TRACK 02; ミスコンの事情

 頭痛の原因と出会った次の日、朝が苦手なはずの健二に叩き起こされて、とある場所に向かった。金本が通う大学だ。


「どうして付き合わなきゃならねえんだ!??」

「良いのか?この前の事ばらすぞ?」

「!!卑怯だぞ!?」

「……卑怯はどっちだ。」


 気が進まなかったけど、弱みを握られている。フィギュアを探しに遠出をしたかった俺は、事務所の金を抜き取り相棒にガスを食わせた。紫苑ちゃんが力丸から預かって、いつか返そうと保管している金だ。

 力丸が何処にいるかも分からないし、会う事はあいつ本人が望んでいない。返せない金を持っていても仕方ないと思って抜き取ったところを、健二に見られていた。


「あの金は、次の給料で返すつもりだ。悪い事をしたとも思っちゃいねえ。」

「来月、給料が貰えると言う保証は?貰ったとしても、どうせ玩具に費やすだろ?」

「そんな事しねえよ!」

「まぁ…見守っててやるよ。来月も返せなかったら、お前は弱みを握られたままだ。」

「!!」


 大学へは相棒で向かっている。入っているガスは、抜き取った金で入れたものだ。


(お前だって同罪だ。)


 不貞腐れた顔のまま相棒を走らせた。




「でけえな!これが大学ってとこか!??」


 到着して、学校の規模に驚いた。健二も驚いている。メンバーで大学を卒業したのは弘之と千尋と拓司だけだ。紫苑ちゃんだって短大卒だ。


「凄えじゃねえか!?選り取り見取りだ!」

「………。」


 キャンバスってやつを見た事がない俺は驚き、健二は…女子大生に目を奪われている。


(何に驚いてんだ…。)


 だけど、女ってものに興味がない俺でもピンクより美人が多い事は分かる。そこのミスコン優勝者ともなると…


(健二、頼むから犯罪だけは犯すなよ?)


 両手で口を塞ぎ、心の中でそう願った。



「とにかく、その長谷川奈緒美ってミスコンを探そう。それが目的だろ?」

「………。」

「おいっ!」

「あっ?ああ、そうするか?」


 健二は、既に目的を失っている。仕方がない。俺だけでも真面目に人探しをしよう。


 聞き込みならお手のものだ。とは言っても、誰かに尋ねる必要はない。頭の中を覗けば良いのだ。



(………。なるほどな…。)


 長谷川奈緒美の事は直ぐに分かった。ここに通う男連中は、誰しもがその子を知っている。…かなり名が知れた女だ。

 長谷川奈緒美…。英文科の4回生で、バスケ部の元マネージャーだ。何とミスコンを4連覇している。


(こりゃ…健二は勿論、金本の相手にもならねえな…。)


 それでも1度会ってみたい。恋愛に興味がない俺だけど、気になる事が1つある。金本の事だ。あいつは…長谷川を狙っている訳ではない。それなのに神社に毎日通って、卒業後のあの子を心配している。


(恋愛感情もない男が…そこまでするか?)


 人の心は読めるけど、心理はよく分からない。金本の行動が普通なのか、あいつがおかしい奴なのか…。普通なのなら、そこまでさせる女の顔を拝んでみたい。本当にそこまでの美人なのか、確かめる必要がある。

 時として、読み取った思念と実物が違う事がある。記憶が美化されているのだ。実際、10人ほどの頭を覗いたけど、その内数名は違う顔を描いていた。



「ほらっ!行くぞ!?時間がねえんだ。」

「!!!!見たくもねえイメージ送るんじゃねえ!」


 長谷川は今、校内の食堂で昼飯を食っている。授業が始まる前に事を済ませたい。浮かれた顔を止めない健二にいつものイメージを送り、さっさと食堂へ向かった。




「!!!あいつだ!間違いねえ!」

「馬鹿!探偵してんだろ!?大声出す奴がいるか!」


 長谷川を探すのに時間は掛からなかった。食堂奥のテーブルが、やけに騒がしい。周りの男達の反応を見ても分かる。側を通る連中が足を止め、時には声を掛けていた。

 そしてテーブルには、意外にも金本から読み取ったイメージと同じ顔をした女が座っていた。


 しかし…


(これじゃ…飯も美味くねえだろ…。)


 長谷川の周りには、余りにも人が集まり過ぎている。


(ミスコンってのは、こんな毎日を送らなきゃならねえのか?)



「おらっ!さっさと覗け!趣味は何だ?好きな食いもんは?行きたいデートスポットは?好みの男はどんなだ!?」

「…………。」


(男なら、当たって砕けろじゃなかったのかよ…。)


 小声で急かす健二を無視して、知りたい事だけを読み取る事にした。



(??悲しいのか…?)


「どうした?まだ覗かねえのか?早くしろって!」


 長谷川が頭を抱えない事に苛立った健二が急かす。


 人の心を読み取る時、意識の深いところを探れば探るほど相手に頭痛を伴わせる。だけど長谷川は、まだ頭痛を起こしていない。

 ……色々と調べる前にあの子が今、一番強く思っている事が読み取れた。



「良し!その調子だ!色々と情報を入手しろ!」


 だから俺は、悲しがっている理由と…知りたい事を読み取り始めた。


「奈緒美?どうしたの?」

「……。分かんない。急に頭が痛くなってきた。……痛い!」

「良いぞ!その調子だ、幸雄!」


 少し遠い場所から、長谷川の声が聞こえる。勘違いしている健二は有頂天だ。


(やっぱりそうか…。)


「……帰ろ。」

「はっ!?」

「今日はもう帰ろう。面白くねえ。」


 知りたい事を知った俺は、唖然とする健二を連れて相棒の元に戻った。




「何を調べた?好きな男のタイプは?どんなシチュエーションの出会いを期待してる?」

「………。」

「早く言えよ!」


 相棒に乗り込むや否や、興奮が冷めない健二が五月蝿く騒ぎ出す。


「そんな事、調べちゃいねえよ。」

「はっ!?それじゃ一体、何を調べたってんだ?」

「…………。」


 俺が調べた事は2つ。1つは、奈緒美ちゃんが悲しんでいる理由だ。あの子は、ミスコンになりたくてなった訳ではない。周りの連中が勝手に仕立て上げた。本人はこの4年間、その重圧に苦しんでいる。

 そしてもう1つ調べた事は…奈緒美ちゃんの中にある金本の記憶だ。昨日の、あいつの言葉が気になっていた。


(金本…。お前、悲しい勘違いをしてるぞ?)


 どれだけ奈緒美ちゃんの頭を探っても…金本の姿は見当らなかった。

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