ユカタン半島のゆかたん

「それでは、ゆかたんのユカタン半島上陸を祝って、かんぱぁい!」

「かんぱぁい!」

「おめでとう!」

「おめでとう、ゆかたん!」

「ユカタン半島バンザイ!」

「ありがとう、みんな!」


 大学の卒業旅行で、あたし、田中有香こと「ゆかたん」は、やってきました、ユカタン半島!


 最初は、「ね、ゆかたん、卒業旅行、せっかくだから海外に行きたいね」って渋谷敦子あっつんが言い出したんだけど、途中から「私、ゆかたんって言う度に、『ゆかたんはんとう』って単語が浮かぶんだけど、これ、何なんだろう」って唐沢玲奈カラっちが言い出して、「あたしも! デジャブみたいに感じるから、何か前世の記憶か何かだと思ってた」とかわけわかんないことを小森璃奈コモリンが言い出して、それから紆余曲折あって、あたしたちはメキシコにユカタン半島って場所が本当にあることを突き止めたのだった。


「あー、もう感無量だよ。ユカタン半島にみんなと来れたなんて」

「ホントだよね。最初は幻の地にしか思えなかったもんね」

「まさか、本当にあったとは。ユカタン半島」


 カリブ海に沈む真っ赤な夕焼けを見ながら、あたしたちはうなずきあった。卒業後、あたしたち四人組は別々の道を歩む。けれど、ゆかたんというあだ名から、ユカタン半島までやってきたノリのいいこの仲間たちとの絆は、きっと一生続くだろう。


「ねえ、来年はどこに行く?」

「え、来年もどっか行くの?」

「ええ、いいじゃん。毎年恒例にしようよ」

「でも、ゆかたんのほかに地名な名前なんてあるのかなあ?」

「そこは地名縛りじゃなくてもよくない?」


 カラっちが突っ込んで――そのときコモリンが首をかしげた。


「あのさ、あたし、何かずっと思ってたんだけど……『カラチ』みたいなやつ、何か聞いたことない?」

「うそ」

「聞いたことある……かも」

「カラチ、カラチ……何だっけ?」


 あたしたちは顔を見合わせ――先を争うように、カバンから携帯を取り出した。

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