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【12】
「暴力的な方法で起こしてしまったことは謝ります。ですが、少々緊急事態でして。使えるものなら竜でも使いたい状況なのです」
言葉の端々から焦りがにじみ出ていたが、それでもユーギは努めて冷静に話そうとしていた。カリマが初めて話したあの夜のあった、竜と話すということの恐怖や畏怖を感じさせることはない。
「それは別にいい、それより何故お前は竜のこと詳しく知っている?」
「この国のギルドの上層部なら、竜が憑き物であるのは常識として知っています。決して表に出る情報ではありませんが」
「ほう、なら人に宿った龍と意志疎通を図ったものが、この国にもいたのか」
「いいえ、それ以外は僕の個人的な知識です。……祖父が旅人でね、竜とともに旅をしていたというおとぎ話をご存知ですか? あれの作者は僕の祖父です」
「なるほど、直接龍と語らった者の子孫であったか。ならば竜の起こし方を知っていてもおかしくはない」
「父と母は最期まで信じようとしませんでしたけどね……。……時間が許せば昔話に花を咲かせたいところですが、あいにくと時間がありません。こうしている間にも、竜たちによる被害は拡大している。僕らはあれをなんとか食い止めなければならないのです」
カリマはすっかり蚊帳の外でそのやり取りを聞いていた。ユーギの祖父があのおとぎ話の作者だったとは知らなかったが、それよりも今はユーギの必死さの方に気が向いていた。こいつはまだ、このスラムのことを一番に思っているようだった。
「一つ問うぞ、何故お前はそこまでしてスラムの人々を助けようとする。先ほどの話を聞く限り、多少の犠牲を払えば竜を止めることはできるのだろう?」
「……最初の二匹はそれでも何とか仕留められました。けど残る一匹がどうしても仕留められない。今も各ギルドから集められた精鋭チームが討伐に行っていますが、はっきりいって不可能でしょう。僕も目の前でみたがあれは……そう、災害と呼ぶにふさわしいものだった」
「それで、私にすがりついたと?」
「同じ竜であれば解決法を知っていると思いました。何か、何か弱点などはないんですか⁉」
「……残念ながらそんなものはないよ。ご期待に添えず申し訳ない」
そんなリュートの言葉を聞き、ユーギは襟を掴んで詰め寄った。
「そんな……! 何かあるはずでしょう……⁉」
「ない。龍は概念だ。その肉体を滅ぼす方法はあっても、龍自体を滅する方法は私は知らない。人口の、未完成の竜に、君は一体なにを求めているんだ」
「なっ、なら! あなた自身が戦いに加わってください! 竜に対抗するにはやはり竜の力でしょう! お願いします!」
「何故そんなことをする必要がある。私だって死は怖い。なにより全快でないこの体で向かったところで、どうなるかなど火の目を見るより明らかだ」
そんな無責任とも取れるリュートの言葉を聞き、ユーギは襟を掴んだ手を力なく床に落とし、がっくりとうなだれた。
その様をカリマはただぼーっと見つめていた。自分がやるべき事は既にした。自分に力などないのだから、ここで口を出すだけ野暮というものだ。つまらなそうにぼやくことくらいしかできまい。
「しかたねぇだろうに。今のそいつはただの人間だよ」
その言葉がトドメとなったようで、ユーギは力のない目でこちらを見上げた
「……そう……ですね。やはり我々で何とかするしか……」
万策尽きた。あとはやれるだけやるしかない。そんな悲壮感がユーギの声には漂っていた。
だがそんなぼやきを聞き、今度はリュートが何か思いついたかのように手を打った。
「そうか、その手があったか……。いやぁなるほど、これは見ものになる」
すがるような目で見つめるユーギにリュートは自信ありげな笑みを返し、ツカツカとカリマの元に歩いてきかと思うと、背中を思い切りたたかれた。
「安心しろ、こいつが街を救ってくれるとさ」
いきなり話に入れられたカリマはわけが分からず、ただただ困惑するしかなかった。
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