工場

 目を覚ますと、そこには見慣れない風景が広がっていた。銀色のベルトコンベアに、吹きつける熱風。どこからともなく、ゴウンゴウンと重い音が響いてくる。


 ここはどこだろう。私は思った。すると、男が私を覗き込んだ。


「やあ、起きちゃったか。まだ眠っていて構わないんだけどね」

「ここはどこですか」


 私は聞いた。男は困ったように、首をかしげた。


「うーん、ちょっとわからないから、待っててくれる?」


 そう言い残すと、視界から消えてしまう。


 わからない、とはどういうことだろう。私は思った。すると、別の顔がひょいと覗いた。それは見知らぬ子供だった。


「ここはどこですか」

 私は聞いた。すると子供は、


「工場だよ」

 と答えた。工場か、理解した私は、


「あなたの名前は何ですか」

 と聞いた。子供は、


小谷こたにゆうやだよ」

 と答えた。小谷ゆうや、私は繰り返し、


「性別を教えて下さい」

 と言った。子供は、


「男だよ」

 と答えた。男、私はそう認識し、


「何歳ですか」

 と聞いた。子供は、


「7歳だよ」

 と答えた。7歳、私は数字を選び、


「趣味は何ですか」

 と聞いた。子供は少し考えて、


「テレビゲーム!」

 と言った。テレビゲーム、その言葉に安心し、私は、


「それでは最後に私の名前を決めて下さい」

 と言った。


「おい! ゆうや、何してるんだ! 出荷前のロボットに触っちゃダメだってあれだけ言っただろ?」


 男が戻ってきて小越ゆうやを叱った。


「もしかして、入力したのか?」

「ううん、おしゃべりしただけ」

「おしゃべりって、だめじゃないか。早く初期状態に戻さないと……」


 男が私に手を伸ばす。スイッチを探る。


「私の名前を決めて下さい。私の名前を決めて下さい」


 その間も、私は決められた手順を繰り返した。しばらく後、唐突に闇が訪れた。

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