ?」



 ここは、言葉を慎重に選んだほうがいいだろう。



「こう、魔法使うときに、見えるだろ? こういう影絵の木みたいのが」



 俺は竹細工の残りで、実際に物理で同じものを作って見せるが、



「な、なんなの? それっ」



 クラーラとリーゼルの、この瞳の輝き方は、おそらく初見の好奇心……

 というか、絶対にこれを新しいおもちゃと勘違いしてる。



 ふむ。



《# どうやら、本当に【魔素契約樹プロトマ・グラム】は富士雄にしか見えてないみたいですね》



 これはそのようだよなぁ……。



 そればかりか、『魔素』も見えていないらしい。



 ただ、果実状態の時から発生する『魔力』は、感じているみたいだな。



 ガソリンは見えてないけど、燃料が燃え上がる時の炎の熱は感じてるって感じなのか……?



 しかし、【魔素契約樹プロトマ・グラム】を魔術学校のエリートでも見たことがないとなると、

 

 どうやって説明したらよいものか……。




「フォースタス様、そろそろ試合の用意を」




 見れば控室の入り口で、フィスト家の文系家臣の一人が膝をついていた。




「えええええええっ! 待ってよ! フォースタスにはこれからちゃんと説明してもらうんだから!」


「バットタイミングぞ」



「よし、クラーラとリーゼルには今度、ちゃんと説明してやるから。また、あとでな」


「絶対よ? 約束なんだからね!?」


「確約ぞ」



「ああ、お前たちには、もっとおもちゃを作ってやりたいし、教わることも多そうだ」



 俺は、左右から俺の腕をつかんでくる双子の頭を、ぐりぐりとなでてやる。



「そうよ! 魔術にはまだ上級の上に、秘伝級もあるんだから!」


「光属性と闇属性も存在ぞ」


「あ、あと、合同魔法とか! 本当はもっともっと、すっごい奥が、深いんだから!」


「まじでか! じゃあ、あとで絶対な!!」


「うん! 絶対がんばってね! 負けたら、許さいないわよっ?」


「必勝ぞ!」



「「「おおーっ!」」」



 俺たちは拳を天井に突き上げた。




 それから俺は、双子魔術師と別れ、

 迎えに来た文系家臣とヨーハンの後をついて、宮殿内を中央へと移動する。




「モッチー、俺、おもしろいことおもいついちゃったぞ?」



《# え? なんですかなんですか? 教えて下さいっ》



「ふっふっふ、それは見てからの、お楽しみってことで!」



 すごい予感がしていた。


 この世界の魔術、絶対におもちゃづくりに応用できる……!




 俺は右手に、【魔素契約樹プロトマ・グラム】を一本、生み出して目の前で眺める。




『それでは、入場してください!』



「へっ?」



 薄暗くて細い通路が終わっていた。



『Cブロック 二回戦 フィスト家魔王! フォースタス・フィストの登場です!』



 階段を登った俺は、コロシアムの真ん中にいた。



「は? ちょ、いきなり!? メモしたいこととか、一杯あるんだがぁああっ!」








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勇者到着まで あと 67時間39分12秒

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