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【8】
その後も淀んだ空気は改善しなかった。仕方がないのでリゼに服を脱いで床に就くように指示し、自分も寝床へと籠った。リゼは寝る直前までカリマを心配そうに見つめていたが、カリマがその視線から逃げるように壁側を向いて寝床に転がると、ようやく視線を外し眠りについた。
一方カリマはいつまでも寝つけなかった。先ほどのリゼとの会話がまだ尾を引いていた。自分は何故、この仕事をしているのだろう。
正直、昔から人買いの仕事は好きではなかった。気持ちのいい仕事ではなかったし、人から疎まれ、恨まれることも多かった。仲間は目が皆ギラついていて気持ちが悪かった。それでも幼いカリマがなんとか仕事を続けられたのは、ひとえに夢があったからだ。
幼いころは自分にも夢や目標があった。スラムに引き取られる前に、両親に聞かせてもらったおとぎ話。旅人がある竜と出会い、世界中を旅する話。この国では聞いたことのない人間の方が少ない、ごくごくありふれたおとぎ話だ。小さかったカリマはそれを無邪気に信じていた。スラムに引き取られた後はさすがに竜と共に旅するのは諦めていたが、それでも旅人への憧れは捨てきれずにいた。
だがそんな夢は人買いの仕事をしていくうちに、段々と薄れていった。仕入れに行った町では金と食糧が尽き、みっともなく協会にすがる乞食と化した旅人を何人も見た。道の途中では、行き倒れたと見える旅人の白骨死体もいくつも見た。次第にカリマは夢を見ることを忘れ、ただその日の糧を得るために仕事をするようになっていた。
今の自分はどうだろう。目標もなく惰性で暮らし、嫌な仕事を惰性でこなす日々。誰に頼りにされるでもなく、誰でもできる仕事を淡々とこなす。それが今のカリマのすべてであり、他には何もなかった。
リゼにそんな意図があったのかどうかは分からない。ただカリマにはその言葉が、今の空虚な自分を責めたててような気がしてならなかった。
なにより会ったばかりの少年に、そんなことを言われて苛立つ自分が許せなかった。
苛立ちを鎮めるために無理やり目をつぶり、カリマはそのまま寝ることした。考えていても仕方のないことだ。そう自分に言い聞かせ、なんとか気持ちを落ち着けながら。
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