二日目
だるい。全身が鉛のように重たい。そして何よりも眠たかった。
ふわふわと浮上しかけた意識を、私は眠気からまた闇に沈めるために寝返りを打ち、掛け布団を握り締めた。ふかふかのベッド、頭に当たる枕の柔らかい感触、包み込むような布団の温かさに私はまたまどろみ始めた。
「――ッ」
声が聞こえてきた。なんて言っているのかうまく知覚できなかったけれど、私を呼んでいるみたいだ。私はよりギュッと目を瞑る。
疲れているの。もう少しだけでいいから眠らせて。
「――ッ、――ッ」
けれど呼び掛けは止まなかった。さらに声と共に肩も揺さぶられる。私を起こそうとしているようだ。
身体を動かして反応を返すことがひどく億劫で、私の意識は夢と現実の間を浮遊し続ける。
「――ッ、起きて」
だけど徐々に意識は現実に戻って来て、私へ掛けられた言葉が徐鮮明になっていく。
「起きて、起きてくれ」
懇願するような口調。必死だけど優しく私の肩を揺らし続ける手。
私はハッと気づき、目を覚ます。すると視界に、今にも泣き出してしまいそうな顔をした彼が映った。
「……おはよう。どうしたの? そんな顔して」
上から覗き込んでいた彼の頬に私は横になったまま手を伸ばし、触れる。温かさが私の指に伝わった。
彼にこんな表情をさせてしまうのだったら、眠気に負けずにもっと早く起きればよかった。私は心の中で後悔する。
「ごめん、ごめん、ごめん……」
彼は自分の頬に添えられた私の手を握り締め、うわ言のように謝罪を繰り返した。
どうしてそんなに謝るんだろう?
私はまだぼんやりとしてあまり働かない頭でそう考えた。彼に手を握られたまま私は目だけを動かす。
彼の部屋。カーテンから太陽の光が透過して明るいから、今は朝のようだ。さらに首を傾けると、ベッドサイドテーブルの上にはきちんと畳まれた私の服が下着を含めて置いてあった。私は伸ばした腕に視線を戻して、自分が裸であることに気づいた。
昨日はどうしたんだっけ?
私は異常に回らない頭で思考しながら身体を起こした。だるくて眠ったはずなのにまだ疲れを感じる。それに身体の、特に下腹部が重くてつらかったし、膣がじんじんと痛みを訴えていた。
「もう謝らないで。私は別に怒ってもあなたが悪いとも思っていないよ」
私はそう言いつつ、記憶がまだ混濁していたがとりあえず彼をなだめるためにベッドから降りようとする。シーツと擦れ合う耳慣れない音を聞き、その時になって初めて私は左足首のひんやりとした感触に気づいた。
金属製の足枷。拘束具。
「あっ」
私の意識はようやくクリアになった。
昨日の朝、私がいなくなってしまうことを恐れた彼にこの足枷を取りつけられたのだ。そして朝食を食べて、その後情緒不安定になった彼によって半ば無理矢理、ずっと抱かれていたのだった。
いつもなら一度で終わりなのに、昨日は何回も何回も一方的に犯され続けた。体位を変えたりしながら、ひたすら私の存在を確かめるように彼は身体を繋いできた。私は喘ぎ、ただただ彼を受け入れるしかなかった。
身体を重ねていない時も、愛撫されありとあらゆる場所にキスされた。彼は片時も、まるで放した瞬間に消えてしまうかのように不安げに瞳を揺らし、私を求め続けて離さなかった。
夜に一度だけ彼は平常に戻り、夕食を作ってくれ、一緒に食べた。その時も今みたいに謝っていた。「ごめん」と。
「ねえ、服だけ着させてくれる?」
私は掛け布団で身体を隠しながら言った。彼の気を逸らすためでもあったし、鬱血した痕がたくさん付けられた私を見て罪悪感を覚えて欲しくなかった。
「うん、いいよ。服を着る間だけならね」
昨日と同じように彼は足枷を外してくれた。『服を着る間だけ』という限られた時間だけだったけれど。
私は上半身から手早く服を身につけていった。そして最後にスカートに足を通し、着終えた。昨日と同じならばまた足枷を取り付けられて、彼に連れられ食卓に着くことになるのだろう。
「着終わったよ」
私はドアの前まで離れていてくれた彼にそう告げた。彼は昨日と同じく私に足枷を付け直した。やっぱり今日もこのまま拘束された状態で過ごさなければならないようだ。
「朝食、もうできているから一緒に食べよう」
「あ、その前に一つだけお願いがあるの」
私は彼にそう言った。服を着ている途中から急激にある感覚が込み上げてきたのだ。
「何?」
ベッドに取り付けられた足枷を外していた彼は顔を上げた。その声は穏やかだったけれど震えていた。
「あのね、トイレに行かせてくれない?」
頼むのがちょっと恥ずかしかったけど、私ははっきりと言葉にした。こればっかりは他に言い表しようがない。
「……いいよ、行こうか」
「ありがとう」
ベッドから外した足枷を持ち立ち上がった彼に私は礼を告げた。
「礼を言われるようなことじゃない。君のは人間として当然の欲求だよ。僕は感謝されるようなことなんて、君に何一つできていやしないんだ」
彼は足枷を強く握り締めると歩き出した。私も転ばないようにその後に続いた。
部屋を出て、彼に連れられトイレに向かった。
トイレのドアを彼が開けてくれたので私は中に入った。彼はそれを確認すると、扉を閉めているようにしてくれた。『ように』と例えたのは実際には私の足枷から伸びる鎖によって、完全にドアが閉まっているとは言えないからだ。
ドアにきっちりと挟まれた鎖。普通に扉を閉めただけではすぐに開いてしまう。だからドアと鎖が食い込みあったままなのは、彼が外でしっかりと扉が開かないように押さえてくれていることを示している。
人間としての尊厳を守ってくれるあたり、彼はやっぱり優しいななんて私は便座に座りながら考えた。
ただ、用を足している音を聞かれていると思うと羞恥心で顔が赤くなりそうだった。
トイレの中はカーペットが敷いてあり、便座とペーパー入れにはカバーが掛けてある。消臭剤も置かれていて、掃除も行き届いており清潔だ。
これは何もトイレに限ったことではなく、玄関、ダイニング、キッチン、お風呂、寝室。彼は家中を塵一つない状態にいつも保っている。女の私なんかよりずっと綺麗好きなのだ。
私は立ち上がった。取っ手を捻り流れていく水を眺めながら私はあることに気づく。
そういえばお風呂に入っていない。
クーラーの効いた部屋に閉じ込められていたとはいえ、ずっと一方的だったけれど彼と抱き合っていたのだ。汗をかいたりしていてきっと不潔だ。
「ねえ、お風呂にも入りたくなっちゃった。丸一日洗っていないから私、汚いと思うの」
トイレを出た後、私は彼にそう言った。
「ごめん、すぐに沸かす。入るのは朝食の後になるけど」
「いいよ。ご飯、冷めちゃうもんね。ありがとう」
「礼なんか言わないでくれ。僕の配慮が足りなかったんだ。いや、もともと君は自由にしていいのに、それを制限している僕がいけないんだ」
彼は自嘲気味に呟き、鎖を強く握り締め、私に背を向け歩き始めた。
ぐいぐい上に引かれ気味の足枷。
それは彼が鎖を自分の方へ必要以上に引き寄せている証拠だ。引かれる鎖は彼の不安の強さを表しているように思えた。
朝食が並べられたテーブルに着いた。私が椅子に座ると彼は足枷をテーブルの足と繋いだ。
今日のメニューはトーストに野菜サラダ、そして昨日とは違い目玉焼きにコンソメスープだった。目玉焼きはベーコンを下地に焼かれていた。
「トーストには何を付ける?」
彼はそう訊きながら醤油を私の近くに置き、紙パックのレモンティーをコップに入れた。
「今日はマーガリンにマーマレード付きがいいな」
私は彼にそう言い、醤油を手に取った。一般的に目玉焼きにはソースをかけるそうだけど、私は醤油派なのだ。
彼はマーガリンをトーストに薄く塗り、マーマレードを少し多めに付けてくれた。
私は目玉焼きを食べ始める。カリカリに焼かれたベーコン付きの白身は醤油と相まって絶妙でとてもおいしい。彼は料理の腕が高く、さらに私の好みを考慮した上でメニューを毎回考えてくれている。
彼の細かな気配りにはいつも感心する。
私はコンソメスープを飲んでいる彼を見つめた。スープを内側から外側にすくい、啜っている。まるで食事マナーのお手本のような正しい食べ方だ。
彼はまだ私を解放してくれないのかな?
今日までは休日だから拘束されたままでもあまり問題はなかった。けれど明日からは平日、仕事だってある。今日中に彼が安心し足枷を外してくれればいいけれど、無理だったら色々と支障が生じてきてしまう。あと、携帯をいじる機会がなかったため、友人から送られてきているかもしれないメールの返信もできていない。このまま音信不通にしてしまえば不審に思われる。それに……。
私は下腹部を押さえる。薬も飲んでいなかった。
「ねえ、私のバッグってどこにあるの?」
私は尋ねた。普段なら彼の寝室の端に置いておくし、今回もそうしたはずだった。だけど今はバッグ自体が見当たらない。バッグの中には携帯や中身の入った医薬品ケース、その他身だしなみを整えたりする物とかが詰め込んである。
「どうして?」
彼は訊き返してきた。目差しからわずかに怯えが伝わってきた。
「知り合いからメールが来ているかもしれないからその返信をしたいの。無視し続けたら不審に思われちゃうでしょう。それと薬も飲みたいし」
私はゆっくりとあっけらんと話した。
「駄目だ。教えられない」
「え?」
「君に返してあげることはできない。必要ない」
「別に助けを求めたりなんてしないよ。ただ怪しまれないように普段通りの返事を送るだけだよ」
「必要ない」
彼は頑なに否定した。
「……じゃあ携帯は返してくれなくてもいいよ」
私は妥協案を出す。私が外部から助けを求めるかもしれないと疑っているのなら仕方ない。二日ぐらいなら連絡がつかなくったって忙しかったのだとごまかしは利くだろう。ならばそんな気はないと彼に示すのみだ。
「それでもできない。必要ない。バッグは返せない」
「薬、ピルを飲むだけでも駄目?」
私は薬の名称をストレートに口にし、訊く。
「駄目だ。返せない」
「……」
それでも首を振る彼に私は黙り込んでしまう。
下腹部を撫でる。昨日、彼は何も付けずに直に幾度も私の中に注ぎ込んだ。私も飲み忘れていたからもう遅いのかもしれない。だけど彼らしくない物言いに胸が痛んだ。
――僕はまだ君に対して責任が持てない。だからいつか、本当に君と一緒になれる日まで、お互いのためにきちんと避妊はしたいんだ――
ある時、真面目くさった顔でそう切り出してきた彼と二人のための約束をした。する時、彼は絶対にゴムを付けるからその代わり私もピルを飲み続けるって。
――本当はしないのが一番なのにね。僕の我儘に君を付き合わせている――
――あなたは我儘なんかじゃないわ。私もあなたとしたいって思っているもの。お互い様だよ――
その時自嘲する彼の両頬を手で挟んで私は言い、背伸びしてキスした。私も彼のことを愛しているってことを伝えた。
もう彼にとってその約束はどうでもいいことになってしまったのかな?
私は沈黙したままコンソメスープを飲んだ。少し濃い目の味付けは私好みに合わせてある。
几帳面で自分を責めやすい優しい彼。そんな彼は簡単に約束を破ったりしようとはしない。
さっきも私がバッグの所在を尋ねたら瞳が揺らいでいた。きっと彼は不安と恐怖で私のことも信用できず、約束を守る余裕など持てないでいるのだ。
私はそんな状態に陥っている彼をなんとかしなければならない。絶対にいなくならないって、ずっと愛しているって、どうにか私の存在をしっかりと示して彼を安心させたい。
「ごちそうさまでした」
食べ終わると今日も私は両手を合わせて彼に感謝の言葉を述べた。
「食器はどうすればいい?」
お皿やコップを一つに重ねて私は訊いた。昨日みたいに勝手に動いたら彼を怒らせてしまう。
「そのままにしておいてくれればいいよ。後で僕が片付けておくから。ごめん、あともう少しだけそのまま座っていて」
「うん」
私は頷いた。彼が食事を終えるまで待っていればいいのだ。
彼は私に気を遣ってか、急いでトーストを咀嚼し、朝食を全て平らげた。
「お風呂、きっともう沸いているはずだから入りなよ」
彼は空になった食器類を並べたままのテーブルの足首に取り付けた足枷を外した。そんなに慌てなくても別に構わないのになんて思いながら私は立ち上がった。そしてまた彼に鎖を引かれるまま、バスルームに向かった。
「ねえ、お風呂、一緒に入らない?」
バスルームに到着し、私は彼を誘った。彼の前に周り込み、寄り掛かるようにしながらカッターシャツを掴み、私はボタンを外そうとする。一つボタンを外すと同時に前のめりになっていた私の身体は当然のようにバランスを崩した。
けれど転びはしなかった。彼が私の両肩に手を添え支えてくれた。そのことがわかったから、私はそのまま彼のボタンをいじり続ける。
「やめてくれ。一緒に入ることはできない」
彼は私を押し戻した。
「どうして? 一緒に入った方が私を見張りやすいよ」
過去にも何回か一緒に入浴したことはあるし、大好きな彼となら私は何の抵抗もない。むしろ二人で洗い合っこしたり触れ合ったりお湯に浸かったりしたいと思うくらいだ。
「そうかもしれないけどできない。君一人で入ってくれ」
彼は自分の左手首を掴み後退り気味になりながら言った。
怯えている。私のことを怖がっている。
「わかったわ」
私は素直に引き下がる。こんな彼に無理強いはできない。
「そこに置いてあるバスタオルを使えばいいんだよね?」
バスルームの手前には洗濯機がある。その上にバスタオルがきれいに畳まれて置かれていた。
「そ、そうだね。他のもいつも通り好きに使ってくれて構わないから」
「ありがとう。じゃあ一人で入るから足枷を外してくれない? 服が脱げないから」
どもり震えた彼に、何事もないように私は足枷を指差し頼んだ。
「そうだったね。今、外す」
彼はしゃがみ込み、私の左足首にある枷の鍵穴にキーを入れた。
「……僕の前から消えないで、逃げないでよ」
鍵を差し込んだまま彼は私を見上げた。小さな子供が親に縋るような目つき。彼の純粋な恐怖が伝わってきた。
「私はあなたの前から消えないし、逃げたりもしないよ。心配だったら、私が服を脱ぎ終わった後に、もう一度足枷を付けていいから」
私は一言、一言、ゆっくりと彼に言い聞かせるようにし、微笑んだ。彼を少しでも安心させたかった。
「……」
彼は無言のまま鍵を回し、私の足枷を外した。
「ありがとう」
目を逸らした彼に礼を告げ、私は服を脱ぎ始めた。
ブラウス、スカートに下着。全部取り去り一糸纏わぬ姿になると、彼は黙ったまま、私の左足首に再び足枷を付けた。
「入ってくるね」
私は一言そう告げ、バスルームの扉を引き入った。
私は湯船の蓋を外した。中に溜まっていた蒸気がバスルーム内に広がった。
綺麗な浴室。髪の毛一本落ちていないし、もちろんカビなんて生えていない。シャンプーやボディーソープ等のボトルはきちんと並べられていて、使いやすいようにノズルの先端は全て、椅子に座った時私の方へ向くようになっている。
私は髪と身体を洗った。そして湯船に浸かる。
程良い湯加減。温かくて落ち着く。
私は子供のようにお湯を両手で掬ってみる。すると当然のごとくすぐに手から零れ落ち、音を立てた。一人だからその音はよく反響した。
左足首が時折、弱いながらもグイグイと引かれた。湯船をまたぎ、トイレの時と同じく扉にしっかりと挟まれた鎖の先から。引く力によってお湯とその蒸気で濡れた鎖は常時震えていた。
今この瞬間も彼は私がいなくならないかを恐れ、不安定になっている。この足枷だけが彼の拠り所となっていることがわかった。
一緒に入れば良かったのに。そうすれば彼は少しは安らぐことができたかもしれない。けれど彼は嫌がった。無理だと断った。怯えた眼差しを私に向けた。
元々彼は誘っても遠慮がちであまり乗り気になってはくれなかったけれど、以前はそれでも一緒に入ってくれた。身体を直視されるのを嫌がってはいたけど、まんざらでもなさそうだったのを覚えている。
最後に彼とお風呂に入ったのはいつだったっけ?
私は記憶の糸を手繰り寄せようとするが思い出せなかった。かろうじてわかるのは少なくとも今年ではないことくらい。いつからかやんわりと、だけどはっきりと拒否するようになったのだった。
私は湯船から出た。まだお湯に浸かってまどろみたい気分だったけど、身体は十分温まったし彼のためにも早く上がった方がいいと思った。
私は入る時と同じく扉を引いた。
「出たよ」
バスルームの真ん前で待っていた彼にそう言った。姿だけじゃなくて声を聞かせることで、彼に私は確かにここにいるのだと実感して欲しかった。
「……」
彼はただ鎖をギュッと握ったまま私を見つめるだけだった。目を見開き、私のことを凝視していた。私はそんな彼を横目にバスタオルで髪をそして身体を拭き始めた。
「!」
髪の水気を雫となってボタボタと落ちない程度に取り、身体全体を拭き終わり服を着ようとした時、背後から腕を回された。私は後ろを見上げようとする。
「いかないでくれ、僕の傍にいてくれ。消えないでくれ」
うわ言のように彼はそう口にし、私を抱き締めた。
「私はどこにもいかないよ。あなたの傍にいる。ちゃんとここにいるでしょう」
私は彼の腕を手でなぞって伝えた。
抱き締める腕が緩んだ。私は彼の方へ向き直った。
不安に揺れ動く瞳。その中にあるのは純粋な恐怖。頬も強張っていて肩を震わせていた。
「きゃっ」
次の瞬間、私は壁に押し付けられていた。逃れようとしても、彼の手で押さえつけれた手首はびくともしなかった。
「待って。ひぁ」
首筋に舌を這わされた。そしてそのまま鎖骨、胸へと降りてきた。
「まっ、ば、場所。ば……やぁ、あん」
膨らみの先端を甘噛みされて私は声を上げてしまった。
「やぁ、変えよひゃあ、場所変え、んんっ」
喘ぎながらもなんとか、場所を変えよう、と言おうすると唇を塞がれた。口内に彼の舌が侵入し、絡め取られ、伝えようとした言葉はかき消されてしまった。代わりに響くのは唾液の水音だけ。
「ハア、ハア」
やっと唇が離れ私は息を切らしながら彼を見た。
欲情している癖に、彼の顔には高揚感だとかそう言ったものは一切なくて、とても苦し気だった。ひたすら恐れ、怯えをその目に湛えていて、行為によって私にぶつけるしか方法がないように感じられた。
そんな彼があまりにも切なく悲しくて、私は抱き締めたいと思った。彼を腕の中に抱きかかえて、大丈夫だよって全身を使って伝えてあげたかった。
「きゃあ」
身体を思い切り掴まれ、壁の方へ向かされた。彼に背を向ける形にさせられた。背後でベルトを外す音がした。
一方的に突かれるんだな。
彼を慈しんであげることはできないんだと私は悟った。
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