第3話 カルティストへ
男の話を聞き終えたノノルは、一目散に部屋から飛び出そうとした。
それほどの内容だったからである。
しかし、ファムがノノルの動きを制した。
「陛下、お気持ちは分かりますが 今は会議中です。ご着席を…。」
ドアに手をかけ、まさに今 力を込めて開け放とうとしていたが ファムの
言葉にぐっと唇を噛み締め感情を抑えるノノル。そして気持ちを落ち着けると、
各国の代表たちに非礼を詫び ファムの言う通り席に戻る。
ここで飛び出して行っては、ウォルデラの評判が悪くなるからだ。
(今は仕方ない……終わるまでの我慢だ。)
ノノルは、手を組むと ココラの無事を祈った。
会議は長引いたが、やっとのことで終わった。
ノノルは挨拶も手短に済ませると、部屋から出て一目散に王室へと走った。
その後ろをトールとラウルも急いで着いてくる。
「ノノルっ、どうするつもりなんだよっ!」
「カルティストにっ 行くの!」
「な……!陛下自らっ 直接行くつもりでっ!」
三人とも廊下を全力疾走しながらの会話である。洗濯物を運んでいた
メイド達が何事かと慌てて道を空ける。
そして王室に着くと、ノノルはドアを勢いよく開け
ベッド脇にあるポーチと 短剣を掴んだ。
父の形見でもある短剣は ノノルの大切なお守りだ。
「本当に行くつもりなのかよ?」
ぜーぜーと呼吸を整えながら話すラウル。ノノルは本気のようで、
しっかりと頷くと さっさと身支度を整え始めた。
「しかし 王が直接行くのもどうかと……。
陛下、私とラウルが行ってくるので……。」
「それじゃダメだよ!ココラが、心配だし…。」
トールの言葉に強く首を振る。
誰かが行って様子を確かめ、その報告を待つだけなのは…嫌だ。
直接、ココラが安全かどうか確かめたいのだ。
そして 謝りたい。
カルティストが大変なのに 手伝えることが出来なかったことを。
「私なら 大丈夫だよ。トールとラウルが着いてきてくれるならね。」
腰に回したベルトに ポーチと短剣を装備すると、
ノノルはトールとラウルに にっと笑いかけた。
その笑顔を前にすると、何とかノノルを諌めようとようとしたトールは
黙り込み、ラウルはふーっと諦めたように溜息をついた。
「ノノルは 言い出したら聞かねぇからな…。」
そしてラウルはノノルの前に膝を立てて座ると、
右手を胸の前に当て すっと目を閉じた。
「お供します、陛下。
あなたを私の命に懸けて 全力で守りましょう。」
忠誠心と 決意の誓い。
いつもの彼とは違い、凛と精錬された空気を纏っての言葉。
そんなラウルの言葉に 少し照れたようにノノルが頷く。
頬を掻きながら立ち上がったラウルは、くるり と後ろにいるトールを
振り返った。
「この言葉言うの やっぱ慣れねーなぁ。
さーて 次はトールの番だぜ。どうすんだ?」
「ぐっ……。だ、だが……。」
誓いを終えたラウルと、真剣な眼差しのノノル。
その二人に視線を注がれてたじろぐ。
トールの心情としては ノノルはここに残っていてもらいたい。
わざわざ危険な場所に 出向いてほしくない。
しかし決意を固めてしまったノノルが手強いことは トールも重々
承知している。危惧するのは ノノルを城に置いていったものの、
こっそりと一人で出て来られてしまうことである。
…そうなってしまうくらいならば、一緒に行動したほうが良いのではないか。
悶々と迷っているトールに、決断を促すかのようにノノルは一歩詰め寄る。
「さぁトール。行くか 行かないか、だよ。」
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ごごご・・・と大きな音を出しながら城門が開く。完全に開ききった
門から出てきた人影は三つ。
馬に跨り、決然と前を見据えているノノル。
矢筒と 糸を外している弓を背負ったラウル。
…そして、浮かない顔をしたトールだった。
結局、トールは ノノルの押しに負けたらしい。
「やはり戻った方が…王不在の国というのも…。」
「大丈夫だよ。ファムがいるから。
それに、他の
自信満々に答えるノノル。城については ファムに任せることにした。
ノノルが直接カルティストに行くことに対して、最初はトールと反対していた
ファムであったが ラウルとノノルの意思は固く、最後は押し切られる形で
仕方なしに折れてしまった。
『では…サンコラル卿、フィンガント卿。陛下を頼みましたよ…。』
三人を見送る 憔悴しきったファムの姿が印象的だった。
なかなか見られるものではない。
「で、ノノル。革命軍、だっけか?俺らの相手は。」
馬を ウォルデラから北東にあるカルティストへと走らせる。
半日もあれば 夕方にはカルティストへ着く予定だった。
「そうだよ。」
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男から聞いた話はこうだった―――
カルティストで革命が起こっている、という。
誰に先導されたかはまだ分かっていないが、そうとう大規模な革命のようで
王であるココラも危険にさらされているようだった。
絶大な力を誇る
カルティストはてっきりすぐに援護を頼むかと思われたが、ウォルデラは
そんな報告を受けていない。それで近隣国の代表達は驚いていたのだ。
ココラが、やられたのではないか と。
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「ありえるだろうな。同盟国のウォルデラに、革命のような大事件が
起こっているのに対して 連絡がまったく無い、というのは どう考えても
おかしな話だ。」
トールの言う通り、ウォルデラは何も知らされていない。
なぜ他国は知っていて、ウォルデラには情報がこなかったのか。
「…行ってみれば分かるよ。さ、もう少しだから 急ごう。」
嫌なイメージを振り払うかのように 手綱をたぐり寄せる。
ノノルの瞳には 紅色の夕日が映っていた。
あと少し。
今走っている道の先にある、カルティストへの国境を越えれば
すぐに入国できるはずだ。
小道を駆けていたノノル達だったが、突然 先頭を走っていたラウルが止まる。
片手を横に伸ばして 後ろのノノルとトールに 止まれ、と合図した。
「どうしたの?」
合図に従い 手綱を引いて馬をなだめながら ノノルがラウルに聞くが、
ラウルは人差し指を立てて 口元に当てただけだった。
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