08話 試しにひとつ提案させてもらってもよいだろうか








 どうしよう!


 ひどいマッチポンプ!!



「すいません、俺がやりました!」



 第一声で謝罪!


 しかし!



「いや、救助にはこちらから礼を言う。それより、キミはなにか、

 この崩落の原因に心当たりはないか?」



「あ、あの、ですから――」



「兄貴そいつだ! 俺は視界の端で見てた! そいつが城をぶっ壊しやがった!」



 生きてて嬉しいよバンベルグ!!



 瓦礫の下から泥まみれで姿を現す大柄な脳筋将軍は、

 どしどしと俺の目の前までやってきて、



「ぶっ殺す!」



 拳を振り上げ、俺で瓦割りだぁぁああッ!


 

「せいっ」



 ふぉんっ



「おごあああああああッ!!」



 ひっくり返って背中から地面に地割れを作ってめり込むバンベルグ!


 なんか思わず一本背負いしちゃったんだがぁぁ!

 


「貴様、なにものだ!」



「怪しい者ではないんですが!」



 俺に向けて長剣を抜刀するハンサム魔族、フィリップ・フィスト!



「フィリップ様、お待ちください。

 この者こそ、我らフィスト家が待望した魔王。

 フォースタス・フィスト様であります」



 いいところに来た! 執事のヨーハン!



 なんであんた、さっきのでまったくの無傷なの!?

 良かったけど!



「まさか……、人間の、子供だぞ!」


 

 目を剥いて驚いているフィリップ。 


 やっぱそれがネックなのかー。

 


「ちょっと質問があるんだけど、いいですか……?」



 俺は片手を軽く上げて、



「その、さっきから言ってるトーナメントって、なんなのか、教えてもらっても?」



 俺とフィリップ、そして側に控えるヨーハンと

 大地にめり込むバンベルグのまわりに、いつのまにか

 家臣団が集まって来ている。



 フィリップはしばらく迷ってから、ヨーハンの顔を立ててか、

 抜いていた剣を収め、



「この魔大陸に、勇者とその軍勢が侵攻しようとしている。兆候はすでに各所で観測され、

 一部ではもう上陸しているとの噂もある。このままいけば早期の開戦は確実だろう」



 ひとつうなずき、現状をまとめるように説明を始めた。

 そうか、魔族からすると侵攻ってことになるのか。

 しかも開戦確実って。



「たかが冒険者の頭目ごときに、万が一にも魔族が劣勢となることなど無いだろうが、

 この魔大陸にある魔族十二家が、今のようにバラバラのままでは、

 そこにつけ込んだ冒険者どもに、各個撃破される恐れがある……」



 ふむ、人間は知恵が働くからなー。



「そこで、過去にも先例があった、魔族十二家の中で、代表となる魔王を一人選ぶという

 『十二|斂(れん)魔王』制度を復活させ、一時的にでも魔族を統一するようにと玉璽(ぎょくじ)様が

 おっしゃり、こうして急遽、話し合いがもたれることとなったのだが……」



 ぎょくじ様?



 待て、今、なんで頭の中に、ポッドの外にいたテディベアの姿がよぎった?

 わからんが、今はクマの人形のことなんて考えているべきじゃない。



 な、なんだろうなー、ぎょくじさまって。これはあとで聞こう。頭の中にメモメモ。



「しかし、なによりも力こそを信奉するのが魔族。

 話し合いは、いつの間にか、代表戦による十二斂魔王決定トーナメントになっていたのだ」



 なんだろう、少し好感が持てる。

 少年漫画展開だからだろうか。


 画面隅のモッチーも、なんか興奮してる。



「我々はどうにか話し合いで解決したかったのですが……」



 フィリップのため息似合わせるように、文系メガネ魔族がそう漏らした。



「というのも、我がフィスト家は、お恥ずかしいことに、

 ここしばらく、魔王と喚ぶべき傑出した人材を輩出できないでいます。

 力によるトーナメントともなると、他家には一歩も二歩も遅れを取ってしまうのです」



 フィリップは忸怩たるものを感じているのか、首を振り。



「もうAブロックの勝者は決定し、今、Bブロックの試合が始まろうとしているところだ」



「Aブロックが、もう決まったのですか!?」


「ああ、あのメイが四つどもえのバトルロイヤルを提案してな。

 その案が採用され、大方の予想通り、魔王メイ・ファーがAブロック代表になった」



 フィリップの言葉に、戦慄が家臣団を貫通していく。

 魔王メイ・ファーか。これも憶えておこう。


 

「我々が属するCブロックの試合は、早くて一時間後には始まってしまう。

 それまでに、我々フィスト家も代表を決めなくては……」



 フィスト家の現最高戦力とも言うべき魔将軍の顔色は優れない。

 あたりまえだよな。

 端から聞いてても、胃が痛くなるくらい、すごいギリギリの話に聞こえるんだが……。



「このままでは、あのメイ・ファーが『十二斂魔王』に!」


「フィスト家と一番馬が合わないのがバリバリ体育会系のファー家なのに!」


「Bブロックには、あのハリビュール・ビートがいる」


「お忘れですか? 我々のCブロックにも優勝候補のトアロ家があるのですぞ!」


「フィスト家はもう終わりだ……」



 家臣団に動揺が伝染、増幅していく。



 俺は考えをまとめる。



 つまり、勇者の軍勢を前に、一致団結して対抗するための、トーナメント。


 うーん……



「お城を壊しちゃった責任も取らなきゃだし、俺の利害も一致するし……」



 俺は、おずおずと、 喧々諤々(ケンケンガクガク)の家臣団に声をかけた。



「あのー」



「なんだ」



 振り向くフィリップに、俺は提案する。




「そのトーナメント、俺が出て、手っ取り早く『十二斂魔王』っていうのに、なっちゃだめかな」






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勇者到着まで あと 70時間48分11秒

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