EXTRA TRACK;消息

 弘之達が、また馬鹿をやらかしおった。


『また事件に顔を突っ込んだんか!?』

『そう怒鳴るな。無事に解決したんだ。』

『皆、無事じゃったんか?』

『弘之と健二が酷い目に遭ったが、3日寝てれば治るだろう。幸雄は…いつもの自業自得だ。』

『じゃからいつも言うておるじゃろ?危険な事件には…ワシも誘えと!』

『……。とりあえず、いつものように後処理は頼んだ。場所は…』

『そこはワシの管轄ではない!また仲間の刑事に口を合わせてもらわんと…。ああ!面倒臭いの!』


 2ヵ月前、弘之達がとある芸能プロダクションに殴り込みを掛けた。奴らが動いた理由は幼稚なもんじゃったが、蓋を開けると黒い影も後ろにおった。



『もう少し…泳がせておけば良いものを!』


 管轄の知り合い刑事に逮捕を促すと、酷く怒られた。小田川組は、背景に巨大な組織が控えておると言う。エスパーズやプロダクションが大きくなれば、親元の組織とも付き合う事になっとったじゃろう。知り合いはそこまで引っ張り、一網打尽にしたかったそうじゃ。


(じゃが弘之達に、そんな計算は出来ん。大を仕留める為に小を犠牲にする事など有り得ん。)




「藤井さん、これ…。」


 全ての処理を終えて暫く経った頃、後輩刑事がワシに新聞を見せた。一面ではなく、端に載っとる記事じゃった。『あの人は今』と言う題目で、エスパーズの付き人じゃった男を追った記事じゃ。


 エスパーズの人気は凄かった。事が明るみになったと言うのに、マスコミや一般人、引いては業界のほとぼりが冷めん。

 そこの付き人が話題に挙げられた。今回の件で被害者として告発人として、エスパーズの中で唯一罪を被らんかったのはあの男だけじゃ。


『エスパーズの付き人、浅川誠。その消息が不明。』


(………。)


 マスコミは、事件の真相の裏を知りたかったんじゃろう。

 しかし記事は浅川のインタビューではなく、これまたオカルトな内容になっておった。田舎に帰ったはずの浅川が、消息不明になったと言うのじゃ。


「浅川君ならきっと、アメリカに向かったと思いますよ?そうなると、もう足取り掴めないはずです。彼は夢中になると、何も見えなくなりますから。それにしても薄情だな…。行くなら行くで、連絡くれれば良かったのに…。それよりも藤井さん、健二さんをどうにかして下さい!最近、ずっとお酒に入り浸りで…。」


 記事には消息不明の理由は、小田川組やその背景にある巨大組織が絡んでおるのでは?と書かれておったが…橋本曰く、そうではないと言う。

 世間を騒がしたエスパーズ…。改心したとは言え、少しの間は同じ船に乗っておった浅川は、故郷に帰っても肩身が狭い思いをしたのじゃろう。きっと親にも内緒で、海外に旅立ったのじゃ。



「怪しいですね……。この男も、何だかんだで小田川組と付き合いがあったんでしょ?恨み買ってますよ。…事件に発展しませんかね?」

「安心せい。小田川組には、ワシが充分に睨みを利かせておる。狙われる事はないわい。」

「??藤井さんが?…いや、それでも分かりませんよ。エスパーズを立ち上げたのは、この男だそうじゃないですか?狙われるんじゃなくて…また小田川組と手を組んで、何か怪しい事を企んでるんじゃないでしょうか?」

「それもない。あの男は、夢を諦めておらん。そんな男が、悪さをするはずがないじゃろうが?」

「…?夢…ですか?」

「…………。」


 記事の先を怪しむ後輩刑事に、ワシはそう断言してやった。


 浅川と言う男は、夢を追って海を渡ったんじゃ。きっと大きな器になって、帰って来る事じゃろうて…。


(………。全く知らん顔じゃが…頑張れよ!?ヒーローになって戻って来るんじゃ!)



 ヒーローとは、必ずしも強い者とは限らん。夢を追い駆け、夢を掴み…掴んだその夢を、次の世代に託す。それも…ヒーローなんじゃ。

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