第10話 善意のつもりが大炎上!ネット上の著作権とマナー
「教えてお兄ちゃん!」
「なんだい、妹よ」
「どうしようどうしようどうしよう! なんだかTwitterで炎上しちゃったみたいなの……」
「炎上!? 全く、お前は本当に僕の妹なのか……。まずは感情的にならず、落ち着いて状況を整理しよう。一体何があったんだ?」
「えっとね……pixivで気に入ったイラストがあって、それが私の小説の雰囲気に合いそうだったから、イメージ画ですって投稿したの」
「……まさか作者に無断でか」
「うん。だって元々無料公開されてるイラストじゃん! そしたら作者の人にこんなこと書かれて……」
私はお兄ちゃんにスマホの画面を見せる。イラストの作者は私のその呟きを画面キャプチャに撮っていて、『底辺作家が無断転載とかwww 皆さん、こちらのアカウントの通報お願いします』と投稿していた。……いわゆる、晒し上げというやつだ。
お兄ちゃんはやれやれと深いため息を吐く。
「これは完全にお前が悪いな……」
「えーっ! どうして?」
「著作権って知ってるか」
「うん、学校で軽く習ったよ。本や音楽のケンリホショーだっけ? 売ってる本や音楽を違法アップロードしちゃダメってことでしょ。そんなことはしないから大丈夫だよ!」
「著作権の対象は商用(販売されているもののこと)だけじゃない、世の中のすべての創作物に適用される。つまり、インターネット上の無料コンテンツもすべて対象範囲だ!」
「え、そうなの?」
「もちろんお前が投稿しているWeb小説もな。さて、ちゃんと著作権の理解ができているかここでテストしてみようか」
「えー、テスト嫌いだよう……」
【あなたは著作権意識高い系?】
下記7つの行為の中で、著作権侵害ではないと思うものを選んでください。
(1) iTunesで購入した音源をYouTubeにアップロードした
(2) 面白いニュース記事があったので、本文の一部をコピーして自分のブログ記事に貼り付けた
(3) Twitterでフォロワーへの返信に漫画のワンシーンの画像を貼り付けた
(4) 自分で撮った写真に文字入れソフトを使い、好きな曲の歌詞の一部を入れてSNSに投稿した
(5) 画像素材サイトから画像をダウンロードし、元々入っていたサイトのロゴを消して自分のブログの画像に使用する
(6) 面白い呟きを見つけたので、そのままコピーして自分のツイートでも投稿した
(7) 他者が公開していた線画に色をつけて、自作として公開した
「うんうん、楽勝じゃん。あれとあれは大丈夫かな。お兄ちゃん、答えを教えて!」
「答えは……全部アウトだ!!!!」
「ええーーーーっ!」
「つまり1つでも合っていると思った人は解説をよく読んで、何がいけないのか反省するようにな」
「はい……」
「さて、本作は一応Webにあまり詳しくない方を読者として想定しているのだが、そういった方にいきなり小難しい法律の話をするのも少々酷な話だろう」
「うん、第何条とか出てきた時点で目が滑っていくよ」
「そもそも作者自身、大学時代に他学部が開講している著作権の授業をとったことがあるんだが、専門用語が飛び交いすぎてついていけず、心地良い睡眠を享受していたらしい」
「ダメじゃん!」
「というわけで、例のごとく本作では噛み砕いて説明するぞ。著作権関連はそれだけで一冊本が書けるレベルに奥が深いので、詳細が気になる方はご自分で勉強してください!」
「参考サイトもエピソード末尾に載せておこうね、お兄ちゃん!」
「……よし、ハードルが運動音痴の跳躍力でも飛び越えられる具合に下がったところで解説を始めよう。まずは基本的な考え方からだ。最初の方でも言ったが、インターネット上のあらゆるコンテンツには、たとえ無名の人物が上げているものだとしても全てに著作権が存在すると思ってくれ」
「全部!? じゃあ画像とか動画とかほとんど自由に使えないじゃん」
「それくらいに思っておいた方がトラブルに巻き込まれるリスクは減るぞ。ちなみに個人利用であれば著作権に引っかからないことが多い。お気に入りのイラストをダウンロードしたり、好きな曲の歌詞カードを自作するのは、それを他人に見せない限りはOKだ」
「じゃあ何がいけないの?」
「作者に無断で他者にそのコンテンツを共有することだな。SNSやメールなど公開が限定されている環境であっても、インターネットを介す時点でNGになる。本作では何度も繰り返し言っているが、インターネットの繋がる環境にプライベートな場所など存在しないのだ。他人の創作物をインターネット上で利用したい時は、基本的に相手の許可をちゃんと取り、どの範囲までの利用ならOKなのかを確認した方がいい」
「そっかー。拡散したら相手も喜ぶと思ったんだけどなぁ」
「お前の場合は事前に作者の許可を取らなかったこと、引用元をちゃんと記載せず自分の作品であるかのように見せてしまったこと、不特定多数が閲覧可能なTwitterに挙げてしまったことなどNGポイントが多すぎる。お前の価値観でいいと思ったことが、相手もいいと思うとは限らないだろ。言い訳無用、作者さんには素直に謝っておきなさい。それが一番の解決方法だ」
「うう……すみませんでした。ちなみにフリー素材は? あれにも著作権ってあるの?」
「もちろんだ。フリー素材とは『ちゃんと利用規約を守れる人なら自由に使ってもいいよ』という素材のことだ。非商用なら無断利用OKとするパターン、加工がNGなパターン、必ずフリー素材のサイトのロゴを入れなければいけないパターン……など、サイトによって利用を許可する条件が違うぞ。フリー素材は利用する前に必ず利用規約に目を通すようにな」
「そ、そういうことだったのかぁ……! フリーって言葉に騙されてたよ」
「また、見落とされがちだがニュース記事や評論文、ブログも創作物に該当する。もし先ほどの(2)の事例のように、他者の文章を自分のブログにも入れたい場合は引用という形式を使うといい。例として毎日新聞社の引用方法の指定に関するページと、はてなブログでの引用の使い方を紹介しているページを挙げておくぞ」
▼毎日新聞『著作権について』
http://mainichi.jp/info/etc/copyright.html
▼はてなブログでの引用の使い方
http://staff.hatenablog.com/entry/2015/08/26/174500
「(6)は? いわゆるパクツイってやつでしょ?」
「SNSの投稿は創作性がないという意見もあるが、それが何千人にもリツイートやお気に入りをされるような面白ツイートなのであれば話は別だ。それだけ評価されるということは、創作性のある文章と捉えることもできる。弁護士によってはパクツイは著作権違反だと考える先生もいるようだ」
「パクツイしてたら訴えられてもおかしくないってことだよね……気をつけよっと」
「ちなみに著作権の保護対象になるのは表現の部分だけで、実はアイディア自体は保護対象にならなかったりする」
「えーっ! それじゃあWeb小説のネタとかイラストの構図とかは盗作され放題じゃん!」
「インターネットに無償公開する以上、それはある程度仕方がないと考えておいた方がいい。どうしても盗作されるのが嫌なら、盗作しても敵わないくらい自分の表現レベルを磨きあげるか、オンライン上で活動しない、この二択になるだろう」
「そんなぁ……」
「ただし、いくら法律に引っかからないからとはいえパクられた相手はどう思うだろうか? 不愉快だよな。つまり」
「違法ではないが一部不適切」
「(言われた……)」
「ご、ごめんお兄ちゃん」
「この兄から一本取るとはお前も日に日に成長しているようだな。違法でなかったとしても、パクり疑惑によって炎上してしまっては、そこまでコツコツと積み上げてきた努力が台無しだ。あらかじめオマージュにしている作品を公開しておくとか、個人のアイディアを参考にするのであれば利用許可を取ってみるとか、できる限りリスクを回避しておくようにな」
「……思ったんだけどさ、本作を読んでるうちにますますインターネットが怖くなっちゃう人っているんじゃないかな?」
「怖いくらいに思っておいたほうが丁度いいさ。インターネット上の人々が全て優しく良識に溢れた人たちだと思ったら大間違い。むしろ隙あらば責められるくらいの警戒心を持っておいたほうが、行動に慎重になるだろ。僕はなるべく多くの人がインターネットを快適に使えるようになることを祈っているだけさ」
「わかったよお兄ちゃん! まずはこの作者さんにちゃんと謝らなきゃ」
「はっはっは、励みたまえよ。……さて、今回の内容はインターネットで活躍される絵師さんにもお役立ちの内容だったと思うんだが、本作のファンアートはまだかな……?(キメ顔」
「お兄ちゃんの描写はメガネってことくらいしか出てないから無理だよ!! ていうか本作はエッセイだし!!」
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作者のプチ補足(10)
正直、まだまだ書き足りないなという感じです。それだけ著作権に関するインターネット上のトラブルは多く、自分が違反しているということに気づいていない人も多くいらっしゃるからです。特に商用の著作権に関しては認識も広まってきていますが、無償コンテンツにも全て著作権があるということはまだあまり知られていない印象です。
ちなみに画像の引用をしたい人、好きな画像をアルバムのようにまとめたい人にとってはTumblrやPinterestといったツールの利用をお勧めします。これらはイメージとしてはスクラップブック、あくまでお気に入りの画像をまとめておくツールです。
ただし前述の通り、あたかも自分の作品であるかのように見せたりするのは、引用元から訴えられるリスクがあるのでそこはご注意を。
画像の無断転載対策として、最近は作品の中にサインを入れるのはもちろん、手書きであればインターネットに上げる前にイラストの一部をトリミングして自分の手とともにエビデンス写真を撮る……など、工夫を凝らしている方もいらっしゃるようです。
本当はそんなことしなくてもいいのが理想なんですけどね……。今の所は自衛が一番有効な方法だと言わざるを得ません。私自身、気づかずに著作権トラブルの種をまいてしまっていないか注意したいところです。
著作権は厳しいことばかりのようで面食らってしまったかもしれませんが、作者の没後から時間が経って著作権が切れた作品をインターネット上で読むことができる青空文庫というサイトもあったりしますよ。
▼青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/
【今回のエピソードで参考にさせていただいたサイト】
・一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会『著作権Q&A>インターネット編』
http://www2.accsjp.or.jp/qa/05/
・財団法人インターネット協会『インターネットを利用する方のためのルール&マナー集』
http://www.iajapan.org/rule/rule4general/main.html#3.1
・弁護士ドットコムニュース『他人のつぶやきを盗んでツイートする「パクツイ」 弁護士が「著作権法違反」と警告』
https://www.bengo4.com/internet/n_1569/
・gihyo.jp『ネットだから気をつけたい!著作権の基礎知識>第4回盗作しても著作権侵害にはならない?-「アイデア」と「表現」の分かれ目』
http://gihyo.jp/design/serial/01/copyright/0004?page=1
また、今回のエピソードに関連する情報をご提供いただいた、和久井透夏さんにもこの場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございます!
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