第6話 それはネトストではない、リマーケティングだ!
「教えてお兄ちゃん!」
「なんだい、妹よ」
「最近、インターネット上でストーカーがいるみたいなの……」
「ほう、どんな子が被害に遭っているんだ?」
「ちょっと、デフォルトでわたしを被害者候補から外すのやめてくれないかなぁ」
「まさか被害者はお前なのか? 勘違いだろ。Twitterでは一人称”俺”で通して『
「ななななんでそのことを! ってそうじゃなくて、これが証拠なんだから--!」
わたしはお兄ちゃんにスマホの画面を見せつけた。そこには最近わたしがオンラインショッピングサイト・
「わたしが買ったものだけじゃなくて、次に買おう思ってたものまで表示されてるの……! なんか、見透かされてるみたいで怖いよお兄ちゃん……」
「なるほどな、お前ついに薄い本にも手を出し始めたんだな」
「もう、そこじゃなくて!」
焦るわたしとは裏腹に、お兄ちゃんはいたって冷静だ。わたしがこんなに怖い思いをしてるというのに、分かってくれないんだろうか。
そう思っていたら、お兄ちゃんはふっと笑って言った。
「安心しろ--これはネトストではない、リマーケティングだ!!」
「リマーケティング?」
「あるいはリターゲティングとも言われるな。意味はどちらも同じで、一度サイトを訪れたユーザーに対してもう一度そのサイトの広告を表示する技術のことだ」
「うーん、なんでわざわざそんな技術があるの?」
「目的は様々だが、一般的にはリマインドの役割だな。旅行業界で例えてみようか。北海道旅行に行きたいとして、インターネット上でどのホテルを予約するか調べたりするだろ。しかしなかなかその場で即決というわけにはいかなかったりする。カップルで行く場合は彼女の意見を聞きながら決めないといけないからな。勝手に決めてしまうと後からアメニティがどうだの、ドライヤーが部屋にないとダメだのとクレームをつけられることになるし」
「あれ、お兄ちゃん彼女いたっけ?」
「いいか、あくまでこれは例え話だ。というわけでユーザーは実際にホテルを予約する前にサイトを離れることが多々ある。だが旅行サイトと言っても世の中には幾つも似たようなサイトがあるから、もう一度検索する際に別の旅行サイトに行ってしまうこともあるだろう。そんな時、自分のサイトに呼び戻すのに便利なのがリマーケティング広告だ」
「でもそれって結局ストーカーと似たようなものじゃん」
「リマーケティングは個人を特定するものではないよ。『うちのサイトで北海道のホテルを探している人』というようにカテゴライズされたターゲットグループに登録されているだけだ。広告を出している側には相手の顔や名前は見えていないから、過剰に不安になる必要はない。どうしても不快なら、第1話と同じやり方で
「(あ、出たPV稼ぎ)」
「ちなみにリマーケティングには静的と動的の二種類があるんだ」
「せ、せいてき!? そんなやらしい広告手法が……!」
「何を言っている。静的の”せい”は”静か”の方だよ。インターネット業界ではよく静的と動的という言葉が使われるんだ。まぁ業界に入りたての新人は単語を聞くたびにいちいちビクッとしてしまったりするがな」
・静的:固定の、といった意味で使われる。
・動的:ユーザーの行動情報に基づき広告やサイト表示が変動する場合に使われる。
「この二つの何が違うの?」
「静的リマーケティングは、見た目的には普通のバナー広告とほぼ変わらない。特徴としては一度自分のサイトに来たユーザーにもう一度バナー広告を見せられるということだ。効果的な使い方は、キャンペーンや割引情報のバナーを見せることだな。ほら、こういう経験はないか? ファミレスのサイトを見た後に別のサイトを見ていたら、広告枠に期間限定メニューのバナー広告が出てきたりとか」
「あー、そういうの見たことあるかも! じゃあ動的リマーケティングは? どういうやつなの?」
「それこそお前が最初に見せてきたやつのことだよ。そのユーザーがどんな商品を閲覧したかとか、その商品を見ている人にオススメの商品は何かとかがデータとしてためられていて、広告枠にはそのユーザーに合った広告が出されるのだ。オンラインショッピングサイトや旅行サイト、不動産系のサイトはよくこのタイプの広告を使っているぞ」
「そうだったんだ。とりあえずストーカーじゃなくて安心したよ……」
「ちなみに最近のWeb広告技術はどんどん進化していて、メールアドレスやツイートの内容、いいねしている投稿のジャンル、検索したことのあるキーワードに応じてバナー広告を表示をすることも可能だ」
「なるほど……最近広告に追いかけられているような気がしたのはそういうことだったんだね」
「あまりユーザーを不愉快にするような広告は好ましくないとは思うが、以前よりも自分の興味のある情報に出会いやすくなっていると思えばユーザー側にも決して悪い話ではあるまい」
お兄ちゃんはそうだ、と言って自分のPCを開いた。
「そう言えばお前にはまだオプトアウトの方法を教えていなかったな」
「オプトアウト?」
「あまりにも関心のない広告が表示されて不愉快な場合、それを表示しないようにできる機能のことだ。グーグルを使っているのならこのページを開いてみなさい。お前がどんなユーザーにカテゴライズされているかが分かるぞ」
▼Google 広告の管理ページ
https://www.google.com/settings/u/0/ads/authenticated
「うわっ! “興味や関心”欄、本当にわたしが普段検索したりすることばっかりになってる……!」
「わりと精度高いだろ。ちなみに作者は小説の資料集めにあらゆるサイトを見ているせいで、“興味や関心”欄がフード・音楽・ゲーム・書籍・フィットネス・家電・金融……とカオスなことになっているそうだ」
「自分もWeb広告やってるくせになんて鬼畜な! でも仕組みが分かれば怖くないね。ありがとお兄ちゃん」
「はっはっは、励みたまえよ。ところで、お前に一つ聞きたいんだが」
「ん? お兄ちゃんが質問なんて珍しいね。何?」
「LINEの既読スルーってそんなに罪なのか? 僕はただメッセージを確認して後から返そうと思っているだけなんだが……」
「ちゃんと返すなら別にいいんじゃない」
「彼女曰く、LINEの返信を返さないうちにFacebookやTwitterを更新するのが許せないそうなんだ。よく見てるよな。僕は別にそれぞれに優先順位をつけているつもりはないんだが」
「うわぁ……お兄ちゃんの彼女、こわっ……」
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作者のプチ補足(6)
リマーケティング、仕組みを知らないとちょっと不気味かもしれないですね。なんで自分が見てた商品のことを知ってるんだ! って驚かれる人もいるんじゃないかと。広告を出す側には個人を特定できないようになっているので、そこはご安心いただきたいです。その商品のページに直接飛べるので、ブックマーク代わりになって結構便利な広告ですよ。
ネトストは怖いですね。何が怖いって、今回の話を書く上でWebで調べ物をしていたら、当たり前のように「ネトストじゃないもん! 彼氏の浮気をチェックする方法」みたいなタイトルの記事があったことです。おいおいまじか。センテンススプリングだな。
インターネットを介する以上、誰にも見つからない場所などないのだと思っておいた方がいいのかもしれませんね。
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