プロローグ(本編はここから!)
プロローグ ―五年前の出来事―
「助けて……!」
夕焼けに照らされた小学校の教室で、蒼髪の少女が泣いていた。
彼女の側には、もう一人の少女。そして二人を取り巻くように、何人もの男子がいた。
「前から言ってたんだけどさー、
取り巻きを連れた少女が口を開く。
「わ……私は嫌だって、はっきり……」
善峰と呼ばれた少女が反論しようとする。しかし取り巻きの一人が、近くの机を椅子ごと蹴飛ばした。
静かな教室に派手な騒音が響く。その音が善峰を怯えさせ、それ以上喋るのを中断させた。
「おめえの話なんて聞いてねえんだよ」
机を蹴飛ばした取り巻きが冷たく言った。
「うん。善峰さんの返事はどうでもいいの。あたしはね、善峰さんの須王くんに向ける態度を直してって言いたいだけだから」
取り巻きに便乗して、さらに冷徹な言葉を浴びせる少女。
「でもあたしは優しいから、もう一度だけ返事を聞いてあげる。あ、男どもは下がってて。手、出しちゃだめよ」
取り巻きたちが一歩下がる。それを確認した少女は、善峰に問いを投げた。
「それで? もう須王くんに馴れ馴れしく近寄らないって、約束してくれる?」
「………………」
質問を聞いた善峰は、返事をためらう。その様子に苛立ったのか、少女が足をドンドンと鳴らす。
それでも善峰は黙り続けていた。
「このっ!」
我慢の限界を超えたのか、少女が善峰の頬を張ろうとした。
善峰はその手を左手で遮り、そして答えた。
「絶対に嫌! だって私と
「ふざけんな!」
少女は声を荒らげ、怒りに任せて膝を狙った蹴りを繰り出す。だが足は空を切り、少女はその場に転倒する。善峰が少女の足の内側を蹴り、バランスを崩させたからだ。
「ああもう……コイツやっちゃって!」
少女が叫ぶと、取り巻きたちが善峰を押さえつけた。
「いや……!」
善峰は叫ぶ。が、男子数人がかりによる拘束は、簡単には振り払えない。
「無様ねぇ、善峰さん? あんたら、しばらくそのまま押さえてて。今のあたしマジでキレちゃったから」
少女が取り巻きたちを避けながら、善峰のすぐ近くに立つ。
「お腹なら死なないでしょ? 善峰さん、覚悟してね」
ゆっくりと足を上げ、腹を踏みつけようとする。善峰は覚悟を決めた。
そのとき、声が響いた。
「善峰? どこにいるんだ?」
その声を聞いて善峰は我に返り、そして全力の声で叫んだ。
「助けて龍野君っ!」
「うるせぇな……あんたら、口塞いで」
善峰の叫びに不快感を抱いた少女が、取り巻きたちに告げる。
取り巻きの一人が、善峰の口を手のひらで乱暴に覆った。
しかし善峰は、何故かその手を振りほどこうとはしなかった。
「やれやれ、さっさとお返しをしないとね……」
少女は毒づきながら、ゆっくりと足を振り上げた。
*
「遅いな、善峰……」
放課後を迎えた直後。須王龍野は、この後にやってくるはずの幼馴染を待っていた。
待ち続けてかれこれ一時間半。
「遅すぎだろ……なんかあったのか?」
待ちきれなくなった龍野は、校舎に戻った。最初に探す場所は、自分と幼馴染の教室。
するとざわめきが聞こえた。
善峰がいるかどうかわからない龍野は、とりあえず声をかけてみた。
「善峰? どこにいるんだ?」
返事はない。そう思って移動しようとした――そのとき。
「助けて龍野君っ!」
「!」
間違いない、善峰の声だ。
龍野は声の聞こえた方向に走り出した。
「ここか……ハッ!?」
善峰が男子たちに押さえつけられていた様子を見て驚愕する。
次の瞬間――
「やめろ!」
考えるよりも先に言葉が出ていた。善峰を除く全員が、龍野に視線を向けた。
「
「あら、須王くん……」
「『須王くん』じゃねえ!」
龍野は怒りに任せ、叫び続ける。
「善峰を離せ。でなきゃ二度とお前とは話さねえ!」
「はぁ~…………。少し話をしなきゃね……。こんなことしたくないけどしょうがないか。あんたら、須王くん押さえつけて」
その言葉と同時に取り巻きたちが飛び出す。取り巻きの一人が殴りかかるのを、龍野はわざと受けた。
「効かねぇよ……。てめえら、いい加減にしろ!」
龍野は、己を殴った男子生徒を全力で蹴り上げる。鳩尾に入り、男子生徒はうめき声をあげる。
「全員容赦しねえ……覚悟しやがれ!」
そう叫んだ瞬間、龍野の視界は白に染まった――
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