尊くてしんどい
私は憂鬱だ。あの日からもうずっと―そう、中間テストである。
「はああ…」
頭を抱え、ガックリと肩を落とし、机に突っ伏した私の背中を誰かがばしぃんと叩いた。
「んぎゃっ!」
背中をそらすほど痛く、私は思いきり迷惑そうな表情をつくって叩いた犯人を見た。
「ゆつきぃっ!!」
当の本人は私の迷惑なんて全く気にならないという表情で、目をらんらんと輝かせ、バンバンバンと私の机を叩いていた。
彼女は
「何、うるさい。」
私はひりひりと痛む背中をさすりながら、むくりと体を起こした。
「だって、だってしょうがないよ!今日、世界史のテスト返されるんだよっ!?ぎゃん、やばい死ぬ。塩田先生に今日も会えるなんて尊いぐっは。」
本人の死亡宣言とは裏腹に、その表情は誰が見ても喜んでいるとしか見えない。小柄な聖が跳ねるごとに、頬の横に垂れている髪もぴょんぴょんと跳ねるので、ついついそちらに目が行き私はぼーっとしてしまった。
「ねえ、聞いてるよね!?」
「はえっ……あ、うん。」
「もうさあ、ホントにあれは反則過ぎ。いくらテスト中の巡回にしたって、質問で手を挙げたから塩田先生の目の前とか羨ましすぎる!わざと手を挙げれば良かったと後悔あああ、もうほんとしんどい。」
「はいはい、わかったよ、塩田先生が格好いいんだね。」
「もしや………柚月、わかるんだね!私は嬉しいよ!!是非とも塩田先生を愛する会に入らな」
「ごめん、無理」
「いや、私はめげないぞ!この世に塩田先生がいる限り、私の愛は永遠に不滅なんだからぁ!」
最後はやけにクサいセリフだなぁ、と心のなかで突っ込みを入れてしまうほどには私は慣れた。
しかし、ペラペラと捲し立てる聖を不思議そうに見ていた広谷くんは、始めこそ興味津々という表情であったが、次第に顔を青ざめさせ遂には顔を背けてどこかへ行ってしまうという始末で。
彼女の大きな欠陥―それは世界史教師、塩田への愛が重すぎるゆえ彼に異常なほどにも執着しているということだ。それこそ、私はいつも見ているから何とも思わないが、端から見ると異様にうつるらしく。塩田トークに慣れていないクラスメイトは毎度口をポカンと開けている。幸か不幸か、最近やっとこのクラスにもこの状況に理解が出ているのである。
理解されないことは諦め半分で、憂鬱な気分を漏らしてみる。
「あのねえ、私、思いの丈で恥ずかしい思いしたの。気持ちわかる?」
ぴょこんと髪の毛を跳ねさせ、聖は目を輝かせて答えた。
「羨ましい。」
「テスト返されたくない」
「柚月ずるい。」
「あのさ、話聞いてたよね……」
本日2度目の深いふかいため息をつき、私はまた机に倒れ込む。
「あっ、塩田先生来た。柚月、私席戻るね!」
塩田先生に快適な授業を提供したい一心からか、聖はあっというまに着席。
「うい、ごおれ。」
パン、と軽く教科書が教卓に載せられる音がし、こうして先生の気だるそうな口調でテスト返しは始まったのだ。
ちなみに、聖は塩田先生をかぶりついて見られる一番前の特等席である……。
―――――――――:作者、じゃがかけごはんから。
もう、誰が河相作品の白鷹白と同一人物かお分かりでしょう?ついでにいえば、両作品とも主人公(語り手)に注目すれば色々見えるかもしれません!
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