「お前やっぱりアーリマンが好きなんじゃねえの?」
《前回のお話》
ある日の世界史の授業は、クラスメイトの下原への質問から始まった。「お前、今日の朝イケてたか?」唐突である。その後も「イケてたか、イケテないか」という謎の質問を、一日の生活ごとに区切って質問を続けた彼に、一同は困惑しつつも楽しんでいた。
3話は2話の続きのお話です!
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「で、下原。お前、今はどうなんだ?」
世界史教師、塩田―――言い忘れていたが
彼は塩田というのだ――は唇の端を歪めていつものニヒルな笑みを浮かべた。
勿論、私たちの目線は下原くんへ。
「えっと、やっぱりイケてなかったです。」
彼が何だか悲しそうに言うものだから、また面白い。しかし、それを聞いて、塩田は案の定だが「へぇえ、そうかい」とわざとらしく相づちを打つのであった。
何と言うか、答えた側の者は、例え先生の性格や授業スタイルをわかってたとしても、自分が報われない気持ちになるだろう。
「へい、資料集開いて」
唐突の指示。たぶん、「はい、資料集開いて」と言っているのだろうが、口を必要以上に開けないので、「へい」に聞こえてしまう。
開いたページには、黒い太字で『ゾロアスター教』と書いてある。
やっと、やっとの本題だ。
「今日学習するのは、ゾロアスター教なんさ。ゾロアスター教つーのは、多神教で神が二人いる。」
先生は黒のマーカーペンを持つと、ホワイトボードに向き直って『善神』『悪神』という文字を書いた。
「ゾロアスター教の人は、人生にはイケてる良い時とイケてない悪い時があるって考えたんだよ。で、イケてる時の神様をアフラ=マズダ、イケてない時の神様をアーリマンって名付けた」
イケてる神様…って、かなり端的というか。でも、先生の言わんとしていることは伝わってきた。だから『イケてるかイケテないか』をあんなにしつこく聞いていたのか……。
「で、ゾロアスター教は善神のアフラ=マズダ様を応援してあげないと、最後の審判で助けてもらえねえんだよ。天国行きてえ奴は悪と戦って善になるんだ。」
私は、この話を聞いて、イケてる時を善神とするのは、やはり前向きに生きるべきだというメッセージなのかとか、二人いるとどちらかが白でもう一方は黒にされてしまうのかとか。そういうことを考えさせられた。
「おい、下原」
「あえ?は、はい!」
再度呼ばれた下原くんは、自分の出番は終わったと油断していたようで、慌ててノートから顔をあげた。
「下原だったら、アフラ=マズダとアーリマンどっちがいいんだ。やっぱ、助かりてえよな」
「はい」
どこかで聞いたことのある台詞だが、まさかまた寸劇をするのでは、と誰もが思ってしまった瞬間だった。が、先生の一言でその心配はなくなる。
「『はい』じゃねえよ。どっちが良いか聞いてるんだ」
「あっ、はい。アフラ=マズダがいいです」
また『はい』と言ってしまった下原くんに皆はクスクスと苦笑する。
本人も、しまった、という顔をしており、それがさらに笑いを誘った。
「アフラ=マズダの方がいいか」
「はい」
先生は下原くんの顔をじっと見つめると、「でもさ」と言葉をついだ。
「お前、さっき今自分はイケてねえって、言ってたよな」
「はい、あ、言いました」
「朝からずっとイケてない時ばっかりじゃないか、お前」
「まあ、そうですね……」
「てことはよお
お前、やっぱりアーリマンの方が好きなんじゃねえの?え?」
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