9
【9】
ふと、後ろでごそごそと動く音に気付き、カリマは目を覚ました。朝の光が入ってきていないということは、今はまだ夜。こんな夜更けに訪問客と言えば大抵が人攫いか盗人の類である。そんな連中なら無駄に刺激せずに寝たふりでごまかし、さっさと無価値であると判断してお帰り願うのが得策というものだ。そう思いながらもどうしても気になり、カリマは寝返りをうつフリをして薄目で背後の音の主を確認することにした。
だがそうやって背後の音の主を覗き見たとき、カリマは自分の想像とはまるで違うものを目にすることになった。
思わず声をあげそうになるのを必死でかみ殺す。
明らかに人間ではない。〝それ″はゆうにカリマの二、三倍はある体躯を有しており、その身体を窮屈そうに丸めていた。人間であれば肌色の皮膚が見えて居るべきところには鈍い色をした鱗が敷き詰められ、背中にはその体躯を覆い隠さんばかりの大きな翼が畳まれていた。頭からはよじれた角が後ろ向きに二本生え、顔の形はまるで鰐のように前に突き出していた。
「りゅ、竜……」
そうだ、目の前にいるのはまごうことなく竜だった。あのとき、カリマが荒野で見かけた竜と同じように見えた。
そして同時に思い出してしまった。昼間に聞いたユーギとヤクヤの話。最近竜に襲われる報告が多いと。研究所から逃げ出した個体がいると。知らず知らずのうちにカリマの体は震えだしていた。これならまだ強盗や人攫いの方がましだった。
と、今までそっぽを向いていた竜の頭がこちらを向く。マズい、震えで起きているのに気付かれた。
竜はそのまま体を引きずるようにしてカリマの近くへと顔を寄せてきた。しまいには竜の鼻息が顔に当たるほど近くまで。
「い、いやだ、やめてくれ、俺は悪くねぇ、俺は」
いつの間にか情けない命乞いが、カリマの口からあふれ出していた。竜に言葉が通じるかは知らない。ただ命乞いでもしなければ、襲われる前にこっちの精神が参ってしまいそうだった。
だがそれを見て、竜は不思議そうに首をかしげた。
「? 何を言っているのだ、カリマ。別に取って食うわけでもあるまいに」
「………………へ?」
その声色は確かに聞き覚えがあった。さっきまでそこで寝ていたリゼの声。そんな、どうして。
「やっと出てこられたのでせめてもの礼をと思ったのだがな。随分と恐がられてしまったものだ。この国では竜は崇拝されていると記憶しているのだが?」
不思議そうに首を揺らしていた。頭の捻り方に妙に見覚えがあった。ここ二日で何度も目にした首の捻り方。カリマは恐る恐る竜に話しかける。
「……お前もしかして」
「もしかしてもなにもないだろう。この身体はお前が『リゼ』と呼ぶ少年の体だよ。もっとも、この格好では信じろというほうがおかしいか」
竜がリゼと同じ声色でカカカと笑った、と思うと昨日の昼間のようにカリマの視界に霞がかかる。それがとれたと思ったときには目の前の竜は消え、先ほど竜がいた場所にはリゼが立っていた。ただしその頭には先ほどの竜から生えていた角が片方だけ生えており、顔は怪しげな雰囲気をまとった笑みだったが。
「どうだカリマ、これで信じてもらえたか?」
口から出てきたのは先ほどの竜と同じ口調。これでリゼが自分を騙しているのだとしたら随分と大がかりな演出を要したものだ。
「……ああ、一応は。お前、あの時倒れてた空竜か?」
「人間の呼び方にならえば、たしかに私は龍だ。あの時はかなり力を消耗していてな。お前が来るのが見えたので、少し休眠に入らせてもらった」
「……しかし驚いたな……。俺も竜を見たことはあったが、こうやって目の前で見るのは初めてだ」
先ほど間近で見たときの驚きは、未だにカリマの心臓に早鐘を打たせていた。倒れていたときはぐったりとしていて気付かなかったが、ああやって間近で見る機会を得ると、あまりの迫力に今にも逃げ出してしまいたくなる迫力だった。
「私もこうやって人間と話すのは初めてだよ。しかしカリマ、お前最初の怖がり方と打って変わって今はずいぶんと落ち着いてるな。普通はもっと疑ってかかってもいいと思うのだが」
「……俺も一回目だったら信用しなかったよ。だけど目の前で竜が消えたり現れたりする体験を3度もすれば、さすがに信じざるを得ないだろ? ……それに、昔ずっと憧れてきた光景だったからな」
「憧れてきた……、それはこの国のおとぎ話のことか?」
「ああそうだよ、まさか本当の話だとはさすがに今は思っちゃいなかったがな」
「ふむ……、ならそれも含めて、やはりお前に出会ったのは正解だったか」
勿論怖がっていないと言えば嘘になる。それだけ間近に見る竜は荘厳な迫力に満ちていた。今はリゼの姿を取ってくれているから話せてはいるものの、あのままの姿で話し続けていれば、カリマは間違いなく逃亡を図っていたことだろう。
「しかしすっかり騙されたぜ……。なんだ、竜ってのは人に化けられるもんなのか。お前のことは今まで通りリゼって呼べばいいのか?」
「?何を言っている。リゼはこの肉体の持ち主ことだろう。私は私だ」
「いやでも今のお前は間違いなくリゼだろ? 違うのか?」
カリマは再び困惑していた。カリマの考えでは、今までのリゼはこの竜の擬態であり、休眠期間中に別人格を作り上げていたのかと考えていた。だが竜の反応を見るにそれは違うらしい。
「昼間お前と話していたのは間違いなくリゼというこの少年だよ。……どうやら随分な誤解があるようだな」
「んん?」
「時にカリマよ、お前たち人間は竜についてどこまで知ってる?」
カリマは竜に知る限りのことを話した。竜は生物だとされていること。竜の分類のこと。竜との遭遇率が圧倒的に低いこと。竜の遺物のこと。おとぎ話では確かに人語を話していたが、現実の記録ではそんな記録は残っていないこと。
「なるほどな、知識を与えた竜はいても、竜自体の話はしなかったわけか……。どおりで私の記憶とこのスラムの人々の話が噛み合わんわけだ」
「おいおい一人で納得しないでくれよ、一体どういうわけなんだ?」
「どういうわけ、といわれてもな……。正直説明しづらい。しいて言うなら」
そこで竜は言葉を切り、カリマにこう告げた
「龍とはな、つまるとこと肉体を持たない精神のことなのだよ」
勿論カリマは不満を顔に出していた。なにを言っているのかわけがわからない。だってさっき目の前いた竜は、確かに実態が在ったじゃないか。
「それは確かにそうなのだが……そうだな、人間の常識に照らし合わせるのであれば、一番近い観念は『幽霊』になるのだろう。『幽霊』。そう、そんな『幽霊』が時折人に憑りつくように、我々『龍』が何かに憑りつくことによって、われわれはお前たちのような人間に『竜』と認識されることになる」
今度の説明は多少は理解できた。カリマは幽霊を信じてはいないが、それでも十分自分の常識に照らし合わせられる範囲だ。
「理解してもらえたようで助かる。基本的に『龍』は無機物か知能レベルの低い生物にしか憑りつかない、これは意識を乗っ取ることが容易だからだ。だがごく稀に知能レベルの高い生物に憑りついた場合、この体のように両者の意識が混在することになる。もっとも私は今まで寝ていたから、混在し始めたのは先ほどからのことだが」
「分かった分かった、とりあえず俺たちが竜に関して誤解していたのは理解できた。だがそれは意識の問題だけだ。身体の方はどうなってるんだ?」
「まぁそう焦るな。ゆっくり説明する。とりあえずこの角を触ってみろ」
竜はそう言いながら頭をカリマに差し出した。恐る恐る角に手を伸ばし触れてみる。表面は細かな凹凸があり、冷たく固い。
「触れているな? では今からこれを消して見せよう。触れたまま目をつむり、角の無い竜を思い浮かべながら目を開けてみろ」
カリマは言われたとおりにやってみた。角に触れたまま目と閉じ、角の無い獣竜をイメージする。既にその時点で手の先の角の感触は消えつつあった。
そしてゆっくりと目を開け始めると、ただでさえ薄かった角の感覚が薄れていき、完全に目を開けるとその角は跡形もなくなっていた。
「視認したか? 知覚したか? 今のが竜の根本にあるものだ。我々竜がその形なのではない。お前たちの竜へのイメージが、我々を竜の形に留める」
「ええと……、つまり今は俺が思い描いてる竜の形になっている、ということでいいのか?」
「うむ、その認識で大方間違いはない」
「…………?? でも、それならおかしいじゃなねぇか、なんで今お前は人の形を保っていられる?」
「それはだな、お前の意識の他にこの場にはもう一つの意識があるからだ。この体の主であるリゼの意識が、人間たらんとするからだ」
そういいながら竜は自分自身の体を見下ろした。
カリマはそろそろついていけなくなってきた。大体幽霊だと言った時点でほとんど理解できないようなものである。かろうじて最初は理解できたものの、今の話に関してはほとんど理解できなかった。
「それでも認識を変更したことには多少の変化は出ている。ほら、これを見ろ」
そういって竜は自分の腕を見せた。昼間は背中にしなかった鱗が、今は腕から手にかけて広がっていた。
「これは……?」
「これはお前が私のイメージを空竜から獣竜に変えた結果だ。空竜は翼のイメージが大きいため背中にしか鱗がなかったが、獣竜は鱗以外のイメージが少ないため全身が鱗に包まれる結果となった」
「う……うん? そろそろ理解が追いつかないんだが……」
「まぁすべてが理解できるとは思ってないさ。とりあえず竜の肉は、お前たちの認識によって固められている、とだけ覚えておいてくれればいい。また、お前の話にあった竜の遺物もこれで説明できる。竜は憑いていた龍がいなくなった時点で元の物体に戻るため、その生物の残骸のみが残ることになる」
「……いや、もういい。聞いた俺が悪かった。とりあえずお前がリゼだってことはよく分かったよ」
カリマは竜に説明を求めていたことを後悔していた。始めのうちは何とかついていってはいたが、後半に関してはほとんど意味不明だった。ヤクヤあたりならともかく、頭の悪い自分にはこれが限界だった。
「ふむ、もういいのか。なら本来の用に戻るとするか」
竜が一呼吸おくと再びカリマの視界に霞がかかり始めた。しばらくして晴れたときには人の姿はなく、先ほど起き抜けに見た空竜の姿に戻っていた。どうやら竜の形をとるときは、こうやって一時的に人間の認識を狭めるらしい。
「まずは一時的に弱っていたこの肉体を助けてくれたことを感謝したい。通常であればこの肉体から抜ければよいだけなのだが、今わたしはこの肉体につなぎとめられているらしくてな。竜であれば感じない『死』を体感できた、という意味ではこれもまた貴重な体験なのだろうが」
「とりあえず感謝は受け取っとくよ。んでなんだ、その報酬に何でも願いをかなえてやるとか、そんなおとぎ話みたいな展開にでもなるのか?」
「よく分かったな、その通りだ。龍は義理堅いものであるからな。叶えられる範囲であれば何でも言うがよい」
そんなことを言われてしまえば、カリマは再三となる困惑の表情を浮かべるしかなかった。おとぎ話の世界だと思っていたことが、何故か今日突然目の前に現れた。普通に考えればどうやったって夢だろう。
「……あれか、代償とか払うのか?」
まず最初に思い浮かんだのは、ギルドでもたびたび例え話で耳にする悪魔との契約の話だった。人のみではかなわぬ願いをかなえる代わりに、汝の魂を俺に捧げろと悪魔が耳元でささやく話は、スカージギルドでなくとも商人ならだれもが知る逸話だ。旨い話には必ず裏がある。
それを聞くと竜は額に皺をよせ、申し訳なさそうに頭を垂れた。
「ん……むぅ……、確かに出そうと思っていた交換条件はあるにはあるが……。お前に不都合のあるものではない、とは思っている。条件は一つだ。リゼに、そして私に世界を見せてほしい。お前の夢は竜と共に世界を旅することなのだろう?」
なるほど、確かに合理的な話だった。カリマの夢が竜とともに旅をすることであり、それなら必然的に竜自身の願いも叶うわけだ。カリマにも竜にも、願ったりかなったりな条件である。
にも関わらず、カリマはそこで素直に肯定の返事を返すことができなかった。
勿論この目の前に現れた竜の言うことが完全に信用できなかったのはその一因だ。だが本当の理由は別にあった。
今まで夢も忘れて生きてきた自分が、今夢を叶えてこの先やっていけるのかという恐怖。他人の人生を売りさばいて生きてきた自分が、果たして夢をかなえてもよいものなのであろうかという罪悪感。そして何より、どうせ自分には何もできないという虚無感が、カリマが頷くことをためらう理由だった。
「どうした? ためらう必要などどこにある。お前の夢だったのだろう?」
「そうだよ、夢『だった』。でも今はもうそんなおとぎ話に、いつまでもすがってられないんでね。せめてあと5年は早く会えれば喜び勇んで行ってたさ」
カリマは竜の問いに自嘲(じちょう)気味に答えた。いくら逡巡(しゅんじゅん)したところで答えは同じだ。踏み出すだけの勇気も自信も、今のカリマは持ち合わせてはいなかった。
「ふむ、いい提案だと思ったのに残念だ」
「すまんね。それでどうするんだ、世界が見たいだけならお前だけでも十分だろ? ここに馴染んでから出て行かれると困るんで、旅に出るんなら早めに出て行ってもらえると助かるんだが」
「早めに出たいのはこちらも山々なのだがな……。生憎と私自身もこの体も、まだ回復しきっていないのだよ。あと二~三日は世話になりたいのだが」
「そのぐらいなら別にいい。ギルドにはこっちから適当に理由付けて退団届を出しとくよ」
「すまんな、迷惑ばかりかける」
「いいさ、昔の夢の欠片に出会えただけで光栄だ。こんなのでも俺には出来過ぎた夢だよ」
それはカリマのまごうことない本心だった。ここのところ気分の沈むことが多かったが、本物の竜と会話をするなどという幼いころの夢の片鱗を味わえたことで少しは調子を取り戻せた。大体最初は売り飛ばすつもりで拾ったのだ。感謝されるほうが間違っている。
せっかくの珍しい体験だ。どうせなら聞けることを聞いてしまおう。そう思いカリマは胡坐をかき、長々と話す準備をする。幸い夜が明けるまではまだ長い。
「よし今後の方針も決まったところで、今度は直近の予定を聞きたいんだが」
「ほう、私に答えられる範囲であればなんでも答えよう」
「結局リゼの人格? っつーのか、お前以外が出てくることは、これ以降あんのか? ようは多重人格みたいなもんだろ?」
「左様、その認識で間違いない。この場合主人格はリゼだな。今私は主人格のリゼが寝ているため表に出てくることができている。リゼが起きればまた私は奥底に引っ込むことになるだろうな。もっとも、あと二~三日すれば元の力も戻る。そうなれば『リゼ』を押しのけて、私の人格が前に出ることも容易になるだろう」
カリマは納得したように頷いた。多重人格のままの旅となれば竜のほうはともかく、リゼのほうが表に出ているときはまともに動けないだろうと思っていたが、それも見越しての二~三日という申し出だったらしい。
「んじゃ次の質問。この会話はリゼも聞いてる扱いになるのか?」
「その問いは否と答えよう。主人格の情報は常に副人格である私の元に流れてくるが、逆流はあり得ない。でなければ人間でなくとも主人格が混乱して最悪死にかねん。我々『龍』は確かに最終的に主人格を乗っ取るが、それでもそれまでは主人格を大事に扱ってやらねばならぬ」
「なるほど、随分上手くできてんだな。こうやって話を聞くまでは完全に雲の上の存在だったが、話してみるとこれがどうして、普通の人間と変わらんな」
「それは私が人間についている稀有な龍だから、という理由が大きいな。人工的に植えつけられ、世界との接続が不安定な『龍』だからこそ共存ができているともいえる」
……何か不安な言葉が聞こえた気がする。自分の聞き間違いではないかとカリマは竜にそれを聞き直す。
「……ちょっと待った、人工的に?」
「ああそうだ、人工的に。私は人工的に、このリゼの肉体に植え付けられた」
嫌な予感しかしない。まさか、ヤクヤのところから逃げ出した検体というのは。
「一応聞くぞ? あの荒野で倒れる前、お前、どこにいた?」
「外の光景を見たことは少なかったから、確かなことは分からんがな。出て来た時に見た光景はこの町に似ていたと思う。そういえば、そこにいた白衣を着た人間達はしきりに『システマ』と言っていたな。それが施設の名前なのかもしれない。この体もそこで培養され続けたものでな。だからリゼは記憶喪失ではなく元々記憶がないのだ。理解が早いのは『龍』の力の一部が流れ出しているのだと思う」
「聞くんじゃなかった……」
『システマ』の単語が出たあたりから既にカリマは話を聞いていなかった。このあたりで『システマ』と言えば間違いなくシステマギルドのことだろう。ヤクヤの話のタイミングから察するに、逃げ出した検体の一匹は目の前にいる。しかもそれが数匹いるとすれば、おそらく昼間にユーギから聞いた話の原因もおそらくその検体たちだ。
「また『システマギルド』かよ、まったく面倒な」
システマギルドは武器や兵器、医療機器など、機械の改造、強化を目的に設立されたギルドだ。一応ギルド自体平民層にあるが、その性質上平民層の鼻つまみ者となっている。
最大の特徴は所属団員大半がスカージギルドに勝るとも劣らぬ奇人変人ぞろいだということ。しかも周りの迷惑を考えずに研究をするために他のギルドからの被害報告は後を絶たない。スカージギルドでも直近では実験目的の人間購入を『職員募集』と偽られる被害にあっていた。
しかし寄りにもよって竜の製造を行うとは。『神をも恐れぬ』ギルドの名は伊達ではなかったらしい。とりあえずカリマはここまでの考えを竜に話し、意見を求めた。
「ふむ、お前の考えてる通り、おそらく昼間に聞いた竜の遭遇率の増加と検体の脱走はどちらも私と私の同類たちだろう。迷惑をかけているようで済まない」
「謝るべきはヤクヤとシステマギルドの連中であってお前じゃねーんだが……。ただお前の同類がお前と同じ状態なら、基本的には話が通じるはずじゃねぇのか?」
「いや、そこに関してはむしろ私が例外だ。他の者たちは竜に精神のすべてを食われ、その竜自身も精神を保てずに暴走していた。それが原因で脱走が起きたぐらいだしな」
話を聞いて思わず大きなため息が出る。竜の力が強大なのは文献を漁っても明らかだ。そんなものが何匹も郊外にいるのでは、オチオチ寝られたものではない。
「朝になったらギルドに報告かな……。俺にどうこう出来るもんでもないけど、さすがに見過ごせる状態じゃねーしな」
「その際には私の存在は隠してくれると助かる。出来るだけ穏便にこの町を出たい」
「分かってるよ、さすがに自分の夢をギルドに売りつけるような真似はしないさ」
カリマはそう言いながら、改めてこの状況がいかにおかしな状況かを認識してくつくつと笑った。完全に慣れてしまってはいるが、考えれば考えるほど『竜と会話する』という状況のおかしさに笑えてくる。
それから他愛もない話を長々と続けていると、割れた壁から朝日が差し込んできた。どうやらもう朝になってしまったらしい。ギルドが本格的に活動するのは夕方でまだ時間がある。カリマはもう一眠りしようと決めた。
「お前はどうするよ、えーと……」
「私も寝るよ。次に起きたときはリゼも私も、もう少し流暢(りゅうちょう)に話せるようになっているだろう。それと私のことは『リュート』とでも呼んでくれ。培養されていた時の番号が十だったのでな、『竜之十』でリュートだ」
「分かったよリュート。しばらくは飽きなさそうでなによりだ」
「こちらもだよカリマ。培養液の中では対話をすることがなかったから退屈していたところだ。夜になれば表に出てくるだろうから、その時には適当に話し相手になってもらえれば助かる」
竜と人は互いに笑い、朝日が眠るとともに眠りについた。
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