夢追い人の町
闇夜。荒野からやってきた少年は、夢追い人の町を見下ろしていた。
そこでひしめき合う家々は、夢追い人たちの夢そのもの。そして、その夢は真っ直ぐ伸びたり、くねくねと曲がりながら伸びていったり、皆、何とか天まで伸びようと必死で背伸びをしている。
その窓に灯るのは、希望の光だ。強いものもあれば、弱々しいものも、色も赤や青やまばゆいほどの黄色まで、さまざまに色づいている。その光は、町全体をまるで一つの生き物であるかのように、薄ぼんやりと浮かび上がらせている。
少年はしばらくその幻のような光景を眺めていた。彼にも胸に秘めた夢があった。そして、その夢は誰にも負けないほど輝くものだと自負していた。だから、あの闇の荒野を抜け、ようやくここまでたどり着いたのだ。
僕もこの町の一つの夢となるのだ――そう思うと足が震えた。自分の夢の光は誰よりも大きいと思う一方で、これだけの夢追い人の存在は彼を怖じ気づかせるのに十分だった。
けれど、彼は行かなくてはならなかった。元よりそう決めてきたのだ。あの町の中で誰よりも高く天へ伸び、その上の世界へ行く――それが彼がここにいる理由なのだから。
と、そのときだった。
町で一番高く伸びていた瑠璃色の尖塔が揺れた。その美しい光がねっとりとした闇に覆われ、希望の光が消えかかる。そう思ううちに、その尖塔はボロボロと砕け、跡形もなく崩れ落ちてしまった。
その空いた空間を逃すまいと、周りの家々がぐんと背を伸ばす。その一瞬、あの尖塔を砕いたコールタールのような闇が、地面にうごめいているのが少年にも見えた。
それは嫉妬だった。
あの瑠璃色の夢が叶いそうになった瞬間、同じ仲間であったはずの夢追い人たちの嫉妬が膨らみ、彼女を捕らえて粉々に砕いてしまったのだった。
少年は踏み出そうとした足を元に戻した。美しい町の恐ろしい闇を目の当たりにして、たじろいだ。
そうしてから、荒野を振り向いた。そこにも闇はあったが、それは良くも悪くも穏やかで、少年の足をすくうようなものではなかった。
けれど――彼はもう一度町に目を戻し、それから今度はしっかりと足を踏み出した。
荒野と町の境界線を越えると、彼の夢は自然と金色の光を灯した、小さな小さな家になった。地面では新たな獲物を探して、ねっとりとした闇がうごめいている。しかし、天だけを見上げる彼が、その恐ろしい闇に気づくことはなかった。
いまは狭いその空が、いつか自分のものになると信じて、上へ、上へ、彼の夢は天高く伸びていった。
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