「お前やっぱりアーリマンが好きなんじゃねえの?」

《前回のお話》

ある日の世界史の授業は、クラスメイトの下原への質問から始まった。「お前、今日の朝イケてたか?」唐突である。その後も「イケてたか、イケテないか」という謎の質問を、一日の生活ごとに区切って質問を続けた彼に、一同は困惑しつつも楽しんでいた。

3話は2話の続きのお話です!



********************


「で、下原。お前、今はどうなんだ?」

世界史教師、塩田―――言い忘れていたが

彼は塩田というのだ――は唇の端を歪めていつものニヒルな笑みを浮かべた。

勿論、私たちの目線は下原くんへ。

「えっと、やっぱりイケてなかったです。」

彼が何だか悲しそうに言うものだから、また面白い。しかし、それを聞いて、塩田は案の定だが「へぇえ、そうかい」とわざとらしく相づちを打つのであった。

何と言うか、答えた側の者は、例え先生の性格や授業スタイルをわかってたとしても、自分が報われない気持ちになるだろう。


「へい、資料集開いて」

唐突の指示。たぶん、「はい、資料集開いて」と言っているのだろうが、口を必要以上に開けないので、「へい」に聞こえてしまう。

開いたページには、黒い太字で『ゾロアスター教』と書いてある。

やっと、やっとの本題だ。

「今日学習するのは、ゾロアスター教なんさ。ゾロアスター教つーのは、多神教で神が二人いる。」

先生は黒のマーカーペンを持つと、ホワイトボードに向き直って『善神』『悪神』という文字を書いた。

「ゾロアスター教の人は、人生には良い時と悪い時があるって考えたんだよ。で、イケてる時の神様をアフラ=マズダ、イケてない時の神様をアーリマンって名付けた」

イケてる神様…って、かなり端的というか。でも、先生の言わんとしていることは伝わってきた。だから『イケてるかイケテないか』をあんなにしつこく聞いていたのか……。

「で、ゾロアスター教は善神のアフラ=マズダ様を応援してあげないと、最後の審判で助けてもらえねえんだよ。天国行きてえ奴は悪と戦って善になるんだ。」

私は、この話を聞いて、イケてる時を善神とするのは、やはり前向きに生きるべきだというメッセージなのかとか、二人いるとどちらかが白でもう一方は黒にされてしまうのかとか。そういうことを考えさせられた。


「おい、下原」

「あえ?は、はい!」

再度呼ばれた下原くんは、自分の出番は終わったと油断していたようで、慌ててノートから顔をあげた。

「下原だったら、アフラ=マズダとアーリマンどっちがいいんだ。やっぱ、助かりてえよな」

「はい」

どこかで聞いたことのある台詞だが、まさかまた寸劇をするのでは、と誰もが思ってしまった瞬間だった。が、先生の一言でその心配はなくなる。

「『はい』じゃねえよ。どっちが良いか聞いてるんだ」

「あっ、はい。アフラ=マズダがいいです」

また『はい』と言ってしまった下原くんに皆はクスクスと苦笑する。

本人も、しまった、という顔をしており、それがさらに笑いを誘った。

「アフラ=マズダの方がいいか」

「はい」

先生は下原くんの顔をじっと見つめると、「でもさ」と言葉をついだ。

「お前、さっき今自分はイケてねえって、言ってたよな」

「はい、あ、言いました」

「朝からずっとイケてない時ばっかりじゃないか、お前」

「まあ、そうですね……」


「てことはよお








お前、やっぱりアーリマンの方が好きなんじゃねえの?え?」

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