償い

指川向太

償い

 妻が家を出て行ってから、私はおそらく酷い父親だった。


 どんなに泣き喚こうが、暴力をふるい続けたし、どんなに痩せ細ろうが、食事をろくに与えはしなかった。夏の日には日照りの車内に、冬の日には裸で外に置き去りにしたこともあった。物心がついた頃には、大事に持っていた妻の写真を目の前で焼き払い、思春期にもなると、品の無い女性を家に招いては、わざと目の届くところで情事に及んだりもした。

 

 私は罪悪感に押し潰されそうになりながらも、来る日も来る日も非道の限りを尽くした。


 そして今日もいつもと変わらず、私は蛮行を繰り返す。ただ、今日が少しだけ違うのは、まだまだ小さな手の中にあるはずのナイフ。きっとそれを使って、さぞ純粋な憎悪を持って私を殺してくれるだろう。私が与えたモノとも知らずに。


 そう、全ては償いのためであった。母親とともに失くしてしまった無垢な心を、せめて上質な復讐により取り戻さなければ!


 だが、少々度が過ぎていたようだ。我が子はとっくに冷たくなっていた。

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償い 指川向太 @kakunoshin

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