「ソコノ隠シドア、開ケル?」

『ジャーン、イツデモお兄ぃノピンチ二、ジャジャジャーン。ハイパー妹チャンデス』


「助か、った。殺され、るかと思った。っていうか、殺さ、れるかと思っ、た」


『ウィーン、ウィーン』


「で、何をしたんだ。どうやって、この巨漢を倒した……?」


『コンナコトモアロウカト。渦巻キ角スタンガンヲ少々』


「なんで、そんなもの仔羊ちゃんが装備してるんだ。……でも、ホント助かった」


『ドウモ、ハイパー電気羊チャンデス』


「それでさ、この気絶してる巨漢はいったい何者なんだ。なんかガチでヤバい感じが。どうしたものかな……」


『ソコノ隠シドア、開ケル?』


「……開けたい」


『タトエ命ヲ賭ケテモ?』


「そうだよな、これたぶん、そういう話なんだよな。ナタリア教授が何かヤバいことに足突っこんでいて、巻きこまれたって話なんだよな。

 だったら……、なおさら。ここに来て引き下がるわけには、いかないというか。八重やえさんの宇宙、手に入れなきゃだし」


『ソンナニ欲シイノ?』


「……ああ、それだけの価値があるものなんだ。お前にも、見せてやりたいしさ」


『嘘デショ。学園祭ノ時ミタイニ。友達ダカラ、命ヲ賭ケルノ?』


「そう……だな。そうだよ。当の八重さんは、友達どころか、俺の存在すら忘れてるだろうけどなー」


『お兄ぃノバカ』


「知ってる」


『八重サン、ドウシテ宇宙ヲ夢見ルカ、分カル?』


「そりゃ、ロマンチストだからじゃないか。それも、とびっきりの」


『ホントニ、ソレダケノ理由ダト思ウ?』


「え、天性のロマンチストだから、とかそういう話じゃないのか」


『ジャア。ワタシノ口調ガ、コロコロ変ワル理由ハ?』


「…………」


『…………』


「お前なりの照れ隠しかと」


『お兄ぃニハ、キット分カラナイダロウネ』


「俺は。凡人だからなー」


『ソウダネ』


「そこはちょっと否定してほしかった複雑な兄心」


『ヘッドマウントディスプレイ取ッテ』


「ん、この机の上のやつか」


『ロシア人ニ被ラセテ』


「ちっ、頭デカいな。ちょっと待て、ギア緩める。……おっけー、被らせた」


『ソノ赤イコードノ先ヲ、一思イニ刺シテ。恥ズカシイケド、お兄ぃナライイヨ』


「コードってこれか。で、どうして可愛い仔羊ちゃんの尻が、俺に向いているんですかね……」


『ココニ端子ガアルノ』


「げっ、マジで?」


『マジデ』


「仕方ない、お望み通りぶっ刺すぞ。このモフケツに。おらっ」


『ヒャン。大キスギダヨォ、お兄ぃチャン』


「えー……」


『ロシア人ガ目覚メタラ、コレデ視覚ト聴覚ヲハッキング』


「ちなみに、何を見せるつもりなんだ?」


『ソレハお兄ぃノ』


「いや、やっぱいい。どうせろくでもない気がしてきた」


『お兄ぃノ、絞殺サレル姿ト、撲殺サレル姿ト、殴殺サレル姿ト、ドレガイイ?』


「分かってる。兄は分かってるぞ。その巨漢に俺が大人しく殺されたと、そう勘違いさせるつもりなんだよな。

 だから、野暮なことは突っこまないぞ。どうして、そんな惨たらしいVR映像をすぐに用意できるんだ、とかそういうツッコミはな!」


『ウィーン、ウィーン』


「……じゃあ、ちょっと隠しドアの先、調べてくる。また殺し屋っぽいのが来たら、できる範囲で倒してくれると助かる。主に、兄の命が」


『オッケー。妹ノ命二代エテモ』


 ~~~


「見事なまでに暗闇だなぁ。何も見えない」




「げ、ドア閉まった。閉じこめられた。やっぱこれ先輩にハメられた気がするな」




「うーむ、なにか呟いてないと、闇に呑まれそうだ。参ったな」




「俺、何やってるんだろうな。わざわざ危なげなことに頭つっこんで、さっきみたいに襲われても喉元過ぎれば何とやらだし。最近どうも現実にリアリティが」




「なにか焚いてる気が。アロマ? ちょっと焦げた感じの……」




「みんな元気かなぁ。最近ちょっと冷えてきたから、奈良原ならはらも、井内いのうちさんも、獄中で風邪ひいてないといいけど。八重さんとか、今どこで何してるんだろう。今は、どんな名字を、騙って……」

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