第5話なろうと想えば・・・
「内田さーん!」
何人かの警官に押さえられながら、森野さんは暴れている…。
私は、たった一人の警官に捕まって震えている…。
怖い……。
身体が砕けそうなほど震える。
ヤツは興奮した声で喚き散らしている。
「ヘリだ!ヘリを用意しろ!」
「ムリだ!どこに下ろす!」
「ここの屋上だ!今から上がる!」
「ムリだ!」
「うるさい!いいからやれ!撃つぞ」
ヤツが言った「ここ」とは、駅前に最近立った10階立マンションのことだ。
「待ってるぞ!」
そう言うと、ヤツは私を連れてマンションに入り、エレベーターのボタンを押した。
「内田さあーん!!」
森野さんは、まだ諦めずに私を助けようとしてくれている。
”森野さん…”
もっと早く仲良くなりたかった。
なんで今まで、そう想わなかったんだろう…?。
やがて、エレベーターが来て、それに乗り込む。
扉が閉まる瞬間…。
森野さんが警官の手を振りほどいて、走って来るのが見えた…。
マンションの屋上は、ヘリポートになっていた。
ヘリコプターが降りるため、高いフェンスもなく、吹きっさらしの風が冷たい。
「全く!飛んだ疫病神だ!」
そうかも知れない…。
「今度こそ、大人しくしてれよ!」
言われなくても、そうする。
何をしてももうダメだ…。
でも…。
謝りたい。
森野さんにちゃんと謝りたい…。
そう思ったら涙が出てきた。
「アハ!?アハハハ!」
人の泣き顔が、そんなに楽しいのか?狂ったように笑っている。
「ヒャヒャ!ホントに物好きだな?!」
なんの事?
意味が分からず顔を上げると…。
「も、も、森野さん!」
森野さんは、肩で息をしている。
まさか?階段で?!
もう、言葉にならない…。なんでそこまで?
「助けたいと、想うから…。」
「は?何だって?」
「助けたいと想うから、私が助ける!」
森野さんは、間合いを詰めるように近付いてくる。
歩調を合わせるように、私達は後ずさった。
”助けたいと想う”
森野さんは確かにそう言った。
”私だって同じだよ…”
私だって、森野さんをこれ以上危険な目に合わせられない。
「来ちゃ……ダメ…。」
声が上手く出ない…。
森野さんが、ふと立ち止まる。
「ダメーー!」
その声が合図だったかのように、森野さんが走り出した!
ヤツが銃を構える。
私がオモイッキリ体当たりをすると、少しよろけた!
「内田さん!」
早い!もう目の前まで来ている!
「森野さん!!」
手を伸ばすと森野さんが握り返して来た!
「飛ぶよ!!」
「へ?!」
言った瞬間!森野さんの身体は羽でも生えたみたいに、フワリと舞上がった…。
私の手も、そのまま引っ張り上げられる。
「へ?へ?」
私たちは、マンションの屋上の”外側”に飛び出した……。
「へ?へ?へ?」
手足をバタバタさせても地面どころか、壁にも届かない…。
”落ちる?!”
そう意識した瞬間、頭から地面に落下しているのが分かった。
「きゃーー!!」
「内田さん…」
耳元で囁かれたみたいに、森野さんの声がクッキリ聞こえる。
「落ち着いて、手足をなるべく大きく広げて。体を地面に水平に…」
言われた通りにする…。
ブワッ!
身体が舞い上がった!
「飛んでる?!」
実際には抵抗で速度が落ちただけだろう、でも…
「キモチイイ!」
「スゴイ!ねえ!」
「ん?」
「見て!」
森野さんに言われて回りを見ると、見慣れた町がキラキラと輝いて見えた。
「キレイ…」
怖さを忘れる!
ずいぶん長い時間に感じたけど、ほんの数秒の出来事だったんだろう…。
やがて、目の前に地面が迫って来た…。
ドスン!
「ねえ?」
「ん?」
「知ってたの?」
「何が?」
「これ…」
私たちはでっかいフカフカのマットに埋まっていた。
「あー。さっき準備してた」
なるほどー。結局森野さんの計算どおりかー。
「犯人カクホー!」
警官が大きな声で叫んでいる。
”ザマアミロ”
気分がスッと軽くなった。
見事に腰が抜けた私は、担架に乗せられたが、森野さんはもう立って歩いている。
お母さんが泣きながら近寄ってきた。
森野さんは、警察に話しをしている。
私は、担架のまま救急車に乗せられる。
「森野さん!!」
「え?!」
「ホントにアリガトウ!」
「もういいって!」
「ねえ!」
「なに?」
「もっと仲良くしようよ!」
森野さんはニッコリ笑って来た。
「それもイイかもね!」
なれるさ!仲良くなれる!
”なろうと想えば!”
飛ぼうと想えば 枡田 欠片(ますだ かけら) @kakela
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます