プラスアルファ
「そういえば、何でだろうね?」
私が綿密に張った言葉の罠に、サオリがふと首をかしげた。
「プラスアルファの『アルファ』の部分って、何でもいいはずだもんね? 例えば、『A』でプラスエーとか……まあ、ちょっと語感は悪いけど」
「うん、だから単純に語感の問題だと思うなあ」
ミホも言った。
「プラスアルファって、語感がいいもん。AとかBとか……あとはXとか? プラスエックスなら何となくいいかもしれないけど」
「そうだよね。でもプラスエックスで語感がいいならさ――」
勢い込んで私が言いかけると、
「あ、それ聞いて思いだしたけど」
エリコが言った。
邪魔をするなら、きっとエリコだ――予感が当たり、私は胸の中で舌打ちをする。しかし、それに気づかずエリコは、
「何か野球で後攻チームが9回裏の攻撃を余して勝った場合に「3x-2」って書くのね? 見たことある? で、攻撃回を残して勝ってるわけだから、もっと点が入ったかもしれない。つまり、最初は「プラスx」だったのよ。けどその「x」を誰かが「α」と見間違えて、「プラスα」になった――って聞いたことあるよ」
へえ、そうなんだ――サオリとミホがうなずく。しかし、エリコの妨害を予想していた私はそれをやや強引に遮って、
「でもそれ、嘘らしいよ。何の根拠もない語源だって聞いた」
「え? そうなの?」
みんなが首をかしげる。その機を逃さず、
「そう、そうらしいよ。だから、プラスアルファは単に語感の問題で、『アルファ』である必要はないわけ。さっきミホが言ったみたいに、『A』でも『B』でも、それから―――『
努めて軽く言おうとしているのに、どうしても
「シグマ?」
――よし、食いついた。
不思議そうな視線が向けられるのを待って、私は隠し持っていた資料を取り出し、机の上に素早く並べた。
みんなには秘密にしていることだが、私は「シグマを広める会」の日本支部長。長年王座に君臨してきたアルファを蹴落とし、すべてをシグマに変えるため、ギリシャからやってきた刺客なのだ――。
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