BONUS TRACK;諦められぬ夢

 ゴールド社に突入して2週間が経った。一番酷かった所長の負傷も回復し、小田原組とゴールド社の家宅捜査も終わった。

 そう…。今回もまた、藤井さんがお手柄を持ち帰った。正確に言えば、管轄の刑事に恩を売った形だ。


 最初の頃はお手柄を横取りされる事に腹を立てていたけど、今になると分かる。ヤクザが絡んだ事件で藤井さんを呼ぶのは、あの人の成績を上げる為ではない。個人ではなく公の力が働いたとなると、相手や、それと関係を持つ組が動かないのだ。

 だけど、小田川組にも私の顔が知れた。現場に出る事が面白くなると同時に、いつ誰に狙われるか分からない危険も増えたのだ。


 それでも……


「ありがとう。君達のお陰でグッズの販売は阻止出来た。報酬は、教えてもらった口座に振り込んでおくよ。但しテレビの出演料ってのは、貰うまでに時間が掛かる。残りの分は数ヵ月後になってしまう。」


 入社して初めて、仕事をしたと言う充実感に満たされた。報酬を頂いたのだ。この先、数ヶ月は生きて行ける金額だ。更に数ヵ月後には、今回と同じくらいのお金が振り込まれる。

 所長も文句を言わなかった。浅川君が捨てたいと思ったお金だ。誰かを不幸にして貯めたお金でもない。




『…ほっ、本当だ…。ロボットだ!喫茶店のマスターじゃなかったんだ!ありがとう、弘之!』


 次の振込み日までに、幸雄さんはダークなんとかの正体を知った。テレビを透視する所長の頭の中を読み取ったのだ。


(所長も人が悪い……。そして、思ってた事は取り消しだ。やっぱり幸雄さんは、今でも子供なんだ。)



 そして数ヵ月後、約束の日が訪れた。

 だけど…


「ご免。お金は渡せない。前回の分で勘弁してもらえるかな?」

「………。」


 ゴールド社に判決が下りて、社長が逮捕された。グッズの販売は当然中止となり、工場などから賠償請求を求められた。他にも色々出て行くお金があった上に、テレビ局も出演料を払わないと申し出たらしい。


 ゴールド社は銃刀法違反や誘拐も含め、実刑を喰らった。暴発に終わったけど、殺人の容疑も掛けられたそうだ。

 エスパーズのメンバーの内、4人は共犯との理由で逮捕された。罪は重くないと思うけど、表舞台には立てなくなったはずだ。

 ちなみに中井さんは、田舎に帰ったと言う。健二さんが泣きながら教えてくれた。今でもそこに住む幼馴染み達と、仲良く農業を営むつもりだそうだ。

 その幼馴染みの中には、中井さんと仲が良かった男性もいると言う。



 しかし残念ながら、小田川組は無罪に終わった。彼らが行ったのは金貸しだけだ。今回に限っては、追求出来る罪がない。真実は闇の中だけど、ゴールド社の社長が持っていた銃も、小田川組から手に入れた物ではないと言う。

 藤井さんにお手柄を譲ったのは正解だった。私達に恨みを持った連中が野放し状態なのだ。

 所長も小田川組の面子を保った。暴行を受けた事を訴えなかったのだ。実際、相手のヤクザもボコボコにされている。だけど、1対19でヤクザが負けたとなると、裏の社会で面目が立たない。痛み分けで終わらせる事で、少しの借りを作ったのだ。


(……。借りになるのかな?)




「これから…どうするの?」


 報酬は諦めた。前回貰った分だけでも充分だ。

 それよりも、これからの浅川君が気になる。


「もう1度、アメリカに渡ろかなって思う。やっぱり…夢は諦められないよ。僕も反省しなきゃならない。子供達に夢を与えるなら、手品じゃなくて超能力を身に着けなきゃね。」


 とりあえず彼は、私が知ってる彼に戻っていた。

 幸雄さんがきっかけになった。


「塩谷さんを見ていたら、夢は諦めちゃいけないって思えた。」

「!!?」

「あの人は、人間の限界を越した力を持ってた。やっぱり、人の可能性は無限大なんだ。」


(……ほっ…。)


 浅川君は、幸雄さんの身体能力を超能力だと思わなかった。確かに判断が曖昧な力だ。だけど浅川君はそこに、人間の可能性を垣間見た。もう1度アメリカに渡って、超能力の研究に没頭したいとの事だ。



「スーパーナチュラルパワーズにでも入門する?」


 私は、そんな冗談を返した。


「!!その名前は、言っちゃ駄目だって言ったろ?命を狙われるよ!?」

「………。」


 やっぱり浅川君は、私が知ってる浅川君に戻っている。『信じる人』に戻ったのだ。


「……なんてね。彼らは、架空の存在だよ。存在するはずがない。」

「………?」

「でも、超能力はきっと存在する。だから僕は、自分の力で身に着けてみせるさ。」

「……。そうだね!」


 所長が言っていた。グッズがなくても、夢はいつしか叶うらしい。誰かに頼らなくても、私達でも超能力に目覚める事が出来るのだ。



「それじゃ、またいつか…。」


 浅川君は、一旦は田舎に帰ると言う。お金を貯めたら、早速アメリカに向かうそうだ。

 この歳になって留学?…と思われるかも知れないけれど、聞いた話では、両親はかなりな親馬鹿らしい。今でも息子の旅立ちを、歓迎してくれる事だろう。

 だけども、やっぱりこの歳になって留学……?恐らく彼の両親も、『信じる人』なのだ。




 だけど結局、彼には最後まで所長達の素性を教えなかった。超能力が実在する事を知ったら、浅川君は喜ぶはずだ。でも教えない。彼は、自分の力で超能力を身に着けると言ったのだ。

 以前の私みたいな思いをさせたくもない。



「次に会った時は、お互いをビックリさせよう!僕は…テレキネシスを身に着けてやるんだ!…君は?」

「私?私は…そうだな…?」


 よくよく考えれば、これと言って欲しい能力がない。正確に言えば、知っている能力全てが欲しい。

 だけど所長達を見ていると、どうやら能力は1人に1つだ。


(…となると、拓司さんや…特に、幸雄さんはどうなるんだろ?)



「…私は、全ての能力の上を行く能力が欲しい!」

「??何だい?それ?」

「…………。」


 少しだけ悩んだ挙句、そう返した。浅川君が尋ねるように、それがどんなものなのか分からない。でも、そんな能力が欲しい。


「テレキネシスだってテレパシーだって、透視能力だって…マインドコントロールだって!私には敵わない!どんな能力にも勝る、そんな能力が欲しい!」

「これまでに、聞いた事がない能力だね?」

「可能性は無限大でしょ?超能力の存在すら実証出来てないのに、今知られてる能力が全てとは限らないじゃない?」

「………なるほど。僕らがまだ知らない、未知の能力があるかも知れないね。」

「きっとある!私はそう…『信じる』!浅川君のテレキネシスなんて、軽く跳ね返してやるんだから!」

「…期待してるよ。それじゃ…また!いつか必ず、成長した姿を見せ合おう!」

「うん!」


 そうして、浅川君は田舎に帰って行った。



(まだまだ…これからだ!)


 久し振りに…闘志が燃えてきた!これまでは凄い人達が側にいて自信を失っていたけど…まだまだ私自身を否定するのは早過ぎる!古い友達が、ライバルにもなった。


「明日から、もっと頑張るぞ~~!」

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