05話 第一村人をスカウターで発見してもよいだろうか






 ■ ■ ■ ■

 名前:  ?

 真命:  ?

 種族:  テディベア

 クラス: ?

 ■ ■ ■ ■




 ハテナハテナじゃないよ!

 解れよ!



 《# 【情報化視界】と【大百科エンサイクロペディア】をコラボさせますか?》



 まじで!? するする! モッチーやってくれ! 俺の夢! 実現させて!!


 というか事務的なやつなら、平静を気取れるのなモッチー! かわいい!



 《# じょ、【情報化視界】と【大百科エンサイクロペディア】をコラボさせています! 残り時間90秒》



 わかったからはやく! はやく! このテディベアすごく気になる!


 このぬいぐるみ? キグルミ?? 俺を煽るように踊り始めた! むかつくから! むかつくから!



 《# 残り60秒》



 あーっ! 行っちゃう! 

 あのクマ、走ってどっかいっちゃうー!



 《# 残り30秒 ………… ……10、9、8》



 ああぁぁ……



 《# 完了しました。今後、【情報化視界】の情報は【大百科エンサイクロペディア】と同調します》



 おそいよモッチー……! 

 もうあのテディベア、どっか行っちゃったよ!


 でも、『パパ・ママおしえてスカウター』と『なんでもMyひゃっか』のコラボうれしぃぃっ!

 ありがとモッチー!



 ……とにかく、はやくこのポッドから出よう。



 俺はもう一回、さっきの態勢。

 ちょっと屈んで、扉に指をかける。



「ふんっ」



 重い。


 重いので思いっきり下から上に踏ん張ると、



 バゴン!



 え? 壊れたんだけど……!



 真上に吹っ飛んでいって、がーんっ! と高い天井にめり込む扉。



 俺を包んでいた水がざざーっと溢れだして、しゅわーっと床に広がっていく。



 ま、いっか……。




 俺は口からマスクを取り外し、外に出る。




  薄暗い。


 石造りの大きな空間だ。


 部屋? なのか?


 ふいにスカウターが反応する。



 石! 石! 石! 石壁! 石壁! と意味のない情報をいちいちクリックして消していた俺の視界に、

 誰かが壁の向こうから近づいて来るという情報が浮かんだのだ。


 壁を透視するように、ヒトっぽい輪郭が近づいて来る。


 おお、これ、【強化索敵】かな? めっちゃ便利。


 魔王に不意打ちとかありえないし、

 にげるコマンドも通用しないんだぜ。



 これなら第一村人との遭遇も怖くない。



 どれどれ、どんなやつがくるのかな? 



 ■ ■ ■ ■

 名前:  ヨーハン・フィスト

 種族:  魔族

 クラス: 執事(家令)

 ■ ■ ■ ■



 ん? 魔族だと? 

 怖いやつじゃないだろうな……



 《# トロフィーを獲得しました♪》



 な、なんだいきなり! 

 モッチーの声と同時に、俺の情報化視界の右上に、メッセージが現れる。



 《#『シルバー』 魔族の解析者》



 こんなの、あるんだ……。


 い、意味は、あるの?



 《# トロフィー獲得リワード 【情報化視界】制限解除》 



 あるみたい!



 《# 【情報化視界】派生【デミスキル】、【魔族ステータス看破】が解放されました》




 ■ ■ ■ ■

 名前:  ヨーハン・フィスト

 種族:  魔族

 クラス: 執事(家礼)


  〔戦〕 120


 〔謀〕  50


 〔非〕   2

 ■ ■ ■ ■



 お、ステータス増えた。


 増えたが、〔戦〕? 〔謀〕? 〔非〕?


  よくわからん。



 《# ステータスの説明を聞きますか?》



 頼むモッチー!



 《# 〔戦〕〔謀〕〔非〕は、力ある魔族の存在を明示するステータスです。



 〔戦〕は、腕力、魔力などの総合的なパワーを表す指標です。

 〔戦〕はおおむね、武装した人間の軍勢を単独で殲滅できる最大数値を表しています。



 〔謀〕は、知恵や情報、資産、人脈などの謀略力を表す指標です。

 〔謀〕はおおむね、最大で同値の軍勢を戦場、または戦場外で無力化することができます。



 〔非〕は、魔族の持つ非理法である、特殊なスキルによるブースト力を表します。

 任意の数字を〔戦〕〔謀〕に掛け合わせ、飛躍的に力を高めることができます》




 一回じゃ憶えられないよう。

 詳しくはモッチーと、あとで復習するとして。




 つまり、この、

 すでに俺の前に到着し、

 全裸の俺をしげしげ見つめる、この執事服の老人は、


 やる気になったら、たった一人で武装した軍人120人を屠り、

 50人を戦略的に無力化できる……ってことか?


 なんだそのワンマンアーミー。


 魔族、こええ。


 どんな殺戮執事なんだよ……



 っていうか、あれ?



 俺、やばいんじゃないの?



 いや! 俺は魔王!


 きっとこの執事より強いはず!



「あの、ヨーハンさん……?」


「わたくしめのことは、ヨーハンとお呼びください、若(わか)」



 若ときたか!



「じゃあ、ヨーハン……、ちょっと寒いんで、着る物とかないですかね」


「御意」



 執事は一礼して、壊れたポッドの横の物入れをごそごそやり始めた。



「こちらを」


「おそろいの執事服……!」


「御意」


「いや、御意じゃなく、これだといろいろまずくないか……?」


「若、もうしわけありません。今はサイズが合う服がそれしかなく。

 わたくしめは、若のそのお尻姿でまったくかまわないのですが」



 お尻姿ってなに!?



 俺は急いで執事服を着た。

 ぞわっときたぞ!?



「しかし若、なぜわたくしめの名を?」



 執事服に身体をなじませていると、ヨーハンが聞いてくる。


 なんて答えよう。



「ま……魔王とも、なれば、そのようなこと、たやすいっていうか……」


「ははっ、御意に」



 なんか通じた……!


 でもこの恰好、やっぱ完璧におじいちゃんの孫執事だぞ。


 魔王がこれでいいのか?


 威厳とか、最初が肝心な気がする。




 《# 【玩具創造トイ・ファクター】スキルを使い、執事服を任意のデザインに変更しますか?》




 すごく便利なんですけど!


 俺はさっそく【大百科エンサイクロペディア】からカタログをピックアップ。


 でも14歳前後の俺では何を着たって魔王の威厳なんか出るわけないので、

 ジーンズとパーカーにしておいた。


 

 一瞬で執事服の繊維がほどけ、一秒全裸。



「うおっ」



 魔法少女変身シーンを体験しながら、服が再構成される。



 お、ぴったり。

 ……せっかくのファンタジー世界が、一気にユニ○ロ、もしくはしま○らになったな。



 威厳?



 はは、そういうの、いいんで。



 それよりも、この【玩具創造トイ・ファクター】スキル。


 名前通り、おもちゃ作りが、めちゃくちゃ捗りそうなんだが……!




 《# 幻想級スキル【玩具創造トイ・ファクター】は触れた物体にあらゆる形質変化を与えるスキルです。

 【玩具創造トイ・ファクター】のスキル効能には以下の【デミスキル】が含まれています。


 【再構成リライト】 今行われたように、物体の構成を組み替えて形を変形させます。


 【復元レストア】 壊れた品を元に戻します。


 【増産マスプロダクト】 過去に作ったものと同じ物品を瞬時に作り出します。


 【融合ユニティ】 二つのものを一つに合成します。


 これらを掛け合わせて使用することも可能です》




 うおおお……!

 燃えてきたぁぁ!



 夢がすごい勢いで広がりんぐ……!



「それでは若、どうぞこちらに」



 よし、このヨーハンさん、どうやら敵ではないらしいぞ。

 というか、味方っぽい。



 目の前で俺が突然、早着替えしたというのに、ちっとも驚かないしな。



 俺は執事のあとについて、わくわくしながら石造りの部屋を後にした。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 勇者到着まで あと 71時間36分20秒

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る