第16話ヴィーナスの爪

【天然石ショップLapis】


「アゲートはこっち、そこはジェイドね」


「はーい」


サマーセールの商品が揃ったね。


皆んなでディスプレイを始めた。


「ブルーレースアゲートは、涼しげで良いですね」


「そうね。冬のセールの時は、クリスマスカラーのアゲートをつくるのよ」


「にゃは、楽しみですぅ」


だけど、デパートの福引きにうちの商品を出してくれ、って言われたんだよな…どうしよう?


麻友「福引きで当たった人も何かの縁で巡り会ったわけですから、仲良くしてくれると良いですね」


そうだね。皆んな、頑張ってサポートするんだよ。


【bar】


「ああ私、本当に真面目に結婚考えないと、子供も2人は欲しいしな…」


「私も子供は欲しいかな…」


「素子は良いわよ。まだ20代だもん」


「ギリギリですけどねー」


「子供は良いわよ。小さい時は無条件に愛してくれるしね。責任有るけどね」


「美都、一緒に暮らせそうなの?」


「親権取れるように頑張ってるよ」


「天空路さん、結婚する気有るのかな?」


「うえっ?!」


「何よ素子。まだ未練有るの?」


「え?私は…(宴先輩と遊ちゃんが結婚?良いのかな…?私?)」


【天空路家】


「ニャー(美味しい?)」


「ンニャ(美味しい)」


チビちゃん良く食べるなあ。


早く保護しないと、大きくなったら里親探すの難しくなるぞ。


だいぶ慣れてきたから、そろそろ捕まるかな?


【お風呂場】


「ニャー(パパちゃん早く)」


「はあいー」


「ニャー、ニャー(寂しい、早く出て来て)」


「よちよち〜」


【ベッドルーム】


〈遊の足にスリスリするLapis〉


「待ってね〜」


「(早く抱っこして)」


【bar】


「もう1匹の子猫、どうしたかしら?」


「どんな猫?」


「茶色の子で、凄く臆病なのよ」


「息子が猫欲しいって、言ってたな」


「え?じゃあ飼ってあげて」


【デパート】


「ゲーム買って」


「え?この間買ったばっかりじゃない」


「もう飽きちゃったんだもん」


「そんなにすぐに飽きるんじゃ猫飼えないね。生き物なんだから、ちゃんと世話しないとダメなんだからね」


「お父さんが「飼っちゃダメだ」って言うんだ」


「じゃあ、ママと一緒に暮らせるようになるまで我慢だね」


「いつまで?」


「もう少しだから(天空路さんの所のノラちゃん貰うの無理だね)」


【bar】


「それでさ、これ、宴にあげるわよ」


「パワーストーンじゃない。天空路さんとこの?」


「そうみたい」


「「そうみたい」って」


「息子がデパートの福引きで当てたのよ」


「サードオニキスって石ね」


「説明書入ってるでしょう」


「幸せな結婚、夫婦円満だって」


「だから宴にあげるよ」


「未婚の女性であれば、好ましくない相手から身を守り、正しい相手との結婚をサポートする。へー、良いじゃない。ありがとう」


「ギリシャ神話が書いて有りますよ。アフロディーテの爪?アフロディーテって?」


「ヴィーナスの事じゃない?」


「詳しくは、天空路遊のパワーストーン辞典をご覧くださいだって、遊ちゃんたら」


「健康にも良いみたいね」


「(天空路さんの作ったパワーストーンで、天空路さんと結婚する事になったりして)」


【駅前】


「天空路さん。今から昼休み?」


「うん」


「ねえ、ちょっとだけ、クリスタルのご飯買いに行くの付き合って欲しいんだけど」


「クリスタル?」


「子猫の名前」


「クリスタルにしたのか。あれ?そのブレス」


「これ、天空路さんが作ったのよね?美都に貰ったのよ」


「へー、美都さんが当てたのか」


「健都君だって。子供って福引きとか当たるわよね」


「無欲だからね」


【ドラッグストア】


「オヤツとかどれが良いかしら?」


「こういうの喜ぶけど、今からあげてたらワガママ猫になっちゃうよ」


「そうなんだ…」


「お勧めは、煮干しと鰹節。これは今から食べさせた方が長生きすると思うよ」


「じゃあ、それにするわ」


「減塩が良いね」


「人間の食べ物は、欲しがってもあげちゃいけないのよね?」


「うん。塩分多いからね。人間には少しでも猫には凄い量になるから」


「わかったわ」


「最初からあげなければ、欲しがらなくなるよ」


【ひまわり畑】


「お母さん、ただ今」


「ああ宴、お帰り。暑かったでしょう?」


「荷物置いて来たら手伝うわよ」


「今日はもう良いから、家で涼んでなさい」


【寿家】


「おばあちゃんただ今」


「宴、一体いつになったら結婚するんだい?」


「いきなりその話し?」


「「あんたんとこの孫は、32にもなってまだかね?」やら「寿さんて、おめでたい名前なのにね」なんて言われるんだよ」


「だから嫌よね、おまけに名前は宴だし」


「お爺ちゃんがつけたんたから、文句ならお爺ちゃんに良いなさいよ」


【和室】


〈仏壇にお線香をあげる宴〉


「お爺ちゃんただ今(待っててね、ちゃんと結婚してみせるから)」


「おお宴、帰って来たな」


「博久、何か用事?」


「お前に会いに来ただけだっぺ」


「あらそ」


「横浜には良い男居たか?」


「居るわよ」


「ほう、お前そいつと付き合ってんのか?」


「まだ…そんなんじゃないけど…」


「まあ良いよ。売れ残ったら俺が嫁に貰ってやっぺ」


「(幼馴染みに今更ときめかないのよね。あーあ…私も素子みたいに、天空路さんの家に行く口実無いかしら?)」


【天然石ショップLapis】


「オーナーって、浴衣とか着せられますぅ?」


「うん、着せられるよ。何で?」


「お母様が踊りの名取って聞いたから、もしかしてって思ったんですぅ」


…???


「今日花火大会有るんですよねぇ」


「ああ、そうか」


「浴衣買ったんですけどぉ、着れないんですぅ。着せてもらえますぅ?」


「僕が着せるの?」


これはどうしよう?


女の子に着せるのはな…


「ダメですかぁ?」


「良いけど…」


「うわぁ、ありがとうございますぅ」


そんなに真剣に頼まれたら、嫌って言えないよね。


「じゃあ、僕の家に浴衣持っておいで」


「はいっ、それじゃあお邪魔しますぅ」


【天空路家の和室】


「こっちにいらっしゃい」


「はぁーい」


「遊、外に出てなさいね」


「はいはい」


僕も着せられるけど、肌襦袢になったりするからな、ここはお母さんに任せよ。


「裾除けが無いわね、ちょっと待ってね…これ、私のだけど良い?」


「お借りして良いんですかぁ?」


「良かったら使うけど」


「じゃあ、お借りしますぅ」


「遊ちゃん、見てご覧なさい。女の子は可愛いわね」


「ありがとうございましたぁ」


「いえいえこちらこそ、楽しかったわ。遊なんて男の子でしょう。浴衣だって自分で着るし、こういう楽しみは無いもの」


お母さん嬉しそうだね。


最近は、春陽ちゃんも自分で着るようになったからな。


「意外と苦しくないんですねぇ」


「苦しくないでしょう?私が着せたら着崩れないわよ」


「歩きにくいですぅ」


「こうして、一度足を割ってご覧なさい」


「お兄ちゃん。私達も花火大会行こう」


「あれ?春陽ちゃんは浴衣着ないの?」


「今年は作る時間無かったの」


「お2人も行くんですかぁ?向こうで会うかもですねぇ」


なんだか行く事に決定みたいだね。


春陽ちゃん、この春から頑張って働いてくれてるし、そのぐらいお付き合いしますか。


【花火大会会場】


「久しぶりね、お兄ちゃんと一緒に来たの」


「そうだな」


高校生ぐらいまでは来てたけど、春陽ちゃんが大学に入ってからは一緒に出かけなくなったから、花火大会も来なかったもんね。


でも、こんなに可愛い子が本当に僕の妹だったりしたら、心配で仕方ないだろうな。


いや、実の兄じゃないけど、やっぱり色々心配しちゃってるよな。


何の心配だ?


基本的に僕は悪い事は考えない方なんだ。


まだ起きてもいない事を「もしそうなったらどうしよう?」と心配するとネガティブなエネルギーになるからね。


僕はヒーラーだから、ネガティブな波動を出してはいけない。


石と向き合う時や、レイキをする時は特にそうだね。


アファメーションするしね。


例えばレイキをする時、施術する人のその部分にシンボルを書いてマントラを唱えたら、アファメーションする。


「胃の痛みが取れました、ありがとうございました」とかね。


完了形で言うんだ。


新しい石を手に入れた時も、一緒に瞑想して、なりたい自分をイメージしたら、アファメーションする。


そうやって仲良くなっていくんだよね。


自分で作っても、少しエネルギーが強いと感じる時も有る。


そういう時は、少しずつゆっくりと仲良くなっていくんだ。


石は人に悪い事はしない。


でも、石によっては持つ人を選ぶと言うか、自分と合わない人のサポートを嫌がったりするよな。


石の個性と正反対の人とは仲良く出来ないよね。


何か本当に生き物みたいだ。


他人を傷つけたりしても自分さえ良ければ良いというような願いは、例え叶ったとしても悪い方向に行ったりする。


欲張って手に入れても満足出来なくて、もっともっと求めて破滅して行ったり。


「貴方は店にたくさん石が有るから、何でも願いが叶うでしょう」なんて言われる事が有るけど、それは商品で僕の物じゃないから違うんだよね。


人間に例えるとクラスメイトみたいなものかな?


自分の物になった石は、友達や親友。


ただのクラスメイトより、友達や親友と一緒に居た方が楽しいし、色々助けてくれたりするよね。


石のサポートもそれと同じだな。


だから、自分の石を手に入れたら、友達と心を通わせるように思いを伝えるんだ。


「お兄ちゃん、始まるわよ」


「うん」


花火が上がった!


「綺麗ね」


ふと、そう言う春陽ちゃんの横顔を見ると…


綺麗になったね。

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