09話 トーナメント控室でまったりしてもよいだろうか








 これまでのあらすじ。


 

 魔王の中の魔王を決める武闘大会、

『十二|斂(れん)魔王トーナメント』に、俺が出ることになりました!



 

 提案したのは俺なんだが、

 フィリップの鶴の一声で決まったらしい。



 らしいというのも、用意してもらった控室みたいなこの部屋に、

 さっき執事のヨーハンが来て、俺の代表出場が決まったと教えてくれたからだった。



 どうせ勇者とはいつか相対しなきゃいけないとモッチーには聞いていたし、

 なんか、家臣団のヒト達も、困ってたみたいだし。



 スカウターの表示を信じるなら、フィスト家では、俺が出場するのが一番いい気がするし。




「うーん、それにしても」




 この控室、まことに優雅だなー。

 俺の賃貸ワンルームマンションの何倍くらい広いんだ……?

 ここに住んじゃだめかな、俺。



「さすがは魔族の城ということかー」



《# すいません、富士雄。こんなバトル展開になっているとは……》



「は? いやいやモッチーは気にすんなって。こうして転生させてもらえただけで、俺は嬉しいよ」


 

 俺の【情報化視界】の中の、3頭身のデスクトップモッチーがもじもじする。



《# でも、富士雄……》



「それに、俺ってもしかしたら変な貝とかクマムシで、

 おもちゃ作りどころじゃなかったかもしれないんだから、これくらいのことはなんてことないって」



《# い、意地悪いわないでくださぃっ/////》



「というか、魔『王』として産まれたなら、家臣を見捨てちゃだめな気がするんだよなぁ」



 まあ、正直言って「自分にそんなことができるのか?」と我ながら思ってしまう部分もあるのだけど、

俺はモッチーを、……というか、モッチーが俺に託してくれた『作られなかったおもちゃ達』の魂が

俺に教えてくれたことを信じたい。



それに『勇者と相対する魔王』に転生するっていうのはこれ、『十二斂魔王』のことだろ。



《# わたし、そういう富士雄の考え、好きです》



 キュンと来た。



「ええと……、あ、あのさ、モッチー」



《# なんですか? 富士雄》



「……、あ、いや、ええと……」



《# ??》



「こ、この世界の魔術とかって、どんなのなんだろーな!」



 ……タイミングを見て、俺、モッチーにプロポーズしたいんだけど……!!


 さすがに今は駄目だろうなぁぁ……。



 変な遠距離恋愛になっちゃうけど、こんなおもちゃ好きな女の子、

 俺のまわりには、もうあんまりいないだろうし……。


 というかまたモッチーと、夜が明けるまでおもちゃトークしたいし……!



 俺は、なんか「みんな書いているので」と渡された、

『このトーナメントで優勝した魔王を十二斂魔王として認め、条約内において命令に従う』的な

契約書に同意同意同意! とサインを書きなぐりながら、もじもじ!


これがモッチーとの婚姻届だったらなぁ……!


って、もう結婚とか考えてるの!? 照れる……ぁあ顔! 赤い!



《# そういえば、富士雄はヨーハンさんに魔術師を呼んでもらっているんですよね》



「あ、え? あ……ま、まあ、魔術……うん、付け焼き刃でもあったほうがいいかなと……」



「十二斂魔王に俺はなる!」と言ってみたはいいものの、

さすがにこのままトーナメントっていうのは、俺も不安だった。


でもこの世界にも魔術はあるっていうし、さわりだけでも習えれば、ゼロよりはマシなんじゃなかろうか。



「だが、俺としては、もう一個のリクエストの方が重要!」


 

《# はいっ!》 



 試合の前のモチベーションアップのためにも、俺は子どもにおもちゃを作ってあげたい! 


 ので、子どもも連れて来てって、ヨーハンに頼んだのだ!



 ま だ か な !



《# ヨーハンさん、遅いですねー》



「Bブロックのトーナメント、なんか、総当り戦になったらしいから、

 時間はできたって言ってたけどな」


 

 聞くところによると、フィスト家にはもっと前に魔王が誕生していたはずで、

 産まれた魔王に修行というか、きちんと準備をさせるはずだったらしいのだが、

 どういうわけかぎりぎりになってしまったらしい。


 

 なんでも、

『十二斂会議』のために作られたこの城、宮殿? に、一族の威信をかけた魔王生誕セットまで持ち込んで、

 がんばったらしいのだが、

 産まれたのが俺みたいのだったら、そりゃ、正直ごめん……って思う。

 


 でもがんばるよ!?



 ちなみに、俺が原因の事故で崩壊した城は、

玩具創造トイ・ファクター】のデミスキル、【復元レストア】でなおした。



 ほんと便利な、【玩具創造トイ・ファクター】。



《# 幻想級スキルですので!》



 いや、モッチー。前から思ってたんだが、幻想級って聞いただけだと、

 どんくらいすごいのか、よくわからんのだが。



《# この世界の【スキル】には、ランクが設定されていまして、

 【玩具創造】は幻想級で、SSS級で最高ランクなんです!》



 この子は説明とか苦手な子かな?



 モッチーの話をまとめると、スキルランクっていうのは、こんな感じになるらしい。




■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 


  Eランク【マニュアル級】 バイトくん。

――――――――――――――――――――――――――――――――

  Cランク【本職級】それをやるなら、あの人に頼めばいいよ? くらいの玄人。普通の職人。


  Bランク【雷鳴級】その業界、スジのものなら知らない者はいない。名人。村に1~2人。


  Aランク【特記級】都市や街を代表する業師。ギルドマスター。


  Sランク【奇譚級】当世における達人と呼ばれる者。複数の国に名声が知れる。国の召し抱え。

  ※このあたりから、魔族ステータスに表示される〔非理法〕がカウントされ始めるらしい。


 SSランク【伝承級】生物がたどり着ける最高位。世界にその名が知れ渡る。長く語り継がれる。


――――――――――――――――――――――――――――――――

>>>>>>>>超えられない壁>>>>>>>>>>>>>

――――――――――――――――――――――――――――――――


SSSランク【幻想級】現界には知られていない。知られることのない技。神の技。


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 



ふ、ふーん……



《# 反応うすすぎですよね! うっすうすですよ!?」



確かに、0.01ミリくらい薄くて、モッチーにはあれかもしれないが、

正直俺も、どうリアクションしていいかわからない。



まあ、確かに【玩具創造トイ・ファクター】って神の技であって、人が持ってちゃいけない感じもする。



「モッチー、これ、やっちゃってないか……?」



《# え……? そ、そうでしょうか……》 



「まあ、気にしないことにしよう! 俺これ、おもちゃづくりに使うんだし!」



《# で、ですよねっ!》




 こんこんっ




「おわっ」



 椅子に寄りかかってモッチーの相手をしていた俺はバランスを崩し、両手を振り回す。



「失礼いたします」



 入室してきたのは、フィスト家執事のヨーハンだった。

 やべぇ【強化索敵】意識してなかった。

 以後、反省。


「フォースタス様、子供と魔術師の用意ができてこざいます」



 軽く腰を曲げ、顔を伏せるフィスト家執事のヨーハン。



「よかった、間に合ったんだ。外で待ってもらってるのか?」



 俺は素早く壁沿い、サーチされている廊下の向こうにいるであろう人物をチェック。



 出現していた輪郭は2つ。



 この大きさ、2つとも子どもかな?



 ■ ■ ■ ■

 名前:  クラーラ・フィスト

 俗称:  火宴(かえん)のクラーラ

 種族:  魔族

 クラス: 魔術師


 〔戦〕  200


 〔謀〕    0


 〔非〕    9

 ■ ■ ■ ■




 ■ ■ ■ ■

 名前:  リーゼル・フィスト

 俗称:  氷苑(ひょうえん)のリーゼル

 種族:  魔族

 クラス: 魔術師


 〔戦〕  100


 〔謀〕  100


 〔非〕    9

 ■ ■ ■ ■




 殺戮執事のヨーハンより強い子どもが外にいる!! 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

勇者到着まで あと 69時間51分00秒

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