第7話 検索結果の順位は正義とは限らない!
「教えてお兄ちゃん!」
「なんだい、妹よ」
「今『東京駅 レストラン』で検索してたんだけど、グルメ情報サイトが多すぎてどのサイトが一番良いか分からなかったんだよね。やっぱり検索結果で一番上のサイトを使うのが良いのかな?」
「(『東京駅 レストラン』だと……? 女子高生のくせにそんなキーワードで検索するとは。オフ会でもやるのか? いや、だとしたら新宿とか池袋だよな。東京駅のレストランといえば少しハイソなイメージだ。まさか、年上の彼氏でもできたのか!?)」
「おーいお兄ちゃん、帰ってきてー」
「悪い悪い。SEMの話だったな」
「えっ……おおおお兄ちゃん、わたし、まだその領域にはっ……!」
「どうしてEを抜くんだEを。お前の頭の中は常にピンク色だな。SEM(Search Engine Marketing)、検索結果に関するマーケティングのことだ」
「検索結果のマーケティング?」
「あえて別の話をするが……お前、自分が投稿している小説サイトのランキングは信用しているか?」
「えっそんなこと言っちゃっていいの?」
「何か問題があるのか」
「作者の立場的に……」
「大丈夫だ。正直に言ってみろ」
「うーん、あんまり参考になるとは思ってないかなぁ。色んな人に読まれている作品が上位になるのは分かるけど、それが自分の好みにはまるかって聞かれたら正直そう思えない作品もあったり……」
お兄ちゃんは腕を組んでうんうんと頷く。
「その感覚が普通だ。定量的なものでない限り--世の中のランキングに絶対正義なものなど存在しないのだ!」
「定量的?」
「数値で測れる指標のことだ。例えば、売上ランキング、発行部数ランキングとかだったら数字に嘘はないから明確なランキングになるだろ。しかし定性的--つまり、面白さや便利さといった人によって価値基準が異なるような指標でランキングを作ろうと思うと、それは途端に難しくなる」
「なるほど……」
「例えば小説投稿サイトの場合、評価数やPV数、文字数、小説フォロワー数、更新頻度など様々な変数(ものごとに影響を与える、変動しうる要素のこと)が考慮されてランキングが作られているだろうが、それでも誰もが納得する『面白さのランキング』を作るのは不可能に近いのだ」
「じゃあ仮にランキング一位になったとしても喜んじゃだめってこと?」
「いや、そういうわけではない。作者の持論を借りると、ランキング一位になるにはそれなりにランキングロジックに設定された変数をクリアしているということだから、それはそれで自信を持てばいいし、ランキングに全く載らなかったとしてもそれはイコール面白くないというわけではないのだから、悲観する必要はない、ということだそうだ」
「相変わらず無駄にポジティブでご都合主義な作者だね!」
「というわけで、本作はエッセイコンランキングでまさかの20位以内に入ったから、焦って最新話を更新しているのだ」
「レビューに『失速感www』って書かれないように、頑張ろうねお兄ちゃん!」
「……さて、本題に戻そう。検索結果というのにも同じロジックが当てはまるのだよ。GoogleやYahooなどの検索エンジンはできる限り『質の良いサイト』を上位表示しようとしているが、人によってその受け取り方は違うからランキング1位=一番便利なサイトだと思う必要はないのだ」
「そうだったんだ……! 今まで検索で一位のサイトが一番使いやすいのかと思い込んでたかも」
「もっと言うと、インターネット業界の人間たちはどうすれば『質の良いサイト』として自社サイトのランクを上げられるかを日々研究して対策を打っている。検索結果とはその対策が上手くいったサイトほど上に来やすいという、人為的なランキングになっているのだよ」
「世の中にはそんなお仕事もあるんだね。検索結果で上位になるための条件って、具体的にどんなのがあるの?」
「例えばサイト内の構造がユーザーにとって分かりやすいようきちんと整理されていることだったり、信頼のあるサイトからリンクを貼られていたりすることだな。最近はスマホを使うユーザーが増えてきたから、スマホ対応されたサイトかどうかも重要になってきているらしい」
「やっぱり順位が正義じゃないとは言っても、ランキング上位のサイトは使いやすいもんね。もし検索結果で上位にならなかったらそのサイトはほとんど見られないのかな?」
「いや、そういうサイトにもチャンスはある。リスティング広告を使えばいいのだ」
「リスティング広告?」
「ユーザーが検索したキーワードに応じて出せる広告のことだよ。ほら、今お前が開いている検索結果の上二つには『広告』と記されているだろ。これは自然な検索結果ではなくて、企業が出している広告なのだ。競合が強くてなかなか検索上位を取れない場合は、こうしてリスティング広告を出してユーザーの目に触れるようにするのだよ」
「これ広告だったんだね。普通に検索結果だと思ってたなぁ。でもここで広告出されたら、本来検索結果1位だったサイトは困っちゃうよね」
「ああ、だから広告費が潤沢にある業界ではどのサイトもこのリスティング広告枠にこぞって出稿したがる。まさにレッドオーシャン。クールな検索結果の裏には企業同士の熾烈な争いが隠れていたりするのだ。ちなみに広告費の仕組みは第5話のバナー広告と近く、クリック単位で広告費が発生しGoogleやYahoo!の収入になる仕組みだ」
「(お兄ちゃんの前ではこの広告クリックしないでおこ……第5話みたいに怒られるかもしれないし……)」
「ん、どうした妹よ」
「なななんでもないよ! じゃあ検索結果1位のサイト以外も色々見て比較してみようっと」
「はっはっは、励みたまえよ。ちなみにそのレストランは誰と行くんだ? 彼氏でもできたのか? もしかして前に話していた家庭教師か?」
お兄ちゃんが疑うような目で尋ねてくる。私はムッとしながら答えた。
「違うよー。お兄ちゃん今度誕生日でしょ。家族でご飯食べに行こうかってお母さんと話してて」
「なっ……本作はただのコメディじゃなかったのか……! 僕は今、全力で感謝しているッ……! この回まで連載させるよう作者のモチベーションを上げてくださった読者の皆様にッ……!」
「う、うん。感謝は大事だよね!」
涙を流しながら喜ぶお兄ちゃん。お母さんがたまたま町内会の抽選でお食事ギフト券を当てたからなんて、口が裂けても言えません。
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作者のプチ補足(7)
ランキングシステム、カクヨムに投稿する人なら気にならない人はほとんどいないでしょう。上位になれば嬉しいし、載らなければ悲しい。でも前述の通り、そこまで一喜一憂する必要はないのだと思います。だって小説の面白さは定量的なものではありませんから。ランキングに載らないからと小説を削除してしまうのはとても勿体無い。Webに上げておきさえすれば、誰かにヒットする可能性はあるのです。いつかその日が来るまで気長に待ってみませんか?
ランキングとは便利なものです。何がいいか一発で見て分かるから。ですが、それが定性的な指標のランキングなのであれば、まずは疑ってみてください。可能であればどういうロジックでランキングを出しているかを調べることです。
例えば、優良企業ランキングみたいなやつが定期的に発表されていたりしますよね。「優良企業」と判断するための変数は何でしょうか? 売上が安定していることでしょうか。従業員満足が高いことでしょうか。ユーザー満足が高いことでしょうか。そしてそこに設定されている変数は、あなた自身の価値観とマッチしているでしょうか?
Webの検索結果も同じことが言えます。例えば飲食店を検索するWebサイトには食べログ、ホットペッパー、ぐるなび、Rettyなどいろんなサービスがあります。どのサイトが一番いいかは検索結果が決めることではなく、あなた次第なのです。ぜひいろんなサイトを比較してみて、デザインやコンセプトで気に入ったサイトを使うようにしてみてください。
ちなみにアプリストアの検索結果はWebに比べるとさらに信用性がなかったりします。というのも、スマートフォンが普及し始めたのはここ最近のことなので、どういう変数を設定してどのアプリを上位表示すればいいかというロジックがまだ確立していないからなんですよね。AndroidはバックにGoogleがいるのでApp Storeよりは安定した検索結果だと言われていますが、真相はブラックボックスです。ただ未だにアプリに関してはダウンロード広告さえ打てば順位を引き上げることが可能だったりするので、ランキング上位=良いアプリと言える日はまだまだ先のようです。
……おっと、どこがプチ補足なんじゃこの文量。
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