どうぞ、召し上がれ

「今日はね、美味しそうなお魚を見つけたから十尾まとめて買ってきたの。名前? えっと、名前は忘れちゃったんだけど、お料理する前に写真を撮っておいたわ。ほら、きれいな虹色でしょう? 青とオレンジの斑点がチャーミングよね。丸ごとミキサーに入れたから、灰色になっちゃったけど。頭と内臓? そのままよ? 何か問題があったかしら? あ、そうね、臭みが出るものね。でも安心して。そういうこともあるだろうと思って、たっぷりスパイスを振ったのよ。やだ、私が知ってるスパイスって言ったら一つしかないでしょ? そうそう、アップルティーに入れるシナモンよ。香りが強いから、ちょうどいいんじゃないかなって思って。そこにあなたの大好きなフルーツトマトとバナナを入れて……隠し味にはチョコを入れたの! え、なぜって、隠し味って言えばチョコレートって相場は決まってるでしょ? あ、でもチョコなんて食べないから、入れたのは買ってきたチョコプリンなんだけどね。そこにちょっと塩を振って、オリーブオイルも少々入れて。うん、それ、お魚の油じゃなくて、オリーブオイル。よく混ぜたんだけど、時間が経つと浮いてきちゃうのね。だから、もう一回ミキサーを回して……よし、これくらいね。そしたらコップに注いで――え? 加熱? 大丈夫よ、いまは熱を加えないジュースってのが流行ってるんだから。何か熱を加えると酵素が壊れちゃうんですって。それに安心して。お魚もちゃんとお刺身用よ。だからほら遠慮しないで、どうぞ召し上がれ♪」


 結婚したばかりの妻が作ってくれた、初めての手料理。その異臭を放つ液体から目を離すことができず、俺は思わず聞き返した。


「君……もしかして料理できないの?」

「いいえ」


 すると、極上の笑顔を浮かべたまま、妻は首を振った。


「買い物帰りに、あなたが女の子とホテルから出てくるところを見ただけよ」


 生魚の破片が浮いたコップが、ずいと、俺に突きつけられた。

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