第9話 “SMAP”が滅ぼしたのはラピュタではない、サーバーだ!



「教えてお兄ちゃん!」


「なんだい、妹よ」


「今年の一月にラピュタが金曜ロードSHOWで再放送してたでしょ」


「ほう、ラピュタか。かの名作には世間に公表されていない都市伝説的な設定も数多く存在すると言われる。例えばラピュタのモデルとされたのは、失われた地理詩……」


 私はスマホについてる懐中電灯をお兄ちゃんの顔にあてる。


「目があああ! 目があああああ!」


「でさ、クライマックスで主人公とヒロインがラピュタの滅びの呪文を言うシーンになるとみんなが『バルス』って呟くでしょ」


「……ああ、バルス祭りと言われるやつだな。かつて2ちゃんねるのサーバーダウンを引き起こしてからというもの、再放送があるたびに視聴者がこぞってTwitterに滅びの呪文をかける恒例のイベントと化している。ちなみに今年のTwitter公式アカウントはバルス祭り当日に『どんと来いや!』的なツイートをしていて、なかなか好感をもったものだ」



▼2016年1月14日、Twitter公式によるバルス祭りへの挑戦状

https://twitter.com/TwitterJP/status/687832628720881667



「結局その時はTwitter落ちなかったんだよね。でもその数日後にいきなり落ちちゃったじゃん」


「SMAP解散騒動か」


「どうしてバルスではダメだったのに、SMAPでTwitter落ちちゃったの? バルスは滅びの呪文なのに!」


 お兄ちゃんはやれやれと溜息を吐く。


「まず、サーバーダウンの仕組みについて説明する必要がありそうだな」


「サーバーダウン?」


「お前が落ちる落ちる言ってるのは『サーバーが落ちる』の略語だ。ネット上では『鯖落ち』とも言う」


「あ、それなら聞いたことある」


「なぜそっちを知っているんだ。ちなみにここから先はやたら『落ちる』という単語を使う可能性があるので、縁起を気にする受験生は読むのを控えるようにな」


「もう5回も使ってるよ。作者って本当に語彙力がないね」


「いいんだ、これはエッセイだからな。さて、サーバーダウンについてだったな。お前、サーバーと聞いてなんのことか分かるか?」


「うーん、よく分かんないや」




「ものすごく噛み砕いて説明するぞ……! Webサイトとは、回転寿司のような仕組みで成り立っているのだ!!」




「回転寿司!!」


「回転寿司屋というのは、寿司職人が寿司を出して、客がベルトコンベアに乗った寿司から好きなものを選んで食べる……という仕組みだったよな?」


「なんで疑問形?」


「作者が良い歳こいてワサビが食べられないお子様で『回る寿司屋には行かねぇ』とのことなので自信がないのだ」


「回らない寿司屋には行くんかい」


「ヤツの言い分によると、回転寿司に行ったのに回っている寿司を食べられないのは風情がないのだそうだ。さて、ここで寿司を写真や動画、テキストといったコンテンツに例えてみよう」


「お寿司かぁ……わたしはネギトロが好き……」


「話を続けるぞ。もし僕がお前のPCに入っている画像データを共有して欲しいと言ったらどうする?」


「ひゃっ!? わわわわたしの画像フォルダは、お兄ちゃんには見せられないよっ!?」


「例えの話だよ。言い忘れていたが、インターネットは繋がっていない想定だ」


「えーと、インターネットが繋がってないなら、印刷して見せるとか、USBに入れてデータを渡すとかかなぁ。けっこう面倒くさいね」


「見知った個人間のやりとりならそれでも成り立たないことはない。だが、そのデータを不特定多数の人に見せたいとしたらどうだ?」


「いちいち住所聞き出して郵送したりしなきゃいけなくなるよね。面倒臭すぎる! インターネットが使えなかったらそんなことしようとも思わないよ」


「そうだろう。それを実現するのがインターネットと、Webサイトを作る仕組みの一つであるサーバーだ。サーバーとは回転寿司屋のベルトコンベアのようなもの。その上にコンテンツを置いておけば、たくさんの客……つまりインターネットを介して訪れたユーザーが、好きなタイミングで好きなコンテンツを得られるようになっているのだ」


「サーバーっていうのは、Webサイトのコンテンツを置いておく場所ってこと?」


「そういうことだ。しかしベルトコンベアの長さには店によって限界があるよな。乗せられる寿司の数もその長さに応じる。もし客がいきなり団体でやってきて、全員がネギトロを食べようとしたらどうなる?」


「ネギトロは売り切れちゃってお客さんに提供できなくなるね」


「そう、それがサーバーダウンだ。一度に許容範囲を超えたアクセスが集中することで、サーバーの処理が追いつかなくなり、サイト表示のスピードダウンや、サービスの一時停止につながるのだ」


「なんか分かってきたかも! じゃあバルスは平気でSMAPでサーバーが落ちたのは?」


「フフ……その理由はGoogleトレンドで見れば一目瞭然だ」


「Googleトレンド?」


「急上昇ワードや、あるキーワードの検索数が伸びる時期を調べるのに便利な、誰でも使えるツールのことだ。Yahoo!リアルタイム検索の方が詳細を調べられるが、あまり過去まで遡れないので今回はGoogleトレンドを使うぞ」




▼Googleトレンド

https://www.google.co.jp/trends/


▼Yahoo!リアルタイム検索

http://search.yahoo.co.jp/realtime




「これどうやって使うの?」


「上の検索窓に『トピックを調べる』とあるだろう。ここに検索したいキーワード入れるのだ。まずは『バルス』と入れてみようか」


 お兄ちゃんがキーワードを入れると、画面には折れ線グラフが出てきた。


「2011年11月と、2013年8月、そして2016年1月に極端に伸びているね」


「実はこれが金曜ロードSHOWの放送のタイミングとぴったり一致するのだよ」


「うわっ本当だ! バルス祭りの勢い、改めてみるとすごいものがあるね……」


「さて、次は『SMAP』だ。比較するキーワードに登録してみよう。そうすると二つのキーワードの検索ボリュームが比較できるのだ」


 お兄ちゃんが『SMAP』を比較キーワードに登録する。すると……


「えーっ! こんなに違うの!?」


 なんと、2016年1月の検索ボリュームで比較すると、『バルス』が10に対して『SMAP』が100、10倍もの差が出ていたのだ。


「驚いたか、妹よ。厳密に言えばこの結果がイコールTwitterサーバーへの負荷量の差とは言えないが、一部の界隈で盛り上がっているインターネット上の遊びと、国民的アイドルの運命を左右する出来事ではこれだけ人々の関心度が違うということだな」


「ちなみに『カクヨム』は?」


「ふむ。やはりオープンした2月末〜3月頭の検索ボリュームがダントツだな。そこから徐々に下降していき、雛咲さんの『オタクのための整理整頓・掃除・生活術』がバズった週だけ少し伸びているようだ。今は安定しているが、今日の第一回コンテスト結果発表でまた伸びるかもしれないな」


「でもこんなの何のために使うの? データ見るのはちょっと面白いけどさぁ、お兄ちゃんみたいなITオタクしか使わないんじゃない?」


「甘いぞ妹よ。世の中に溢れたツールの便利さを享受できるかどうかは使い手の頭次第だ。例えばこういう使い方もできる」


 そう言ってお兄ちゃんは画面上の方の日付のタブを過去七日間のデータに変更した。


「このデータが何?」


「お前、普段小説を投稿する時にどんな時間帯に投稿するのがいいか考えたことはないか?」


「うーん、なんとなく。やっぱり昼間は学校だから、おうちに帰ったくらいの時間がいいかなぁと思ってるよ」


「フフ……そんなお前に朗報だ! 実はこのデータを見ると、どの曜日のどの時間帯が検索数が盛り上がっているかが分かるのだ! つまり、どの時間帯に投稿すればユーザーが多い時間帯なのかがざっくりと分かるというわけだ」


※ただし、あくまで参考データとしてです。


「ええーっ! そんなの知ってたらもっと早くに使ってたよう! でも知ってる割に作者はいつも適当な時間に投稿するよね」


「それは作者が天性のせっかち人間だからだ。定期更新日時が決まっていない限り、書き終えたらとっとと公開したいらしい。また、最近はユーザーが増えてきて新着に載っていられる時間も短いから、あまり意識してもしょうがない面はあるな」


「他にはどんな使い道があるの?」


「そうだな……お店をやっている人なんかには便利だろうな。例えば『冷やし中華』。Googleトレンドによると、検索ボリュームが盛り上がってくるのはだいたい4月末頃からのようだ。この辺りの時期から店頭に冷やし中華を置くと売りやすいかもしれないな」


「なるほどー! そうやって考えたら色んな使い方ができそうだね! 色んなキーワードのトレンド調べてみよっと」


「はっはっは、励みたまえよ」


「そういえば、サーバーがダウンしたらどうやって復旧させてるの?」


「まず早朝だろうが深夜だろうが担当者に連絡が行くだろ、そしたらその担当者は恋人とデート中だとしても即刻会社に戻って、まずは部署の責任者に連絡をする。それからサーバーを管理している外部の協力会社なども巻き込んで原因を特定し、復旧作業を行う。かかる時間はだいたい数分から数時間。それだけでは終わらず、翌日出社したら今度は原因説明のための書類の作成に追われる。ひどい場合は役員も同席する査問会へ呼び出しだ。イメージはエヴァンゲリヲンのゼーレ会議さながらさ。……さて、僕が言いたいことは分かるな?」



 お兄ちゃんは眼鏡の奥でにっこりと微笑んだ。私は次のバルス祭り、不参加にしようと思います。




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作者のプチ補足(9)


今回は近況ノートにて大久保珠恵さんよりご質問いただいた内容を派生させてみました!


……というか、まだ質問に答えられていない。結構難しめの内容でしたので、前提説明があってからの方が分かりやすいかなと思い、プチ補足の方に回させていただきました。


ご質問いただいた内容はプロキシについてです。インターネットをやっていて「プロキシが〜〜」という注意書きが出てきてなんだかよくわからないからとりあえず無視、みたいな経験ないですか?


まずはご安心を。一般生活でインターネットを使う分にはプロキシは知らなくても困るものではありませんし、おそらく導入する必要もないでしょう。


本文で出てきた例をそのまま使います。プロキシとは、回転寿司屋であなたをコンシェルジェ的にサポートしてくれるハイスペック店員だと思ってください。もしあなたがかつてアナゴを頼んでいたとすると、それを店員が覚えていてあなたがベルトコンベアに手を伸ばす前にアナゴを持ってきてくれるのです。


……つまり何が言いたいんだってばよ?


プロキシとはユーザーとサーバーの間に入りデータの受け渡しを代理で行ってくれます。一見データ処理が遅くなってしまうようですが、プロキシはユーザーが閲覧したデータを一時保存してくれる(キャッシュ)ので、直接サーバーにデータを呼び出すより早かったりします。また、有害サイトへのアクセス制限をしてくれるといった機能があります。


しかしやはり前述の通り、普通にインターネットをして楽しむ分にはわざわざ導入する必要はありません。私もこれを機にトライしてみましたが、やや面倒くさそうだったので断念してしまいました……。どうしても気になる方は無料プロキシサーバを紹介しているサイトを見つけましたので、こちらをご参照までに。


http://www.cybersyndrome.net/


大久保さん、これで回答になりましたでしょうか……?(どきどき)


まだまだ質問・ネタ振り募集中なので、お兄ちゃんに聞きたいことがある方は近況ノートにてお待ちしております!




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