TRACK 09;遠回しなメッセージ

 千尋さんがやられて、幸雄さんが銃を突きつけられた。銃が相手じゃ、所長も対処出来ない。


 しかしこのピンチに、戦隊ヒーローが登場した。

 中身は健二さんだ。声で分かる。いくら若菜ちゃんの前だからって…そんな姿で…。


(しかもピンク色だし…。)



「とうっ!」

「健二!声が違うだろ!もっと可愛く行け!」


 健二さんが乗ってる…。


(元々2号の人だしな…。)


 そして、働きもしない幸雄さんがもっと乗ってる。健二さんの声がおっさん臭い事を駄目出しした。


「あなた達!許さないわよ!?」


 健二さんが指示に従う。


(本気?それとも、正体を隠す為に…?)


 真相は分からない。そもそもあの人達の心の内を、知ろうとも思わない。



「行くわよ!たぁ~~!」


 健二さんがそう叫ぶと、男達の銃が遠くに吹き飛ばされた。サイコキネシスを使ったんだ。


「出た!スパイラルウェーブ!!」

「?何のトリックだ!??」


 それに合わせて幸雄さんが叫ぶ。…どんな技だったのか知らないけど、これで力は誤魔化せた………の?


(…って…あれっ?)


 健二さんが、好きになった女の人の前で能力を使えている。



「さぁ!お逃げなさい!あの車まで!」

「俺も加担するぜ!」


 銃がなくなればこっちのものだ。幸雄さんも参加して、瞬く間に若菜ちゃんを解放した。


「若菜!!」

「??お父さん!!」


 そして背後では、数年振りに親子が再会した。

 どうやら、若菜ちゃんのお父さんは改心したようだ。



「千尋、大丈夫か?」

「ああ、済まない。ちょっとヘマをした。隙を突かれて後頭…」

「顔が真っ赤に腫れてるじゃないか!?お前ほどの腕っ節が、一体どうした?」

「………。」


 健二さんと幸雄さんが暴れるのを見て、安心した所長が私達の下に駆けつけた。


「頑張れ~!エスパイラルピンク~~!良いぞ~!そこだ~!」


 私はそそくさとその場から離れ、2人を応援する事にした。




「人を騙してお金を取ろうなんて、許せない!」


 健二さんが、まだピンクを気取っている。だけど、様子は完全に健二さんだ。男の人の力で相手を殴り、容赦もしない。


「高槻のお婆ちゃんは、とっても苦労したの!孫娘1人を守る為に、命削って頑張ったのよ!」

「………。」

「それを何よ!何も知らないで!男なら本腰入れて、全うに働きなさいよ!」

「………?」

「父親なんでしょ!?家族の、大黒柱なんでしょ!!?」


(ヤクザに説教してるみたいだけど…なんか、的を外してる。)


「誤魔化さないで…黙ってないで…正面から反省しなさい!頑張ったら頑張った分だけ、娘に認めてもらえるの!」


(……そう言う事か…。)


「お金がないからって、苦しいからって…そこで逃げ出しちゃ駄目でしょ!……あんたには…守るべき人がいるんだろうが!!」


 遂に地声で怒鳴り始めた。


「守るべき人が出来たんなら、あんたは…ヒーローでなきゃならないんだ!それを忘れるな!!」

「健二!もう良い!相手は気を失った!」



 健二さんは興奮していた。最後まで倒れなかったヤクザは不幸だ。ボッコボコにやられた。幸雄さんが止めに入るなんて…よっぽどだ。


 それにしても幸雄さん…せっかく健二さんが演技しているのに、ずっと『健二、健二』って叫んでいたし…。演技した甲斐がない。




 数分後、藤井さんが現場に到着した。


「…また無茶をやらかしおったな?」

「…後は頼んだわ。」

「??お主…健二か?声を変えても分かるぞ?それにしても…なんちゅう格好をしとるんじゃ?」

「だから名前を言うなって!」


 藤井さんが、名前を呼んだところでもう遅い。



「若菜ちゃん!」

「!!佑樹君!」


 あらららら…。最悪のシチュエーションだ。若菜ちゃんの…彼氏も駆けつけた。


「???」


 健二さんが、2人が抱き締め合う姿を見てショックを受けている。仮面越しにでも分かる。


「酷い目に遭ったんだね!?だから、僕の家にいれば良かったんだ。」

「お父さんに会う場所はここって決めたの。この場所で、もう1度やり直したかったの!」

「そうだよね…。」

「それに、挨拶するのはまだ早いでしょ?お父さんが、改心したかも分からないし…。」

「関係ないよ!若菜ちゃんがお嫁さんになってくれるなら、例え借金があっても僕が面倒見る!一緒になって、お店頑張ろう?」

「…うん!」


 あらららららららら…。『付き合ってる人がいる』って聞いたけど、まさかそこまで進んでいたとは…。

 ひょっとして…同級生?羨ましいな…。



(健二さん、ショックだろうな…。??健二さん、何処行ったんだろ?あっ…いた。地面に蹲ってる。あれは…号泣してるな……?仮面越しにでも分かる。)



「?どうしたんじゃ?健二?」

「うるせえ…。話し掛けんじゃねえ…。」


 やっぱり泣いている。


(…叶う恋でもなかったのに…。)




「あの…。今回はありがとうございました。」


 辺りが静けさを取り戻すと、親子2人がお礼を言いに近寄って来た。

 ヤクザの連中は、藤井さんに連行された。


 健二さんも連行された。事情聴取じゃなくて、必要以上の暴力を振るったからだ。


(…警察嫌いになる訳だ。)


「無事、お父さんも戻りました。これからは家族3人、仲良く暮らして行くつもりです。」


(??いつの間に?)


「あの…報酬の事ですが…。」

「報酬なら結構です。今回の依頼主は、高槻さんではありません。内の仲間の、健二が依頼主です。」


(!?所長!また要らない事を!何も言わずに受け取れば良いじゃない!?)


「健二って…あのストーカーさん…?」


(あれっ?若菜ちゃん、ピンクの正体に気付いてない…?)


「誤解がありますが、あいつは人相が悪いだけで…悪い男ではありません。報酬は結構ですが…もし良かったら、接近禁止は解除してもらえますか?」

「………。」

「宜しくお願いします。」

「分かりました。でも…その代わり健二って人に、一言だけ伝えてもらえますか?」

「…何でしょう?」

「………助けてくれて、ありがとうって伝えて下さい。」

「…了解しました。」


(ははっ。そんな訳ないよね?)




 こうして、今回の騒動は無事に終わりを迎えた。


(それにしても、やっぱり今回もただ働きか…。美緒さんの報酬を蹴った私だから強く言えない。…仕方ない。次の仕事でがっぽり儲けるか…!?)

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