踏切マン
「おーっと、そこのボク、急いでるからって遮断機をくぐったら絶対にいけないぞ? 電車に轢かれちゃうからね!」
ランドセルを背負った男の子に、白い全身タイツを着た男が言った。
「警報が鳴ってるときは渡っちゃダメなんだぞ!」
「そうだ! 危ないんだぞ!」
男に加勢するように、ほかの小学生たちが声を上げる。
「ね、踏切マン?」
そう言って、男を見上げる。
「よおし、みんなルールを守る、偉い子だな!」
男は笑って、彼らに応えた。
そう、彼は踏切マン。踏切事故をなくすため、今日も遮断機の前に立って、みんなの安全を守っているのだ。
「それでは、ここで電車が通過するまでの踏切豆知識! 踏切の遮断機が下りて電車が来るまでの時間が最短でどれくらいか、みんな知ってるかな? 答えは……15秒! この秒数は、実は法律で決まっているんだよ。でもそれは『最短で』だからね。日本の平均秒数は、20秒とも言われているんだ! おっと、それじゃ今日はここまで。気をつけていってらっしゃい!」
「いってきまーす!」
「いってきます、踏切マン!」
遮断機が上がった踏切を、小学生たちが渡っていく。踏切マンはにこやかにその背中を見送り――と、一時停止せずに踏切に進入した自動車を見とがめて、
「踏切の前は一時停止しないとダメだぞ!」
すると車のドライバーは窓から顔を出し、
「ああ? 何か言ったかコラ! 警察呼ぶぞ!」
「あ、いえ、何でも……」
踏切マンは青ざめて、
「警察はすいません……勘弁して下さい……」
「ったく、気持ち悪いんだよ、通報すっぞ!」
そう吐き捨て、車が去って行く。踏切マンはその車が見えなくなってしまうまで、何度もお辞儀を繰り返した。
そう、彼は踏切マン。
小学生以外の大人と、国家権力にはめっぽう弱い、中身はただのおじさんなのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます