TRACK 08;約束と決意
シンデレラの父親は、思った通りの駄目人間だった。
……過去形だ。今は、心を改めて踏ん張っている。
俺のシンデレラがもっと笑顔になれるように、もっと踏ん張ってもらいたい。
(捨てる事が、逃げ去る事が終わりじゃない。これまでの時間を取り戻すんだ。)
「…藤井の親父は、何て言ってた?」
「借用書を作った会社…つまりヤクザの事は分からないそうだ。多分、新しい組か、名もないチンピラ集団のどちらかだ。」
「だろうな。やり方が古くて、性質が悪い。」
「町が田舎町だから、通じるとでも思ったんだろう。」
「田舎町じゃねえ。時が止まってるんだ。昭和の町だ。」
(だから引っ越そうって言ったんだ。)
父親が金を借りた相手は金融屋じゃなかった。金融屋の皮を被った、クズ連中だ。利息も疑わずに金を返した婆さんが亡くなった後、金蔓欲しさに偽の借用書を作った。
(若しくは、シンデレラを売り物にしようと考えたか…?許せねえ、クズ共!)
…蒸発していた父親が現れたら、奴らは諦めるか?
そんな問題じゃない。次の被害者が出る前に、俺達が潰す。
(しかし…)
「幸雄!お前、どうして衣装を盗んで来た!?」
「どうしても欲しかったんだ!今日が最後だったんだから、もう使わねえだろ?映画が出る度に、衣装は少しずつ変わるんだ。次もねえよ!」
「窃盗じゃねえか!?」
「汗の匂いも酷いので、捨てるはずです。…構いません。」
「やったね!ほらっ!聞いただろ!?持ち主に確認も取ったぞ!?」
幸雄は運転席、弘之は助手席に座っている。後部座席には俺と父親と…そしてその間には、コスチュームが置かれている。
持ち主は父親じゃない。悪役の服でもないし、男用の服でもない。
(フィギュアなら理解してやるが…幸雄はこの衣装を、どうするつもりなんだ?)
「…着るのか?」
「馬鹿か!?そんな変態じゃねえ!マネキン買って着させて、部屋に飾る!」
「…充分変態じゃねえか?」
「何だと!?健二!もう1回言ってみろ!?」
「道を急げ!今日も店に連中達が来るかも知れねえ。」
「千尋に連絡を取った。今日は鬼門がないから、店を守ってくれるそうだ。」
「…なら安心か…。それでも急げ、幸雄!」
千尋が出られたなら安心だ。占いの結果が悪くないなら、相手が何十人だろうがやってのける。
そう思ったが、店に到着すると事態は違っていた。
「!千尋!?」
店の前には橋本と、そして、両の頬を真っ赤に腫らした千尋が倒れていた。
(連中にやられたのか?)
「急ぐぞ!」
前の2人は急いで飛び出し、千尋の下に向かった。
「…行かないんですか?」
「……そう言うお前はどうなんだ?娘に、良いところ見せるチャンスじゃねえのか?」
「………。」
俺達2人は、相棒に残った。どちらも、シンデレラに顔を見せられる立場にない。
まぁ、弘之と幸雄が駆けつけたんだ。問題はないだろう。
「!?奴ら、銃を取り出しましたよ!?」
「あっ?」
しかし事態は、また一変した。前回の根岸組と言い…ここは法治国家じゃねえのか?
まぁ…それでも幸雄が相手する。
「?」
しかし幸雄が動かねえ。今日はどっかで、力を解放したか?
「…何やってるんだ!千尋が駄目なら、お前しかいないだろ!?」
弘之は一番喧嘩に強いが、銃が相手なら敵うのは俺と幸雄、千尋ぐらいだ。
「若菜が…!悪い連中に連れ去れます!何とかして下さい!」
「何とかして下さいって…お前が何とかするつもりはねえのか!?」
「……私には……。」
「……………。」
「……………。」
「全く…だらしねえ親父だ!おいっ!俺と約束しろ!俺がシンデレラを助けた暁には、お前は…もっと強くなれ!」
「…シンデレラ??」
「これまで苦労を掛けたからって、逃げるだけは卑怯だ。迷惑掛けた分、命張って娘を幸せにしろ!」
「…………。」
「約束だからな!?」
(全く…幸雄は何やってんだ!)
シンデレラからは、接近禁止命令が出ている。顔を見せる訳にはいかねえ。
(…これを…着るしかねえのか…?)
「待て!!」
「健二!銃を取り上げろ!……健二!?」
「私は…健二ではない!超能力戦隊、エスパイルだ!」
(幸雄め!覚えてろ…!どうしてレッドかブラック、ブルーじゃねえんだ!?)
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