まだぁ?
「なあなあ、早く答えてくれぇ。おーい、できたぁー?」
目をキラキラ(というより獲物をとらえて楽しんでいるように)輝かせ、塩田先生は生徒を煽る。
今日のターゲットは
……そんな変な笑顔見たくないから、私は彼のことをトキ瓜なんて呼んだことはありません!
ご、ごっほん。話を戻そうか。
そんな時見くんはいつも大きな号令をするため、どの教科の先生もすぐに彼の顔を覚える。それは、塩田先生も例外ではないようだ。ただ、塩田先生はいつも適当な人を選んで、そこから順番に指名していくので時見くんが指名されたのは偶然のようだ。
「時見、わかったかい」
「いいえ、全っ然わっかりません!」
「おめえ、いちいち声がでけぇ。俺の耳は繊細なんだから、もっと繊細な声で話してくれ」
時見くんが指名されて早くも2分が経っていた。…塩田先生の授業で指名されて2分立つと、大体何か起きるんだよね。巻き込まれたくないから、頼むから時見!早く答えてくれよ。
「で、時見まだぁ?」
「いやぁ、まだですね。ハッハッハ。」
「まだぁ?」
「まだです」
「ま」
「塩田先生、まだですから」
ここで、時見くんは目を細めてニカッと笑った。クラスの皆は、いつもみたいに彼の表情を見て笑い声をあげた。
塩田先生は、時見くんとクラスの皆を一瞥すると、白板の端までゆっくりと歩みを進めた。そして、ゆっくりと振り返り、シニカルな笑みを浮かべた。
「そんなに難しいんかね、時見。まぁ俺が特別にぃ教えてやってもいいがなぁ」
…今なんて言った、ねえ、今先生は何て言ったよ、え?
誰もがそう思った。3秒の注目の直後、教室はザワついた。
それも当然。だって、あの塩田先生が!あの塩田先生が「特別に教えてやってもいい」だって!百年に一度、いや千年に一度じゃないの。こんなことを言うのは…。
当の時見くんも、特徴的な細目を見開いて、口をぽかんと開けている。
生徒の反応を楽しんでいるような塩田先生は言葉を続ける。
「ただし、一つヒントを出すごとにぃ、VONDAのEvening Shotっていうコーヒーを12本買ってもらうからなぁ。どーするかい、時見。」
VONDAのEvening Shotといえば、うちの学校の自動販売機で売っている赤い缶コーヒーのことだ。後ろで「し、塩田先生…好きなものはVONDAのEvening Shot…はぁ、尊い」といううっとり夢見心地の聖の声が聞こえたような気がするが。気のせいだと信じたい。
「時見ぃ、はやくしてくれ。授業おわっちまうんだけど」
教卓の陰からのぞく、スラリとした足をかるく曲げて貧乏ゆすりをしている先生。相変わらず何を考えているかわからない。
さあ、時見くんはどうする。クラスの視線は自然と彼に集まった。
すると、彼は突然手を挙げて立ちあがり、よく響く太い声でこう言った。
「先生、俺、金欠なんで10円のまずい棒でいいっすか」
「アホか。へい、号令。」
えっ。ちょっと、まだ帰らないでくださいよ!授業終わったけど、せめて時見くんに答え教えてあげてください…。
振り返ると、私の後ろには「うわあ!時見、どうしてくれるんだ!塩田先生が…先生が帰っちゃったひいいいん!」とむなしく叫ぶ聖がいた。
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