さよならが言えない二人
「もう、こレで終わリにしたいの」
フランス人の彼女は言った。
彼女が留学生として来日して、二年。彼女の日本語はかなりの上達を見せていた。それも、日本人の恋人である僕のおかげで。僕が日本語を教える代わりに、彼女は僕にフランス語を教えた。僕らは互いの言語の発音に四苦八苦しながらも、笑い合い、楽しみながら相手のことを知っていったのだった。
「私はフランスへ帰ラなきゃいけない。日本へはもう戻レない。
彼女は泣いていた。別れたくないのは、同じだった。けれど、運命は簡単に僕らの仲を引き裂こうとした。もうすぐフランス行きの飛行機が飛ぶ。残された時間は僅かだった。
「
彼女が僕の名前を呼ぶ。
「う゛ィクトリーヌ……」
僕も彼女の名前を呼ぶ。
日本人には「V」の発音が難しい。同じように、フランス人の彼女は、「L」の発音が難しい。
互いの名前さえ満足に呼び合えない僕らには、初めから未来などなかったのか――失望を胸に、僕らは抱き合った。時間が迫る。別れが近づく。とうとう彼女は僕から離れた。彼女の口が開く。僕の口からも、別れの言葉がこぼれる。
「
「
僕たちはお互いに舌を噛みそうになり――思わず笑った。
「離レるなんて、できない!」
彼女が再び僕に抱きついた。
「うん、無理だな」
僕も笑って彼女の身体を抱きしめた。
互いの名前も言えないけれど、
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