06話 すごい勢いで俺を煽ってくる脳筋将軍をスルー検定してもよいだろうか

 








 おっす。


 オラ、米村富士雄。


 今、ちょっとピンチかもしれない。



「人間の、子供……ですと!?」



 あー、なにこれ。


 俺は、執事のヨーハンに連れられて、大広間にやって来ていた。


 どうやら俺が転生してきた場所は、大きな魔王の城のような場所だったらしい。


 で、俺がぽこぽこ、たゆたっていたポッドから出て、

 しばーらく歩くと、ここに出た。



 謁見の間?



 王様がいて、家臣たちが、ははーってする部屋だと思う。



 俺が、舞台裏みたいな所から、トコトコと玉座の前に姿を現すと、

 ズラーッと膝をついて並んでいた家臣団みたいな、キリっとした魔族達が

 ぎょっとなって騒ぎ始めた。



「ヨーハン殿! 冗談ではありませんぞ!」


「人間の幼子が、我々の王!?」


「なんたること……!」 


「これではもう、我が一族はおしまいですぞぉお!」


「こ、こうなったら、オレがトーナメントに……!!


「ムリぞな! 他家の魔王に、あっという間にバラバラにされるのがオチぞな!」




 ちなみにこのヒト達、俺とかに比べると、かなり顔とかが青白いが、

 別に貧血とかではなさそうだ。


 ざっと30人くらいだろうか。


 半分が将軍みたいな甲冑を着込んだ筋肉とかすごい魔族。

 もう半分が、ローブを着た文系っぽい魔族。魔術師かな?


 あと、メイドっぽいのと、執事っぽいのも少し。


 そのヒト達が、俺を見て、なんか悶絶してる。



「ヨーハン、これ……」


「我がフィスト家を代表する者達です」


「なるほどね」



 俺としては、なんも、なるほどじゃないんだが……。

 もう少し説明して欲しい。



 確か、俺の魔王ネームが、



 ■ ■ ■ ■

 名前:  フォースタス・フィスト

 真命:  米村 富士雄

 種族:  人間

 クラス: 魔王

 ■ ■ ■ ■



 フォースタス・フィスト。


 フィスト家ということは、これ、俺が所属する一族でもあるのか……?




「おーいおいおいおい、どうしたどうしたー」




 その時、大声で、家臣団のさらに後ろの出入り口から、

 ひときわガタイのいい、

 いかにも猛将っぽい大男がやってきた。


 トイレにでも行ってたのか?


 どれどれ、スカウターはと……



 ■ ■ ■ ■

 名前:  バンベルグ・フィスト

 種族:  魔族

 クラス: 魔将軍


 〔戦〕 2000


 〔謀〕    0


 〔非〕    3

 ■ ■ ■ ■



 やべえ。

 脳筋やべえ。



「バンベルグ殿! 実は……」



 文官っぽいメガネの学級委員風魔族が、バンベルグになにやら説明している。


 けど、俺はそれどころじゃない。



 一騎当千どころじゃない。



 こいつ、やばすぎる!!


 ヨーハンの〔戦〕120とかでびびってた俺、なんなの?



 2000て!!


 2000人の戦士を殲滅できるんですぞ!?



 あと〔謀〕ゼロて!


 この際、話が通じないかもしれないのが一番怖い!



「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! こ、こいつが魔王……!? 

 ぐっひゃっひゃっひゃっ……! 

 トイレには行っておくもんだな! 

 あやうくこのバンベルグ様が新しい魔王様を前に漏らすところを家臣どもに見られるとこだったぜ……!」



 委員長魔族に説明を聞いたバンベルグが爆笑してる!

 脳筋が笑ってる!



「おい、小僧ッ!!」


「こ、小僧て……!」



 フィスト家が誇る将軍なのだろう。


 こんどは突然激怒したっぽいバンベルグが、手にしていた巨大な棍棒の先端を俺に突きつけ、



「なんでおまえのようなヤツがここにいるのかはわからねーが、とっと失せろ! 

 ここはガキがいていい場所じゃあねぇ。

 今日は特別な日だ。命だけは取らねぇでやる。

 ったく、こんなモヤシ小僧がどこから入って来やがったんだ……!」



 ざわめきが止んだ。


 そして家臣団は、なんか納得したように、俺に批難の視線を向け始めた。



「あー……」



 どうやら、みんなの間では、これは間違い! ということになったらしい。



「ヨーハン殿、しかたねえ、トーナメントには、俺が出る」


「ですが、いくらバンベルグ殿でもっ!」


「しかたねーだろ!! じゃあ他にどうしろってんだ!」



 またざわつきはじめる家臣団。


 というか、待て。

 このバンベルグでも、やめろって止められてるトーナメントって、なんだ?



「お待ちください」



 ヨーハンの声に、再び場が静かになった。


 このじいさん、ただの執事じゃないのか?



「さ、若」


「……は?」



 なんでここで俺に振る!?



「……いや、なんかよくわからんが、あいつが、

 そのトーナメントっていうやつに出るって言ってんだから、

 それでいいんじゃねぇか……?」



 俺がここで場違いってのは、よーくわかった。


 こっちも別に、そういうもんに出たくはない。


 俺がしたいのは、子供のためのおもちゃ作りなのだ。


 家臣団の中に子供さえいれば、俺も役に立てるんだが、見あたらない……! 



 俺のステータスなんて実際、たかが知れて――



「……ん?」



 なあ、モッチー。




 《# なんでしょう》




 モッチーで返事しちゃったよ!


【天の声】じゃないのかよ!


 まあいいや。



 あのさ、俺のステータスって表示できる?



 《# もちろんです。 魔王フォースタス・フィストのステータスは、こちらとなっています》



 すると俺の視界に、モンスター図鑑のように、俺の全身図が投影され、

 その横に、



 ■ ■ ■ ■

 名前:  フォースタス・フィスト

 真命:  米村 富士雄

 種族:  人間

 クラス: 魔王


 〔戦〕  18000


 〔謀〕   6000


 〔非〕    169

 ■ ■ ■ ■









 ……は? 








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勇者到着まで あと 71時間28分02秒

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