後進国の権利
「我が国は、今年、領海内で水爆実験を行います。その他、核実験も行いますし、武力で他国を侵略します。我々が主張する排他的水域内の島々を基地にし、東南アジア諸国を滅ぼし、難民を本土へ強制連行し、人権を剥奪した奴隷にします。熱帯雨林をすべて伐採し、工場を建て、毒物を垂れ流しにします。それから、小さなことで言えば、象が絶滅するほどの象牙を入手し、角のためにサイを殺し、鯨油のためにクジラを殺します――」
「なんてことを!」
それ以上は聞いていられないというように、EU代表が叫んだ。続いてアメリカも立ち上がった。
「まったくひどすぎる! 国連は貴国に抗議するという採決を取るべきだ!」
遅ればせながら、日本も言った。
「水爆に侵略? 時代遅れも甚だしい!」
「時代遅れ? その通りです」
すると、その国の代表は涼しい顔で言った。
「我々は後進国ですからな……先進国の軌跡をたどるのは当然です。おわかりでしょうが、我々が行おうと宣言した事柄は、あなたがたが先に行ってきたことだ。そうではないですか?」
「それはそうだが……」
EUが口ごもった。しかしすぐに、
「あれらは恥ずべき間違いだった。それは認めよう。つまり、我々は間違いだと知りながらやったのではない。行った結果、間違いだったことを知ったのだ。だから、いまそのすべてを禁じているのだ」
「ええ、それも十分わかっています」
代表はうなずいた。そして、
「ぜひ、我が国の五十年後の答弁をお楽しみに。その台詞を言うのは残念ながら私ではないでしょうが、間違いなく彼はあなたと同じことを言うでしょう――――つまり、『あれらは恥ずべき間違いだった』、その一言で済むというお手本を、ちょうどあなたが示して下さったのですから」
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