「お前今日の朝イケてたか?」
「おい、お前。」
今日の授業は、この言葉から始まった。…といっても、先生はいつもそれで始めてる気がしなくもない。
目線の先でロックオンされているのは、廊下側の列の前から三番目に座る男子だった。
「お前だよ、下原恭。」
「え?っあ、はい!」
下原くんは、ノートから顔をあげ、自分が呼ばれたのかと困惑したようで、キョロキョロとしてから、ハッとして慌て返事をしたようだった。
「下原、おめぇさ」
「はい」
「今日は何時に起きたんだ?」
「へ」
クラス一同、突然すぎる流れについていけず、ポカンとした。
や、先生の性格を考えると、ここで後に授業に関係するであろう質問なんだろうということはわかっている。しかし、何故起きた時間なのだろう。わからない。
「何時に起きたか聞いてんだよ」
「あ、はい」
「返事じゃねえって、……何時なんだ?」
「あ、5時半です。」
はやっ、と心のなかで私は突っ込んでしまったが、それは置いておいて。
「ふーん」
出た、自分で聞いておいてあんまり興味ないです風の返事!初めは、なんでこの先生は適当な返事しかしないのだろうと思ったが、実はこの返事はあくまでも先程の質問が、ただの導入にすぎないということを表しているのがわかった。きっと悪気はないのだろう。
下原くんはじっと黙って、次の質問にはなんと答えようかと、考えを巡らせているのか、焦ったような表情をしていた。
「で、下原」
「はい」
「お前さ、その時どうだった?イケてたか?」
『は?』その場にいた全員が思っただろう感想だ。何、イケてるって…?
また、よくわからないものが始まったと、クスクスと笑いが起こった。
「下原、今日は短縮授業だから時間ねえんだよ。早く答えてくれ。イケてないのか?」
案の定、質問に答えなくてはいけない下原くんは非常に困っていた。考えた末の答えは。
「えーっと、い、イケてました…?」
「ふぅうん」
「……」
「で、ご飯食べて着替えただろ。その時は?お前イケてたか?」
まだ続くの、と絶望的な表情を見せた下原くんをみて皆がまた笑う。
「いや…ちょっとイケてなかったです」
「へーえ?じゃあ家出たときは?」
「…いっ、イケてました」
会話のパターン化がわかり、下原くんも私達も大分余裕が出て、口々に下原くんの回答に突っ込みをいれていた。
「イケてるかイケてないかの基準って、なっ何なんだよっ」
笑いながら、下原くんに突っ込んだのは、前回ヘブライ人役をした、あの小菅くんだった。
「で、だ。下原、お前朝学校についてどうだったんだ?」
「…全然イケてなかったです」
「へーえ」
先生の相槌が興味がないくせにわざとらしいため、余計に笑ってしまう。
…ん、ちょっと待て。
これ、何の話ですか……。
「小塚くん、小塚くん」
「はははっ、…え?」
腹を抱えて楽しそうに笑う、隣の男子、小塚くんは果たして、今日の授業内容をわかっているでしょうかー!
「お楽しみのところ悪いけどさ、今日の学習単元って何だっけ」
うーん、と唸って3秒の間があく。
「学習……単元………え、うん。わかんね。」
…デスヨネ。はい。
【 (お前やっぱりアーリマンの方が好きなんじゃねえの?)に続く】
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