13話 基本魔術の概念を根底から理解してしまってもよいだろうか







 彼女は《操火《フレイム・フロー》》を消し、さらに両手を広げ、空間を練るようにかき混ぜた。



 クラーラに重なるように、先ほどと同じような樹形図が生み出される。



 俺の【情報化視界】の中に、再び《操火(フレイム・フロー)》と表示された。 



 ん? これ、さっきの初級魔法だよな。

 クラーラは上級魔法を使うって言ってた気が……。



 まあ、黙って見ていよう。 



 さっきと同じように、幹にエネルギーが注がれ、複雑な枝をめぐって果実を作る。



 これもさっき見たのと同じだ。



 そして果実が落下し、赤い炎が生まれるかとおもいきや、




 魔素契約樹の根本にあった影へ落下した果実は、そこで芽をだし、

今まであった初級の影樹を飲み込むように成長、さらに複雑な樹形図を生み出した。




「ということは……」



 予想するに、たぶん、これが火炎の中級魔法の生成過程だろう。



■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


魔素契約樹プロトマ・グラム


属性: 火炎魔法 

等級: 中級

名称: 火炎噴射(ジェット・フレイム)

効果: 魔力の火を任意の場所から任意へ地点へ吹き付ける。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 やっぱり。


 ……と、なれば、



 予想通り、吸い上げられた魔素は、さらに複雑な樹形図をめぐり、

 初級より大きい、おそらく中級魔法の力を封じ込めた果実を実らせ、魔力を振りまきながら、ぽとりと落下する。



 が、今度は、新たな芽が出てくる様子がない。



『――なおも附す』



 クラーラが、このとき初めて、詠唱を開始する。



 それと同時。

 落下していた中級魔術の果実から芽が出て、にょきにょきと樹形図が育ち始める……!



『陽の黒点よ 我が宿願となり 滅せよ……』



 魔素が幹と枝葉を満たし、オレンジ色の果実が実り、


 

 弾けた。



「っ!」



クラーラの腕の中に、太陽のように白熱した球体が、生まれているっ!


《操火(フレイム・フロウ)》とは比べようもない魔力だった。

子どもならこの感覚だけで泣き出すだろう。


まるで目の前で巨大な和太鼓を乱打されているような、魔力による圧迫感!



『――病魔のごとく!!』



 赤髪の魔族少女より放たれた火属性上級魔術爆焔玉(フレイム・ストライク)は、白い尾を大気に残し、飛び、

 景色として見えていた湖の表面に着弾。



 突き刺さった湖が、大爆発を起こした。



「うぉおおおおおお……ッ!!!!! すごい……っ!!」



「ふぅ……ま、ざっとこんなものね」



 なるほど、なるほど……。



「一つ聞きたいんだがクラーラ。上級魔法を使うときには、今みたいに

 初級の魔素契約樹プロトマ・グラムから中級を経て、

 上級まで一段ずつ上がっていかなきゃなんないのか?」



「……は、は?? ぷろ……とまぐ、なに?」



「いや、だから、縦になった樹形図みたいなやつ。

 にょきにょき薄黒い。魔素プロトマを通して魔法を作る

 魔素契約樹プロトマ・グラムだよ。生やしてただろ?」



「ちょ、ちょっと、リーゼル、こいつ、なに言ってんの?」


「たぶんクラーラの魔法がすごすぎて、ただの知ったかぶりぞ」


「でも、説明もしてないのに、魔術が、初級から段階を上げていくってこと、知ってるんだけど」


「見たまま言っただけぞ、聞きかじりぞ」



 双子は再び、なにやらコソコソ話。



 しかたない。百聞は一見しかずと、目の前のコーチもおっしゃっていたことだ。



「まずは、こうか?」



 俺は、【玩具創造トイ・ファクター】を発動させ、

 試しにクラーラと同じように、空中に【魔素契約樹プロトマ・グラム】を描き出す。


 ふむ、ここまでは竹とんぼと同じ要領だな。


 魔力契約樹の素材は、いまいち、よくわからんが。



「どうだ、うまいもんだろ」



 俺はその魔素契約樹、影絵で出来た樹木を双子も魔族少女に自慢するが、



「な、なにが?」


「不審ぞ」



「……いや、だから、……まあいいか」



 二人にとっては当たり前のものを見せて機嫌を悪くさせたのかもしれない。



 クラーラと同じ工程をたどろう。



 契約樹に俺の体内の魔素を吸わせ、まずは初級操火(フレイム・フロウ)の果実を根本に落とす。



 成功。



 中級火炎放射(ジェット・フレイム)の魔素契約樹を作り出し、その果実も実らせ、落とす。



 成功。



「よしっ」



 さらにこの果実を、魔素契約樹に育てれば、


 

 ――成功。



《爆焔玉(フレイム・ストライク)》果実の出来上がりだ。



 俺はその金色の果実を、自分の手のひらに乗せ、握り、




「フレイムゥゥゥ・ストラァァァイクッッ!!」




 さっきの湖に向けて、ぶん投げた。



 きぃんッ! と、音を立てて白熱球が昼間に光線を描いて湖に突き刺さる。



 ズゴォォオオオオオオ……ン……



 湖面が、さらなる大爆発を起こした。




「なるほど、よくわかった」




 俺は、肩を回して、右手の感触を確かめる。



 この【魔素契約樹プロトマ・グラム】ってやつ、実にうまいことできてる……。



 ちょっと、感動した。



「……な、な、なにやってんのあんた!!」



「は?」



 血相を変えたクラーラに、俺の中の余韻が消し飛ぶ。



「み、見ただけで……? 私のを、見よう、見まねで……、

 あまつさえ、火属性の上級魔法……《爆焔玉(フレイム・ストライク)》を、

 ……む、無詠唱っ!?!?」








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勇者到着まで あと 68時間43分32秒

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